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9話・綾村中学校

 

 改めて四人を見る。

 全員学生服を着た中学生だった。

 男子二人に、女子二人。

 ただ、あんまり強そうには見えない。


「俺は高橋幸人、大学生だ」

「僕は岡村健吾です」


 岡村くんがこのグループのリーダーのようだ。

 今時の中学生にしては、少し地味である。

 それだけ真面目な生徒という事か。


「俺は工藤勇気、助けてくれてありがとうございます」

「み、相原雪です、あっ、ありがとうございます!」

「皆川優菜です……ありがとう、ございます……」


 三人からもお礼を言われる。

 礼儀正しい子ばかりで安心した。

 俺の中学時代の同級生は不良ばっかりだったからな。

 うう、思い出したくない暗黒の時代……


 て、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 この子達は多分、綾村中学校の生徒達だ。

 中学校について一応聞いておく。


「君達、綾村中学校の生徒?」

「はい、そうです。今は避難所になってます」

「やっぱりそうか。よかったら、俺をそこへ案内してくれないか? 道中の敵は、俺が倒す」

「勿論、構いません。皆んなもいいよね?」


 岡村くんの声に、三人共頷く。

 これで余計なトラブルを一つ回避出来そうだ。

 見ず知らずの男がいきなり中学校へやって来る……警戒されて、最悪入れてもらえない事も考えていた。


 けれど岡村くん達が案内してくれるのなら別である。

 無用なトラブルは避けるべきだ。


「ところで岡村くん達は、何をしていたんだ?」

「僕達は物資の調達です。何もかも足りなくて……」


 歩きながら聞く。

 綾村中学校は確かに避難所に指定されている。

 ただし、あくまで元はただの中学校。

 大した設備は無く、備蓄の水や食料もあと僅か。

 それでも現在、約百人程の避難民がいるとか。


 百人か……そりゃ何もかも足りなくなるな。


「最初は先生達だけが外に出て行ってたんですけど、もうそれじゃあ間に合わなくて」

「君たちも苦労してるな……」

「こんな世界じゃ、皆んなそうですよ」


 そう言ってため息を吐く岡村くん。

 彼は相当疲れているようだ。

 物資調達の為、慣れない戦いに身を投じる。

 緊張が体力の消耗を倍増させているんだろう。


 無論、疲れているのは彼だけじゃない。

 工藤くん、相原さん、皆川さんも疲労の色が濃く、歳に似合わないため息や眉間にシワが寄っていた。


「……そんな大変な時に、俺が邪魔していいのか?」


 聞くだけで避難所の悲惨さが伝わってくる。

 ギリギリのところで踏ん張っているのだろう。

 そんな時、俺が行ってもよいのかどうか。


「高橋さんも、避難しに来たんですよね?」

「まあ、そうだな」

「だったら問題無いですよ、きっと。先生達も、避難民は常に受け入れるって言ってましたし」

「それに高橋さん、凄く強そうじゃないすか!」


 岡村くんと工藤くんが言う。

 割と大丈夫そうだ。

 とりあえず、中学校に居る大人達に話を聞くか。


「あ……バイク、忘れてた」

「バイクですか?」

「まあいいや、後で取りに行くよ」


 バイクを置きっぱなしにしていた事に気づく。

 けど、今は一刻も早く中学校へ合流したい。

 なので回収するのは後回しでいいだろう。

 荷物はちゃんと手元にあるしな。



 ◆



 綾村中学校は普通の公立中学だ。

 校門があり、校庭があり、その先に本校舎。

 あとは学校によって体育館とか、プールとか。

 別段特筆する事の無い、平凡な中学校だった。


 ただ、校門には見張りの大人が二人ほど居る。

 彼らは俺の姿を見て、少しだけ身構えた。


「岡村班、戻りました」

「全員無事か?」

「はい、怪我もありません。それで」

「分かってる、後ろの彼の事だろう?」


 ジャージ姿の男性が俺を見る。

 何となく教師のような雰囲気を感じた。


「高橋幸人です。ここが避難所と聞いて、来ました」

「高橋さんは、危ないところを助けてくれたんです」

「そうなのか……分かった、通そう。木浦(きうら)先生」

「はい、私が案内します。岡村君達は、いつも通り体育館へ向かってください」


 木浦と呼ばれた、眼鏡の若い男性が近づいて来る。

 岡村くん達とは一旦離れるようだ。


「決まりですので、校長先生と会ってもらいます。この避難所の総監督役です」

「はい、分かりました」


 校長先生……懐かしい響きだな。

 意見する意味も無いので、黙って木浦さんについて行く。

 校庭には幾つかテントが張られている。

 中学生は勿論、近隣住民の方ともすれ違う。


 数分歩いて校舎に着く。

 本来校舎内は土足厳禁らしいが、いつでも逃げられるように靴を履いたままそのルールを廃したとか。

 大学は靴のままなので、その方が親しみやすい。


 一階の廊下に入ると、そのままとある部屋の前へ。

 扉には校長室と書かれていた。

 木浦さんは扉に数回、ノックする。


「校長先生、新しい避難民を連れて来ました」

「どうぞ、入って来てください」

「失礼します」

「し、失礼します」


 何だか中学生になった気分だ。

 大学だと、教員とは余り話さない。

 こういう部屋に入る事も稀である。

 少なくとも俺は、まだ一度も経験したことない。


 校長室の内装は品の良い、綺麗なものだ。

 派手過ぎず、地味過ぎず。

 部屋の中央にはソファと机があり、更にその先はこの部屋の主人の物と思われるデスクがある。

 当然、そこには一人の男性が座っていた。


「彼が新しい避難民です、名前は––––」

「高橋幸人、大学生です」


 サクッと自己紹介をする。

 校長先生は白い髭を生やした高齢の方だった。

 けれど、年寄り特有のオーラは感じない。

 若々しい、覇気のある雰囲気だ。


「おはよう。私がこの避難所の責任者、三日月次郎です」


 三日月、次郎。

 それが校長先生の名前のようだ。


「君もここまで来るのに、大変だったろう」

「まあ、確かに……色々あって、大変でした……」


 歯切れ悪く告げる。

 どうしても、熊野さんの件を思い出してしまう。

 もう、あんな思いはしたくない。

 同時にあれが、俺の新たなスタートのきっかけだ。

 忘れるつもりなんて、最初から無い。


「……どうやら、ただの若者じゃなさそうだ」

「それは、どういう意味ですか?」


 三日月さんはジロリと俺を見る。

 そしてニヤリと笑った。

 ただ、不思議と不快な気持ちにはならない。

 品定めというより、驚いている……?


「私は武道を嗜んでいてね。君には武道の達人と同じ、似たような雰囲気が流れている」

「俺が? まさか」


 武道なんて、人生の中で一度も触れたことすらない。


「武道の技術ではない、心の事だ」

「心、ですか」

「君は小さくない覚悟を宿している、違うか?」

「……はい、覚悟なら、既に」


 この人……強い。

 何故だか分からないが、悟る。

 本能のようなものが訴えかけてくるのだ。


「ところで、君はステータスについて知っているか?」

「それなら知ってます、レベルも上がってますし」

「成る程……」

「高橋さん、失礼ですがレベルは幾つですか?」


 木浦さんが尋ねてくる。

 嘘を言う必要も無い、俺は正直に答えた。


「確かレベル9です」

「レベル9……!? ほ、本当ですかっ!」

「は、はい。偽っても俺が実戦で死ぬだけですし」

「校長! これは……」

「安心しろ、言わなくても分かっている」


 何だか凄く興奮している木浦さん。

 三日月さんは瞳ギラリと輝かせていた。

 レベル9って、そんなに高いのか?

 比較対象が無いから相変わらず分からない。


「高橋君、君に避難所運営の手伝いをしてもらいたい。勿論何かしらの形で対価も払う」

「え!? そ、それはどういう意味で?」

「言葉通りの意味だ。何しろ足りてないのは物資だけではない、それを集める人材も足りてないのでな」


 そういえば、岡村くんも言ってたな。

 物資が足りなくなって、生徒も外へ行くようになったと。

 協力するのは構わない、寧ろするつもりだった。


「俺でよければ、手伝いますよ」

「おお、本当か!」

「ありがとうございます、高橋さん!」


 こうして俺は、綾村中学校の避難所運営を手伝う事になった。

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