11話・エリアボスの存在
「これで納得してくれたかな、岩代先生?」
「校長先生……はい、何も言うことはありません」
「これだけの戦力、逃す手は無いわい」
直ぐに引っ込んでしまう岩代さん。
他の代表達も同じ気持ちのようだ。
戦力、か。
確かにこれだけの力があれば、色々楽になるだろう。
ただ、それだけじゃない気がするんだよな。
学校外の人間を運営に加入させる。
幾らレベルが高くても、そんな簡単に許すか?
嫌な例えだが、俺がこの圧倒的なレベル差を利用し、避難所を制圧して自分のモノにする……勿論そんな事は絶対にしないが、可能性としては考えられる。
大人の教師達がそれに気づかないワケがない。
となると、考えられるのは一つだけ。
そういう危険性を天秤にかけても……俺という戦力を欲する明確な理由が存在するという事。
どうやら素直に歓迎されてるって訳じゃなさそうだ。
「あの、高橋くん」
多村さんがおずおずと挙手する。
「はい、何でしょう?」
「君はどうやって、短期間でここまでのレベルを?」
当然の疑問だ。
理由は分からないが、俺のレベルは高すぎるらしい。
とは言え俺も詳しい事は分からない。
普通にモンスターと戦ってただけなのだから。
なので、素直に答える。
「普通にモンスターと戦ってました」
「普通に、ですか」
「強いて言えば、一週間ずっとレベル上げに励んでた、くらいでしょうか」
「一週間……」
この一週間、俺はモンスターと戦い続けた。
食事と睡眠以外はほぼ戦っていた。
強くなりたい、その一心で。
それが功を成したのか、もう既にその辺のモンスター相手なら余裕を持って戦える。
「失礼、質問いいでしょうか?」
今度は凛音さんが挙手する。
勿論構わない。
「高橋さんはいつ頃からステータスを認識しましたか?」
「そうだなあ、認識したのは世界が変わった初日、かな。偶然ゴブリンを倒したんだ」
「成る程、随分と早いですね」
「我々がステータスを理解したのは、世界が変わってから二日後だからな。既に遅れをとっていたとはな」
三日月校長が言う。
二日後、まあそんなものか。
俺がゴブリンを倒したのは偶然。
その偶然が無ければ、ステータスなんてモノを現実に理解する事はもっと先のことだったろう。
しかも、俺はゲームに馴染み深いから、比較的早い段階でステータスを受け入れられた。
だが、そうでない人達。
ゲームなんて普段から知らない人達は、まず、ステータスが何なのかすら分からないだろう。
真面目な人ほど、理解するのに時間を要する。
そう考えると、二日後というのはかなり早い。
「高橋くんの強さを確認しましたし、改めて会議を進めたいと思います。よろしいでしょうか?」
全員、今度は快く頷いてくれる。
三日月校長は多村さんの横に、所謂お誕生日席。
俺は一番の末席……凛音さんの隣に座った。
「では、目下の問題について、阿東さん」
「はい」
多村さんに呼ばれ、阿東さんが席を立つ。
数枚の書類を手に彼女は説明を始める。
「現状、食料や水は勿論、日用品も足りていません。今はまだ病気などを患っている人はいませんが、このままだと確実に発病者が現れます。そして、そうなると医療品も足りなくなってくると考えられます」
生活班代表の切実な言葉。
改めて、切迫している事実を認識させられる。
俺の手持ちの物資を譲ってもいいが、百人以上も避難民が居るなら雀の涙だろう、根本的な解決にはならない。
「食料はあと、どの程度持ちますか?」
「……相当切り詰めて、二日が限度かと」
「厳しいですね……調達班の成果、どうでしょう?」
次に岩代さんが質問される。
彼が立ち上がると同時に、阿東さんは着席した。
岩代さんの表情は、とても厳しい。
重い口を開きながら、言葉を紡ぐ。
「調達班も日夜校外へ行っていますが、成果は低いです。そもそもの人員も、不測しています。有志の生徒達の手も借りていますが、やはり……」
そこで一旦話しを区切る岩代さん。
やはり、とは何だろう?
「……エリアボス、ですか」
「エリアボス?」
凛音さんがポツリと呟く。
隣なので、尋ねてみる。
彼女はキチンと答えてくれた。
「とある生徒が付けた名称です。実は、特定の地域をナワバリのように支配する、そういう習性のようなものを持ったモンスターがいるらしく……調達班の探索地域を妨害しているのです」
「妨害……」
そのモンスターを倒さないと、先に進めないのか。
成る程、確かにエリアボスの名前に相応しい。
名付けた生徒はきっとゲームが好きなんだろう。
「倒すことは難しいのですか?」
「はい。以前調達班の皆さんが挑んだのですが」
「呆気なくやれちまったよ」
凛音さんの続きを、岩代さんが引き継ぐ。
彼はバツの悪そうな顔色で話す。
「そん時はステータスも理解してて、レベルも上がってた。正直、油断していた……まあでも、例え油断が無くてもアイツには勝てなかったろうよ」
「どんなモンスターなんです?」
「鬼みてえな巨人だ、オーガって言ってる生徒もいる」
瞬間、ゾワリと悪寒が走る。
「オーガ……!」
「ん、どうした?」
偶然かもしれない。
同種のモンスターで、あの時のオーガとは別個体の可能性もあり得る、しかし––––
俺にとって、その名は余りにも刺激が強すぎた。
忘れもしない一週間前の出来事。
無力感に打ちのめされた、苦い思い出。
そうか、そういう事か。
どうやら俺は、オーガと戦う運命にあるようだ。
「俺の役目は、そいつを倒すことですね」
「左様。君にはエリアボスを撃破してもらいたい」
「分かりました。絶対に、倒してみせます……!」
闘志が漲ってくる。
あの時は何も出来なかったが、今は違う。
とは言えそれなりの準備は必要だ。
レベルだけじゃ、戦いの勝敗は決まらない。
色々思案していると、周りが静かな事に気づく。
全員、俺をぽかんと見ていた。
「どうしたんです?」
「いえ、とても素直と言いますか、あっさりと受け入れてくれたので、つい……ごめんなさい、こんな言い方しか出来なくて……」
阿東さんが言う。
「いえ、俺のやる気の問題ですから、大丈夫です」
「それは頼もしいな」
「岩代さん、有る限りのオーガの情報をください」
「勿論だ」
なんて感じに、俺は物資調達班へ配属された。
望んだ事なので問題は無い。
モンスターを倒して、もっとレベルを上げられるし。
「あ、あの、医療班から、いいでしょうか?」
おずおずと手を挙げる久遠さん。
「もちろんです、どうぞ久遠さん」
「はい。実は……既に体調不良を訴えている方々が一定数おりまして、その、薬が足りないんです」
新たな事実が発覚する。
食料に続き、薬も足りない。
足りないと言うより、無いのだ。
「決まりだな。調達班は明日、行動範囲を広げる」
「大丈夫ですか、岩代さん?」
「ええ、それから調達班の参加者も募集します」
「人員確保ですか。警備班からも、何人か手伝える者を預けます。警備があるので、少ないですが」
警備班の小金さんが言う。
「いえ、それだけでも助かります、小金さん」
「ふむ。方針は決まったようだ」
「三日月校長」
「今日の会議はこれにて閉める。凛音、高橋くんに学校内を案内してくれ、頼めるか?」
三日月校長はサラリと言った。
俺は構わないが、凛音さんはいいんだろうか。
中学三年生の女の子って、ピリピリしてそうだし。
突然見知らぬ男と居なくてはならないのは……
「分かりました、お爺様がそう言うのなら」
あれ?
俺の想像などカケラも当たっていない。
凛音さんはあっさりと了承した。
いや、内面では嫌がっているのかも。
そうだとしても、表に出さないだけで優秀だ。




