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7話・レベル上げ

 

 ––––どれくらい、時間が経ったのだろう?


 逃げて、逃げて。

 何とかモンスターの少ない地域に辿り着いた。

 空き家を見つけ、隠れるように屋内へ引っ込む。

 体の震えが止まるまで、ジッとしていた。

 情けないのは分かっている。

 だから、甘んじて受け入れた。


 俺は弱者。

 この世界で生きる事が難しい、敗北者なのだ。

 偶然生きているだけの存在。


 だったら……強くなってやる。

 あのオーガを倒せるくらいに。

 熊野さんの仇を討てるくらい、強くなる。

 今は逃げていい。

 死んでしまったら、強くなる事も出来ないのだから。




 ……自分にそう言い聞かせて、何時間も経つ。


 体の震えは止まっている。

 そろそろ良いだろう。

 ペットボトルの水を一口だけ飲む。

 幾分落ち着く事ができた。

 時計を見る。

 時刻は既に午後を過ぎていた。


 強く、拳を握りしめる。

 まずは武器を調達しなければ。

 包丁は壊れたし……

 どうにかして、本物の剣を手に入れたい。

 一番確実なのは、モンスターの武器を奪うこと。

 ゴブリン達が持っていた剣でもいい。


 強いモンスターなら、武器も良い物だろう。

 問題はそんな強いモンスターから、どうやって奪うか。

 休んでる隙を突いて、こっそり盗むとか?

 気が引けるが、そんな事も言ってられない。


「……よしっ!」


 決意を新たに、立ち上がる

 手足は震えていない。

 俺は戦う。

 その為の足がかりとして、武器を奪いに行く。

 やってる事は剣士ではなく盗賊だな、これは……


 なんて思いながら空き家を出る。

 やはり人気は少ない。

 さてと、モンスターを探すか。



 ◆



 モンスターを捜索して三十分。

 俺は遂に、目的のモンスターを探し当てた。

 そいつはまるで動く骸骨。

 剣と盾を装備した髑髏の騎士。

 名付けるなら……スカルナイト。


 スカルナイトは路地裏を徘徊していた。

 暗い所を好むのか、日の当たる場所には出ようとしない。

 獲物を探すように骨だけの首を動かしている。


 俺は、奴を倒す事に決めた。

 それにあたりまず、スカルナイトの武器を奪う。

 作戦は既に考え済み。

 あとは実行に移すだけだ。


「こっちだ!」

「っ!」


 スカルナイトの背後から声をかける。

 当然、奴は俺を見つけようとする。

 予想通り、首と顔だけをこちらへ向けた。

 スカルナイトが獲物を探してる時、首と顔だけをぐるりと回転させて、周囲を捜索していたのだ。

 この瞬間、奴は手元への注意が疎かになる筈。


 強化されている脚力で猛ダッシュする。

 そして滑り込むように、スカルナイトの足元へ。


「はっ!」


 ようやく、かつ突然現れた、俺という獲物。

 その獲物が自ら突撃してくる衝撃。

 モンスターにも知性があるのは知っている。

 だが、今回はそれを利用させてもらう。

 知性があるからこそ、スカルナイトは困惑する。

 その隙に……剣を奪う!


「ギッ!?」

「貰うぞ! お前の武器!」


 スカルナイトは俺に企みに気づいた。

 だが、もう遅い。

 既に俺は、骨だけの手から強引に剣を奪っていた。


 無骨で造形美はカケラも無いが、頑丈そうな剣。

 二、三度、試しに振ってみる。

 これなら剣術スキルにも耐えられるだろう。


「ギ、ギッ!」


 スカルナイトが俺を睨む。

 とは言っても、目玉は無いのでこっちを見ているだけ。

 それでも、気迫のようなモノを感じ取れる。


 ……もう、恐れない。


 剣を構える。

 初めて本物の剣を持った。

 なのに、やたらと手に馴染む。


 次にどう動けばいいか……全て分かる。


「ッ!」


 スカルナイトが盾を構えて突進してきた。

 盾の面積は意外に広い。

 適当に攻撃をしても、絶対に弾かれる。

 冷静にスカルナイトを観察する。

 隙は……そこだ!


「ふっ!」


 まずは一撃、あえて攻撃を盾に当てる。

 想像通り剣は弾かれた。

 が、その勢いを逆に利用する。

 ぐるっと左に一回転。

 勿論素早く、奴が反応出来ないくらいの速度で。


 再びの激突。

 しかし、今度は剣と盾では無い。

 俺の剣が、スカルナイトの顔面を打ち砕く。


「……!」

「じゃあな。剣、大切に使わせてもらうよ」


 トドメの一撃。

 首の骨を一刀両断する。

 スカルナイトは何も言わずに朽ち果てた。

 そして、魔石だけを残して消滅する。


「ふう……何とかなったな」


 手元の剣を眺める。

 少し荒っぽかったけど、無事に武器を入手出来た。

 やっぱり、本物の剣だと、剣術スキルの斬れ味も良い。

 本格的にレベル上げをするつもりなら、攻撃力の強化は必須だからな。


 まだ時間的にも、体力的にも余裕はある。

 ステータスを確認したが、レベルは上がってない。

 今日はまだモンスターと戦おう。


 そう思っていたら。


「グルウウウッ!」

「お、狼人間?」

「ワオーンッ!」


 二足歩行の狼が現れた。

 身長は百七十くらい。

 両手に棍棒を持っている。


 元々近くに居たのだろうか?

 それならば好都合、こいつも経験値の糧にしてやる。


「はっ!」


 狼人間……ウルフマンと呼ぼう。

 ウルフマンはなんと、左手の棍棒を投げてきた。

 慌てて避ける俺。


 避ける事は成功したが、その所為でバランスが崩れる。

 最初からそれを狙っていたのか、ウルフマンはニヤリと笑うと容赦なく棍棒を振りかぶってくる。


 く……! ここは防御だ!


 剣を構え、棍棒を受け止める。

 だがウルフマンの腕力は強かった。

 受け止め切れず、後方へ吹き飛ばされてしまう。


「ぐあああっ!」

「ワオーンッ!」


 建物の壁に背中から激突する。

 痛い……これが、実戦か。

 レベルが上がっていなかったら、骨が折れていたな。

 油断した、スカルナイトを倒して良い気になっていた。


 これはゲームじゃない。

 僅かなダメージも、苦痛となって蓄積される。

 目には見えない披露だって溜まる。

 数値上では測れない事は沢山あるんだ。


 気を引き締める。

 俺は殺し合いをしているのだ。


「いくぞ……!」


 ウルフマンに狙いを定める。

 すると、エネルギーが湧いてくる。

 何だこれ。

 これもスキルの影響か?

 身体能力が強化されているのが分かる。


 身体が軽い……!

 飛び跳ねるようにウルフマンへ向かう。

 高速で接近し、右斜め下から斬りあげる。

 続けて右手を斬り裂き、棍棒を触れなくした。


「グルルルッ!? グアアアアッ!」


 怒ったのか、なりふり構わず攻撃してくるウルフマン。

 しかし、そんな雑な連打には当たらない。

 丁寧に全て避け、今度は左斜め下から斬りあげる。


 バツ印のマークが付いたウルフマン。

 がくりと膝をつき、倒れた。

 倒れる間際に塵となり、魔石を残して消える。

 ウルフマンの魔石は青色だ。

 モンスターによって色が変わるのか……

 そういえば、スカルナイトの魔石は黒色だったな。


 ともあれ二匹目のモンスターも倒せた。

 ステータスを確認する。

 お、レベルが上がってるな。




 [タカハシ・ユキト]

 ‬

 レベル:3

 職業:剣士

 ‬

 体力:8

 筋力:11

 敏捷:11

 魔力:8

 精神:8

 ‬

【スキルスロット】

 ‬

 ・汎用剣術

 ・モンスターキラー

 ・




 全ての項目がバランス良く上昇している。

 スキルは増えてないか。

 というか、どうやってスキルは取得するんだろう?

 レベルを上げれば勝手に取得するのか。

 それとも何かしらの条件を満たす必要があるのか。


 スキルと言えば、モンスターキラー。

 これはどんな効力が及ぶんだろう。

 スキルの詳細を知れないのは、面倒だな。

 けど、モンスターキラーには心当たりがある。


 先程感じた謎のエネルギー。

 あれが関係していると考えられる。

 名称的に、モンスターとの戦闘時に発動するスキルか?

 一時的に自分の能力を上昇させるとか。

 的を得ていると俺は思う。


「……ぐ、またか!」


 突然、胸が苦しくなる。

 不安が波のように広がっていく。

 警察署で感じたモノと同じだ。

 今思えば……これは、恐怖に似ている。

 だったら、乗り越えなくちゃな……!


 その後数分間、俺は恐怖に蝕まれ続けた。

 が、今度は気絶せずに済む。

 今日のレベル上げはそこで切り上げた。

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