1項目 27度目の転生/魔との邂逅
1/2 上書きされていなかったようなので残りの文を加筆しました。
────聞こえる。
何かもやがかかったような、だか確かに聞こえる。
まぶたは動かない。かろうじて明るいことは分かるが。
絶えない浮遊感。なにやら液体の中を漂っているような。
手足はうまく動かない。動かし方を忘れたかのようだ。
ふむ。
これはあれだな。
この絶妙に不自由かつ融通の利かない操作不良感。
何も見えず、いまいち聞こえず。しかし、孤独を感じさせない、明らかに感じる他者とのつながり。
どうやら赤子の体のようだな。
────転生に成功したのか。
ふーむ。一応転生の準備はしたが、依代候補も見えなかったしここでおわりかと思ったが。
まぁ、成功したなら問題ない。このルシフェル、赤子など実に26回も経験してきた。体を自由に動かせるようになるまでのソツのない赤子の演じ方など知り尽くしている。
「原初の火」、「宵闇の月」、「稀代の叛逆者」、「明けの凶星」、「真理の探求者」、「深淵の底」、「人理破綻者」、「取り付け先のない頭のネジ」、「天災的所業」、「奇跡乱造機」、「当代きってのイカレポンチ」など数々の名を冠してきた私に不可能などない。まぁ、せっかく完成までこぎつけたアレをこの目で確認できなかったのが心残りではあるが、まだまだ研究すべき命題も溢れている。その為にも今はこの素体の成長に専念せねば。
あぁ、楽しみだ。
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根源への干渉確認。
階級────確認。該当個体の魂魄を精査。
最適性確認────起動。対象の魂魄に内包。
これより罪過、「傲慢」を顕現します。
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胎内で覚醒してから体感で4か月ほど。のどかな晴れた日の黄昏時に、私は生まれたらしい。
身体の骨をグニグニ変形させながら狭い産道を抜け、へその緒を切り落とされ、尻を叩かれながら産声を上げ、呼吸をして耳から羊水を抜く。そして気づく。
周りから聞こえる声――助産婦と母親だと思うが――が、その言語に聞き覚えがなかったのだ。
1500年間、世界の真理を征服し続けた我らルシフェル。全ての言語を一通り収めたと思っていたが、まだまだ精進が足りないらしい。
しかし、宇宙そらを覆い、大地を焦土と化し、海を底に沈めた我らから逃れ、ひっそりと言語を作り、新たな生活圏を築けるとも思えない。
というかあの星は滅んだんじゃないのか?ふーむ、情報が足りない。どちらにしろ、まともに動けるようになるまで――せめて5年ほどは身体を鍛えるすることに専念したい。それまではこの卓越した演技力を持って、平凡な赤子を演じることにしよう。
―――思えば、この時点で予兆はあった。今まで一度の例外もなかった。故に、無意識に候補から外していた。
存在しなかったはずの27体目の依代。滅びた星に息づく文明。今までに記録の無い言語体系。そして―――目の前で起こった、あまりにも不自然な現象。
助産婦の呟きとともに、その手に集まる、虚空から現れた水の塊。
あまりに異端。あまりに異質。あまりに異常。
あまりに、未知。
なんだあれは。しらない、わからない。しりたい、ときたい、かいしたい。
漠然としていた今までとは違う、あまりにも明確な、初めて視えた始祖の背中。それが、いま、目の前で―――
―――私は今、最高に興奮している。―――