3話・ステータス
視界を遮るように現れた文字列。
メニュー&ステータスと記されている。
そこには俺の名前も書かれていた。
不気味だ……恐る恐る、文字に触れる。
文字、と言うより画面全体が動き出す。
タブレットをスクロールしているみたいだ。
とにかく全体図を見てみよう。
[タカハシ・ユキト]
レベル:1
職業:未設定
体力:5
筋力:5
敏捷:5
魔力:5
精神:5
【スキルスロット】
・
・
・
これは……信じられないが、見れば見る程ステータスだ。
ゲームに慣れ親しんでる者なら誰でも分かる。
しかしこの世界は現実だ。
一体いつから世界はゲームになってしまった?
まあ、突然現れたモンスター達は確かにゲームっぽいが。
いや、まてよ。
モンスターの出現と、ステータスの出現。
偶然と言うには些かタイミングが良すぎる。
予めそうなるよう、仕向けられたかのように。
「……ふっ」
自分の思考を自ら嘲笑う。
俺は何を真剣に考えているのだ。
こんなの、現実ではない。
きっと長い夢を見ているに、違いないのだ。
……なんて風に思えたら、どんなに楽か。
ゲームの世界、現実の世界。
二つは決して交わらない。
ゲームの世界は現実の人間が作り出した虚構だ。
どんなに完成度が高くても、所詮はデータの塊。
なのに、それがこうして現実に現れている。
俺達人類は、受け入れる事しか出来ないのか?
立て続けに変わる世界の常識。
モンスターの次はステータスか。
この現象が俺だけに起きているとは考えられない。
俺は選ばれた人間じゃない、ただの凡人だ。
そんな自惚れはとうの昔に捨てている。
俺以外の人間にも起きる現象ならば。
きっとそれは、新しい常識なのだろう。
とにかくステータスを詳しく確認してみる。
まずは俺の名前。
その下にレベル、職業とある。
レベルはそのままの意味だろう。
RPGではお馴染み、1からのスタートも頷ける。
職業はゲームのシステムによって細部が色々と違う。
俺の職業欄は今、未設定と表示されている。
つまり、何か職業を設定出来るということか?
そこから先は五つの項目に別れている。
体力、筋力、敏捷、魔力、精神の五つ。
かなりシンプルにカテゴライズされている。
見やすく分かりやすいのはありがたい。
やっぱりまだレベル1だからか、全体的に低い。
比較対象が無いから詳しくは分からないが。
概ね初期値と思われる。
レベルを上げていけば共に上昇していくだろう。
最後は【スキルスロット】。
三つの空きスペースが存在している。
スキルってのは、特殊な技能・技術の事か?
そういう『技』を決める項目なのかも。
職業と同じく空欄なのは、何か関係があるのか。
ステータスの文字に一つずつ触れる。
すると、職業の欄が反応した。
文字列が複雑に絡み合い、全く別の画面へと変わる。
完成したパズルが壊れて違うイラストになるように。
□設定可能職業一覧
《冒険者》
《探索者》
《剣士》
《騎兵》
《市民》
《占い師》
《神父》
設定可能職業一覧、だと。
そこには合計七つの職業が並んでいた。
この中から選べって事か。
まるでゲームのチュートリアルをプレイしてるみたいだ。
さて……どの職業を選ぼうか。
どの職業がどんな力を発揮するのか、分からない。
そんな状況で選びたくないが、文字に触れても変化は起きないので調べる術が無いのだ。
字面から何となく、想像するしかない。
まず《市民》は除外だ。
そもそも職業と言うより、身分みたいなものだろう。
何が出来るようになるのか分からないので論外だ。
戦いに役立ちそうな職業は《剣士》と《騎兵》だな。
ただ、騎兵は何に乗るのだろう。
イメージ的にはやはり馬だ。
こんな世界になったのだから、モンスターに乗るのかも。
それは少し嫌だな……こう、心理的に。
《冒険者》と《探索者》は戦闘より冒険が得意そう。
《占い師》と《神父》も何をやるのか分からない。
となるとやはり、一番無難そうなのは《剣士》か。
剣士ならば武器になる剣も、代用品だかそれっぽい物を比較的楽に調達する事が出来るだろう。
よし、決めた……俺は《剣士》をタップする。
最終確認の文面が現れるも、迷わすはいを選択。
そして、職業の欄が《剣士》で埋まる。
キャラクターメイクをしてるみたいだな……
『職業:剣士を獲得』
『職業補正でステータスの筋力・敏捷に+1されます』
なんて風に思っていたら、また画面が切り替わる。
無機質な文字で幾つかの文が次々と表示された。
アクションを起こすと変化を知らせてくれるらしい。
それに職業補正、そういうのもあるのか。
剣士の場合は筋力と敏捷に+1……覚えておこう。
今後、他の人達に教えられる情報になる。
文はまだまだ続いていた。
『スキル:汎用剣術を獲得しました』
『人類によるモンスター討伐を初めて確認。
特殊スキル:モンスターキラーを獲得しました』
『汎用剣術を第一スロットに装填します』
『モンスターキラーを第二スロットに装填します』
職業設定に伴い、スキルも習得したようだ。
汎用剣術とモンスターキラー。
あとで試してみる価値はありそうだ。
埋まっているスキルスロットは二つ。
空いているのは残り一つだけ。
スキルは三つしか獲得出来ないと考えるのが妥当だ。
必要なスキルを趣旨選択する能力も求められるな。
やはりこの世界、生半可な覚悟では生き残れそうにない。
一瞬の判断ミスが命取りになるような、冷たい世界。
まだそうなると確定した訳じゃないが。
政府の対応を見ている限り、国は頼れそうにない。
それは仕方のない事だ。
何故なら余りにも前例が無さすぎる。
国の力を使うにはそれ相応の手続きを要するもので、この騒動の最中、適切な判断を下せる人は一体どれだけいるだろうか?
そもそも、何が正しいのかさえ分からない。
国家でさえ手探りの状況だ。
事態が好転するのか、それとも暗転するのか……
とにかく自分の力でやれる事を行う。
俺は心の中で、そう決めた。
このステータスは、その為の力になる筈。
ゲーム好きとしての勘がそう訴えてくる。
「…………よし!」
一度だけ深呼吸をする。
それから俺は部屋の中をひっくり返す勢いで、この先必要になるであろう水や食料、その他物資をかき集めた。
纏めたものを鞄に仕舞い、準備完了。
俺は自宅を出る事に決めた。
外に出て、もっと頑丈で安全な建物を探す。
運良く見つけられたらそこを拠点にしたい。
で、最終的には人々の集団やグループと合流する。
こんなもんでいいだろう、最初の目標は。
兎にも角にも、自宅を捨てる。
窓硝子も割れているし、籠城する意味は薄い。
まだ二年くらいしか経ってないが……その間、俺の帰るべき場所として在ったのもまた事実。
正直言って、少し名残惜しい。
ただ、いつまでも感傷に浸るワケもいかない、いつまたモンスターが襲って来てもおかしくないのだ。
幸い時刻はまだ十時の手前。
今から探せば隠れ家は見つかるだろう。
最悪、その辺の空き家を利用する。
逃げ出して家を捨てた人もいるだろうし。
「……」
気持ちを切り替える。
外の騒ぎが、空気を伝って感じ取れた。
ここから先は一筋縄ではいかない事ばかり。
日本の学生として平和に暮らしてきた俺が、突然こんな状況に放り込まれても果たして生きていけるのか。
悩んでいても仕方ない。
受け入れよう、現実を。
扉をゆっくりと開ける。
近くにモンスターの姿は見当たらない。
二階建てのアパートなので、音を立てないよう気をつけながらも早足で廊下を進み、階段を降りる。
心中で穏やかに告げる。
さよなら、俺の家。
リザルト
[タカハシ・ユキト]
レベル:1
職業:剣士
体力:5
筋力:6
敏捷:6
魔力:5
精神:5
【スキルスロット】
・汎用剣術
・モンスターキラー
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