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15話・銀色の瞳

 

 壊れた自動ドアを潜り抜ける。

 意外にも、店内は荒らされていなかった。

 モンスターの痕跡はあるが、そこまで多くない。

 五人でエントランスを歩く。

 止まったエスカレーターに、明かりが切れた電灯。

 それまであった日常感が消え失せている。


「まずは下着の類から取ろう。一日履いただけで不快感は増すし、衛生面でも危険だ」


 南雲さんは言う。

 確かに下着は勿論、靴下でさえ一日経つと汚れる。

 かなりの量ストックしておきたい。


「一度に持っていく量にも限度がある」

「調達と運搬を分けましょう」

「ですね、私と木村が運びます」


 伊藤さんと木村さんが名乗り出る。

 二人は友人関係で仲が良い。

 息もあってるし、運搬係にピッタリだ。


「お願いします、お二人とも」

「じゃあ、俺達は調達係ですか?」

「そうなるね」

「分かりました」


 俺、南雲さん、凛音。

 三人でフロア中を駆け回る。

 強化された体力と筋力のおかげで、ちょっとやそっと走っても全く疲れない。

 手際良く見つけて伊藤さんと木村さんに渡す。

 今のところ、索敵にモンスターは引っかからない。


 早いところ運んでしまおう。


「高橋さん」

「凛音、どうした?」

「いえ。ちょっと手伝ってください」


 そう言って彼女は女性用の下着コーナーへ歩く。

 ああそうか、俺も南雲さんも集めていたのは男性用ばかりで女性用をすっかり失念していた。


 心情的に、持つのに戸惑いが生まれる。

 だがこれは衛生面に関する重要な事柄。

 恥ずべき事など何もない。

 俺は無心で女性用下着をカゴに詰め込む。


 側から見たらただの変態だなこりゃ……


 なんて事が数十分間続く。

 そろそろ頃合いだろう。

 南雲さんの指示で一旦作業を止める。

 下着ばかり積んでも仕方ない。

 普通の上着やTシャツも必要だ。


「……なあ、凛音」

「なんですか?」


 フロアの移動中。

 俺はつい、凛音に声を掛けてしまう。

 しまったと思っても時既に遅し。

 何か言わなければ……


 聞きたい事ならある。

 だがそれは、聞くべき事では無い。

 でも俺は俺が知りたくて、無意識に。


 気付けば勝手に口が開いていた。


「……三日月校長と、仲悪いのか?」

「…………」


 沈黙が続く。

 彼女に顔を向けられない。

 歩を進める足音だけが響く。

 これは……やってしまったか?


「……そう見えるなら、そうなんでしょう」

「え……?」

「意識した事も、ありませんから」


 答えてくれた。

 ただ、それは答えと言うには余りにも人任せ。

 彼女からは諦めに近いモノが感じ取れる。


「すみません、次からは祖父との間で無様な姿をお見せしないよう気を付けます」

「いや、そういう訳じゃ––––」

「皆んな! モンスターだっ!」


 伊藤さんの声が響く。

 全員目の届く範囲に居る筈なので場所は直ぐ分かる。

 会話を途中で打ち切り、伊藤さんの元へ急ぐ。


「凛音!」

「分かってます!」


 作業中のモンスター襲撃。

 想定していた範囲内の事だ。

 だからこそ、お互い目視出来る範囲で作業をする、というルールを予め作っておいたのである。


 俺と凛音は二階に居た。

 伊藤さんは一階のエントランス中央辺りに居る。

 階段を降りるのは面倒だ。


「ごめん、ちょっと我慢してくれ」

「はい? 何を––––きゃっ!?」


 素早く凛音の体を両手で抱える。

 そのまま手すりの柵を乗り越え、飛び降りた。


「……っひああああああっ!?」

「ぐっ……!」


 凛音が小さくない悲鳴をあげる。

 ジェットコースターに乗った記憶を思い出す。

 風が嵐のように体へぶつかる感覚だ。


 二階とは言え、この建物は一階と二階の高低差が普通の建物に比べ倍近く違う作りになっている。

 中学校の三階か四階から飛び降りるのと同じくらい。

 まだレベル2の凛音では着地に失敗するだろう。


 なので俺が抱える形になった。

 これは成り行き上、仕方のない事である。

 やましい事は何一つ無い。


 時間にして、数秒間。

 俺は危なげなく着地に成功する。


「とっ、突然何をするのですかだがばじざんっ!?」

「お、落ち着けって、声が変になってるぞ?」

「はあっ、はあっ! じ、事情は何となく察せますが、もう少し事前に説明してください!」

「は、はい……」


 余りの迫力に気圧される。

 お、女の子怖い……


「伊藤さん! だ、大丈夫ですか!」

「君が大丈夫って言いたいけど……うん、平気さ。それよりあのモンスターを見てくれ」


 伊藤さんに言われた通り、モンスターを見る。

 灰色の体毛に鍛えられた肉体。

 人形だが、顔の形はどう見ても狼。

 ウルフマンと名付けたモンスターだ。


「グルウウウッ!」


 ウルフマンは一匹。

 こちらの様子を伺うようにしている。


「ウルフマンですね、俺はそう呼んでます」

「へえ、ピッタリな名称だね。そうか、ならあのウルフマン、いつもと違くないか? 目の色が」

「目の色?」


 注意深くウルフマンを見る。

 すると確かに、目が銀色に輝いていた。


「ウオオオオオンッ!」

「お二人とも、来ますっ!」


 凛音が鞘から刀を抜く。

 俺も背中の鞘から剣を抜いた。

 伊藤さんは右腕を構える。


 南雲さんとキムラさんはまだ来ない。

 残念ながら、待ってる余裕な無さそうだ。

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