10話・運営
俺は避難所運営を手伝う事になった。
それにあたり、他のメンバーにも俺の事を紹介すると三日月さんは言い、三階にある会議室へ赴いている。
丁度、定例会議を行なっている最中だとか。
今なら運営の主要メンバー全員に紹介出来る。
「失礼、入るぞ」
「校長? どうしたんですか、突然」
会議室は普通の教室と変わらなかった。
違うのは長机が長方形の形に並べられているくらい。
椅子には合計六人の男女が座っていた。
その内五人が大人で、一人だけ生徒が居る。
「新しい運営メンバーを連れて来た」
「そんな話、初耳です」
「当然、先程私が決めた事だからな」
「校長…………」
一人の男性がやれやれとため息を吐く。
三日月さんは日常的にアグレッシブな方のようだ。
それは男性も分かっているのか、直ぐに調子を取り戻す。
「それで、そこの若者が新メンバーですか?」
「そうだ」
チラリと視線を送ってくる三日月さん。
自己紹介をしろ、という合図かな。
俺は緊張しながら名前を言う。
「高橋幸人、大学生です。つい先程、岡村くんというここの生徒に出会い、ここに来ました」
「岡村が?」
反応したのは、この中で唯一の中学生。
よく見たら凄く容姿が整っている。
滑らかな黒髪と綺麗な碧眼、雪のように白い色白肌。
頭には赤いカチューシャを付けている。
背筋もピンと伸びていて、まるでどこかの令嬢だ。
同じ年頃だし、岡村くんの同級生だろうか。
「そうだよ、君は岡村くんを知っているの?」
「ええ、全校生徒の顔と名前は一致してます」
「そ、そうなんだ、凄いな……」
真顔で答える美少女。
半端ない記憶力だ。
てか、なんでそんなの覚えようと思ったのか。
俺なんてクラスメイトの名前もうろ覚えだった。
「では、今の運営メンバーも自己紹介をしてもらおう」
三日月さんの一言で、六人の自己紹介が始まる。
「私は多村絢斗、数学教師をしていました。校長の方針を全体に伝える役を任されています」
多村絢斗さんは細身の男性だ。
さっき三日月さんに呆れていた人でもある。
三日月さんがリーダーならこの人は副リーダーかな。
真面目で物事をキッチリ考えそうな人だ。
多村さんの次は、二十代後半くらいの女性。
白衣を着ている茶髪の人。
「久遠恵、保険医をしていました。一応、怪我人や病人を看護する医療班のリーダーです」
ぺこりと頭を下げる久遠さん。
控え目な性格なのが伺える。
あと、十字架のペンダントを首から掛けていた。
「俺は岩代練、物資調達班の代表だ。よろしくな」
角刈り頭の男性は岩代さん。
相当鍛えているのか、両腕が丸太のように太い。
ジャージ姿は言わずとも体育教師と分かる。
「阿東風香です。元々は現代文の教員でした。今は生活班の代表を務めさせてもらっています」
肩くらいまで黒髪を伸ばしている阿東さん。
優しそうな雰囲気が漂っている。
「小金勇気、警備班の代表です。元々警備員でした」
小金さんは三十代後半くらいの男性だ。
警備員の制服を着ているから分かりやすい。
これで五人、紹介してもらった。
残っているのは黒髪の少女。
彼女は臆する事なく、自分の名前を言った。
「三日月凛音、三年生です。学生代表という事で、皆さんの会議に出席することを許されています」
成る程、学生代表か。
若い学生達の意見を、彼女が纏めているのだろう。
一人はそういう人間がいた方がいい。
ベストな人選と言えるな。
しかし……彼女、誰かと似ている。
特に目元が。
ついさっき、同じような目で見られたような。
まてよ、三日月ってもしかして……
「察しの通り、凛音は私の孫だ」
三日月さんがこともなさげに言う。
やっぱり、同じ姓だから血縁者だと思ってたんだ。
だが、孫とはかなり直線的である。
親戚か何かだと考えていた。
「どうでもいい事です」
「どうでもいいとは、凛音。爺は悲しいぞ……」
「貴方がそういう風に育てたんでしょう? お爺様」
「ふはは、それもそうだな」
「…………お爺様、貴方はいつもっ……!」
視線と視線が交差する。
祖父の三日月さんは、愉快に。
孫の三日月さんは、冷たく怒りを含みながら。
この二人、ただの家族ってワケじゃあなさそうだ。
無論、首を突っ込む気はさらさら無いが。
それはそれとして、気になるのもまた事実。
とは言え、ここで追求するものでもない。
あと、親子喧嘩も。
「あの、俺を挟んで言い合うのは、ちょっと……」
「っ、申し訳御座いません、取り乱しました」
「ぬお、すまんな高橋くん。年寄りはイカンな、ついつい長話をしてしまう」
三日月さん……ああもう、面倒だから凛音さんで。
凛音さんはもう落ち着いたのか、静かに座っている。
逆に三日月校長は、少しばかり微笑んでいた。
まるで久し振りに出会った、父と祖父のようである。
「では、会議の続きという事で」
「高橋くん、君も参加しなさい。私も参加しよう」
「はい、俺でよろしければ」
「ちょっと待ってください、校長先生」
動き出そうとしていた会議。
それが再び、止められる。
声をあげたのは調達班代表の岩代さん。
彼は難しい顔をしながら言葉を続けた。
「校長先生の言葉を疑いたくはありませんが、突然来た者を、しかも学校外部の人間を運営に参加させて、本当にいいのですか?」
「ふむ……」
「皆さんも同じ気持ちの筈です」
静まる教室。
無言は肯定を示していた。
まあ、そうだろうな。
予想していた事なので、驚きはしない。
普通は昨日今日現れた者を内側に入れない。
三日月校長が異端なのだ。
だが、このまま立ち去るのも、違う気がする。
「高橋くん、ステータスを見せてくれんか」
「ステータスって、他人に見せられるんですか?」
「知らんかったのか。ステータスを覚醒させた者同士なら互いに視認する事が可能だ」
知らない情報だ。
だから熊野さんには見せられなかったのか。
「今ここにいる者は全員、ステータスを持っておる」
「なら、問題無いですね」
「そうだ」
それならお安い御用。
ステータスを見るのも、手慣れたものだ。
心の中で念じる。
瞬間、異界の窓口が目前に現れる。
格項目は昨日から変わっていない。
あと少しでレベル10に到達出来る筈だ。
そして、俺のステータスを見た人達の反応は––––
「なっ!? レベル9だって!」
「もう既に10の手前……!?」
「い、幾ら何でも早すぎますっ!」
六人全員が驚きの声をあげていた。
さっきの三日月校長や警備をしていた人と同じ反応だ。
これは一体、どういう事なんだろう。
「岩代先生」
「は、はいっ!」
「君のステータスを彼に見せてやってくれ」
「わ、分かりました」
「高橋くん、岩代先生のステータスをよく見るんだ。そうすれば自ずと答えが分かる」
「は、はあ」
子供のように笑顔を浮かべる三日月校長。
悪戯が成功するのを心待ちにしているような顔だ。
そして俺は、岩代さんのステータスを確認した。
[イワシロ・レン]
レベル:4
職業:戦士
体力:9
筋力:9
敏捷:5
精神:7
魔力:5
【スキルスロット】
・槍術
・
・
他人のステータスを初めて見た。
岩代さんの職業は戦士か……
スキルは槍術、槍を使う戦法かな。
レベルは4だが違和感を覚える。
俺よりも何故か、ステータスの伸びが悪い。
俺がレベル4の時は、もっと数値が高かった。
「因みに、岩代先生が私達の中で最高レベルだ」
「えっ……!」
それは少し驚いた。
同時に、納得もする。
最高でレベル4なら、突然レベルが約二倍の奴が現れたらそりゃ動揺もするだろう。
……俺、もしかしてリアルでも廃人プレーしたのか?
ゲームではよく、過剰にレベリングしていた。
そうでないと安心出来ないのだ。
例えゲームでも、トライ&エラーはしたくないんでね。




