8話・一週間後
オーガ襲撃から一週間が経つ。
俺はその間、ひたすらにレベルを上げ続けていた。
初日でコツを掴んで以降、上手くやっていけてる。
モンスターについても分かった事が幾つかあった。
多くのモンスターは単独行動をしている。
群れを作るのは、そういう習性のある種族のみ。
そしてモンスター同士も結託していない。
これはモンスター同士が争っているのを何度も見た事があるから、まず間違いない確定的な情報。
正直、これは大いに助かっている。
例えモンスターに囲まれても、同種の群れでなければ勝手に争い初めて自滅する事も多々あった。
まあ考えてみれば、人間だってずっと争い続けている。
モンスター同士が争うのに、何ら不思議は無い。
あとは、魔石について。
これは魔力の代わりになると分かった。
魔力を使うスキルを新たに習得出来たのだが、足りない魔力を魔石で代用する事が出来る。
ただ、魔力を使い切ると魔石は消滅してしまう。
要するに電池みたいなものだ。
他にも用途があるのかもしれないが、俺には分からない。
なんて感じで、情報もそれなりに集まってきた。
なのでそろそろ行動を起こそうと思う。
熊野さんの言葉を思い出す。
彼は、中学校へ行けと言っていた。
遺言とも取れる最後の言葉。
一週間も経てば、流石に自宅待機が無意味と気づく人も大勢いる事だろう。
そういう人達の避難所として機能している筈。
数は力だ、皆んなで力を合わせれば……
見ててください、熊野さん。
貴方がくれた命は、絶対に無駄にはしません。
必ず、意味があったと証明します。
◆
「……もう、朝か」
朝の陽射しが顔を照らす。
這うように寝袋を出て、まずは時間を確認。
時計の秒針は八時を示している。
丁度良い時間帯に起きれたな。
目覚まし時計などは、やかましい音が周辺のモンスターを惹きつける可能性があるので設置していない。
最近は体内時計の正確さを調整している。
時計が壊れた時、困るからな。
直せる技師が生存しているかも怪しいし。
「ふあ、あーあ」
大き目のスーツケースを開く。
中にはビッシリと水や食料が詰め込まれている。
これが、俺の一週間の成果だ。
切り詰めれば一月は保つ。
それだけ集めて一月しか保たない、とも言える。
余裕のある時間なんて、一秒足りとも無い。
常にメリットのある行動を心がける。
そうでないと、生きるのが本当に難しい。
明日の心配をせずに安眠を出来るのはいつだろう。
毎日毎日、不安と焦燥感に駆られる日々。
終わりの見えないパズルを解いてみるみたいだ。
やっぱり、一人では限界がある。
そろそろ集団に属した方が良い。
勿論、集団に属せばデメリットも付いてくる。
しかしそれを差し引いても……一人で居るより、集団で居る方が利益がある、それが俺の結論だ。
まず単独だと、戦闘時の緊張感が倍増する。
カバーする仲間がいないので、僅かなミスが命取り。
レベル上げも一苦労だ。
あと、俺は遠距離攻撃の方法に乏しい。
近接戦ならそれなりに自信はあるが……
遠距離戦になると、正直かなりキツイ。
俺は自分のステータスを、改めて確認する。
[タカハシ・ユキト]
レベル:9
職業:剣士
体力:16
筋力:21
敏捷:21
魔力:16
精神:16
【スキルスロット】
・汎用剣術
・モンスターキラー
・索敵
・
筋力と敏捷が20を超えた。
そして新たなスキル、索敵。
レベル5になったと同時に習得した。
これがかなり強力で、発動中は魔力が徐々に減るが、名の通りモンスターや人を探す事が出来る。
奇襲、不意打ちに大変役立つ。
あとはスキルスロットも追加された。
これで合計四つ。
空きがあると不安に思うのは、俺の性分かな。
とまあ、こんな感じでレベリングは順調だ。
比較対象が無いので、強いのか弱いのか分からない。
少なくともモンスター戦では戦えている。
それも、相手を選んでいるけど。
当たり前だがモンスターにも個体ごとに強さが違う。
ゴブリンは弱めのモンスターだが、先日出会ったリザードソルジャーはかなりの強敵だった。
レベル8の時に戦ったが、ギリギリの辛勝。
出来れば余り、戦いたくないモンスターだ。
とは言えやはり、経験値は強いモンスター程多い。
リザードソルジャーを倒してレベル9へと上がった。
時期を見てまた戦おう。
注意したいのは同種でも強さにバラつきがあること。
例えば同じゴブリンでも弱い個体、強い個体がいる。
モンスターにもレベルがあるのか分からないが……いや、人間にあってモンスターに無い、なんて都合の良い幻想を抱くのはやめよう。
恐らく、モンスターにもレベルはある。
だからこそモンスター同士で殺しあっているのだ。
つまり、弱いゴブリンだからと舐めてかかると、レベルの高い個体に返り討ちに合う場合がある。
どんな時も、油断や慢心は毒になる。
特にこんな世界では、な。
「ふー……」
さて、そろそろ出発しようか。
索敵を使い、モンスターがいない事を確認する。
空き家を出て停めてあるバイクに跨った。
このバイクは三日前に手に入れた物だ。
スーツケースも運べるし、かなり便利である。
不安要素は俺の運転技術だが、最新の注意を払って運転しているから大丈夫……と、思いたい。
エンジンをかけ、いざ出発。
そういえば、バイクのガソリン量も不安だな。
ガソリンスタンドを見つけたら、補充しよう。
そんな事を考えながら、暫くバイクを走らせる。
目指すはこの町の中学校。
確か、綾村中学校、という名前だった筈。
中学校か、懐かしいな。
良い思い出はあんまり無いけど。
一週間経って、町の様子も変わってきている。
ゴーストタウンに近付いているな。
実際は幽霊よりも面倒な輩が徘徊しているが。
なんて風に思いながらバイクに乗って数十分。
綾村中学校の場所は予め地図で確認済み。
あともう少しの距離。
そんな所で、俺は遭遇した。
「あれは……」
道の先で、人とモンスターが戦闘を繰り広げている。
モンスターの方は二足歩行のトリ頭、バードマン。
全身が体毛に包まれており、両手の爪が武器。
背中の翼は退化しているのか、ただの飾りである。
俺が出会ったモンスターの中では、それなりに強い。
対して人間側は四人のグループ。
全員バールや金属バットなどの武器を持っている。
戦いは基本、数が多い方が有利。
これは子供の喧嘩にも通ずる、当たり前のこと。
四対一なら問題無い……と、思っていたのだが。
どうやらそう簡単にはいってないらしい。
何故か人間側が押されている。
「グエエエエッ!」
「っ! く、このっ!」
「お、おりゃあっ!」
バードマンは囲まれないよう、常に動きながら両手の爪による攻撃を絶やさず浴びせていた。
それに対し人間の方は、上手く連携が取れていない。
否、そもそも攻撃が当たってなかった。
力が入っていない、あれじゃ勝てるものも勝てない。
「グエッ、エエエエエッ!」
「ひっ、きゃっ!」
「ぐあっ!?」
四人の内二人が吹き飛ばされる。
もう見てられない!
俺は堪らず飛び出した。
あ、バイクからは降りている。
急ブレーキが怖くて踏めないのだ。
「全員離れろ、俺がやる!」
「え……?」
「グエエエッ!」
俺の声にバードマンまでもが反応する。
だが、遅い。
その程度じゃ俺とは戦えない。
「早い……!?」
「み、見えなかった」
俺はバードマンの懐に既に入り込んでいる。
あとは簡単。
剣で数回、斬り付けるだけ。
バードマンは断末魔すらあげず、絶命した。
緑色の魔石だけが残る。
それを拾いながら、俺は彼らに話を聞く。
「えっと、大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます!」