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2話

なかなか話が進まない

布引と別れてから程なくして、俺は喫茶店を出た。

商店街沿いにどこへともなく、歩を進める。

特に目的地は無いが、歩くことで考えがまとまることもある。


それにしてもあのなりで女か・・・

じゃなくて、俺の過去に関係があったと言っていたな。

何となく雰囲気が夢子さんに似ていた。なんだろう、こう、言葉では言い表せない見にまとうオーラと言うか・・・

いやいや、そんなことはどうでもいいんだ。

問題は俺が彼女の家にお邪魔すると言うこと・・・独り暮らしなのか?それとも実家に住んでるのか?

いかん、いらんことを考えるな。実際のところ、俺の当面の問題は布引千夏に関する過去の記憶だ。

それにしても男かと思っていた。

今思えば、男にしては声が高すぎるし線も細い。

いや、今考えるべきはそこじゃあない・・・


歩くことで考えがまとまると言ったな。

あれは嘘だ。全くまとまらない。


正直に言おう。俺はこの年になるまで女性と付き合うことどころか、女性の友達らしい友達もいなかった。

夢子さんは・・・まあ・・・なんだろう?

腐れ縁と言うか相棒と言うか、仲は良いことは確かだろうが・・・

とにかく夢子さんを除いて、女性と話すことも殆ど無かった。


そんな俺が、お呼ばれ?

男みたいなやつとはいえ、女の家に?

どうしようか。お土産とか持っていった方がいいのか?

ふむ、ケーキとかが良いのか?

大体女性は甘いものが好きだし。


となるとやはり・・・


王道のショートケーキか?

いや、チーズケーキと言うのも捨てがたい。

モンブランなども味わい深いのではないだろうか


その時俺の記憶に何か引っ掛かるものがあった。


そう言えば・・・彼女はアイスコーヒーをブラックで飲んでいた!

甘いものが苦手なのかもしれん。

危うく世間一般の常識と言う罠にはまるところだった・・・

となると・・・



―花、か?



薔薇の花束とか良いんじゃないか?

ドラマとかでも割りと持っている気がする。

いや、待て、あれはフィクションだ。鵜呑みにするな。

オリジナリティが必要か・・・

彼岸花とか良いんじゃないか?綺麗だし。

そう思い俺は、花屋に向かおうとした。


その時俺に天啓が降りる。


いきなり花って重くないか?

自分に考えて置き換えて考えてみる。

彼女の言うことが真実だと仮定して、配役を変える。例えば数年ぶりに出会った夢子さんがいきなり花束を持って自宅にやって来る。


―引くな、間違いなく


・・・うん、変に気取った物は止めとこう。瓦せんべいでも買っていけば問題ないだろう。



とりとめも無いことをうんうんと唸りながら考えつつ歩いていると、俺は周囲の喧騒に気づく。

ふと回りを見ると、本町の方まで歩いて来たようだ。派手な色彩の門が目の前にある。どうやら中華街の入り口に立っているようだ。

今日は市内をうろついて、明日実家に帰るつもりだったが、なんだか妙に疲れた。もう今日のうちに実家に帰ろう

一日くらい早く帰っても問題あるまい。

家族の土産には、肉まんでも買って帰れば問題ないだろう。


肉汁たっぷりの巨大な肉まんを手にいれた俺は、港川まで徒歩で移動し、そこから光戸電鉄に乗り込んだ。

お、この電車クーラーついてる

俺がいた頃は、未だに扇風機が現役だった気がする。


数十分程電車に揺られ、ようやく地元についた。

駅の改札を出ると、幾分か夕焼けの色を含んだ夏の日差しが降りかかってくる。

ジージーと蝉の声がうるさい。

バスに乗るつもりだったが、いくぶん涼しくなってきた。夏の空気を吸いながら、のんびり歩いて帰るのも悪くない。


―なんだか、変わらないな


新しい店ができたとか、古い店が潰れたとか、そう言うのはあるがなんと言うか、変わらない。

夏の夕方の雰囲気と相まって、少しノスタルジックな気分に浸る。


そう言えば俺は、どうして今まで帰って来なかったんだ?もっと言えばどうして俺は東京の学校に進学した?

両親との仲は良かったし、この町も嫌いじゃない。

都会に憧れるほどここは田舎じゃない。

両親と電話する度に、いつ帰ってくるのか聞かれた。

妹の優なんかは最初の頃、電話を切りたくないと泣いていた。

いつか帰る、と言いながらもう6年か。

そう思うと、急に郷愁の思いがわいてきた。

早く帰ろう。


俺は家の前に立っていた。

車変えたのか、とか新しい花壇造ったのか、とかどうでも言い事を考える。

いざ帰ってくると、なかなか家に入りづらい。どうやって入ろうか。チャイムでも押すか。いや、自分の家に入るのにチャイムもないだろう。


「あの、すいません」


俺が玄関の前で唸っていると、後ろから少女の声で話しかけられた。


「ここ、うちの家なんですけど・・・人の家の前で何しとんですか?」


俺が振り替えると、少し気の強そうなつり目をしたおかっぱボブの女の子がいた。控えめに言っても美少女だ。中学生位だろうか。

というか


「うちの家って言うことは・・・もしかして優か?」

「知らん人に名前は教えられません」


訝しげな顔をする美少女。

優じゃないのか?

確かに俺の記憶の中の優と、目の前の儚げな美少女とは繋がらない。

もしかして、うちの家族は既にここから引っ越してしまったのか?

無関係の他人の家の前で唸っている俺。

とすると本当にただの不審者じゃないか。

よし、落ち着け俺。まずは目の前の可憐な少女の誤解を解くんだ。

通報されないように、慎重に言葉を選ぶ。


「あー、その、何て言うか、俺、僕、いや、私は決して怪しいものではなく、菊水秀と言うもので・・・」


そこまで言って、目の前の少女が目を見開く。まずい、通報コースか?

俺はいつでも逃げれるよう全身に力を溜める。


「もしかして、お兄ちゃん?」


この反応は・・・助かったか。


「うわぁぁ!よう見たらお兄ちゃんやん!なんでうち気付かんかったんやろ!てかお兄ちゃん明日帰ってくるってうち聞いとったのになんで今日帰ってくるんよ!」

「何て言うかその、すまん。なんと言うか、よく俺の事がわかったな」


良かった、俺の妹で間違いなかった。

それにしても、優ってこんな美少女系だったか?

いつも外で走り回って怪我を作って泣いていた、ちんちくりんのイメージしかない。


「そんなんどうでもええの!あぁー!せっかく明日綺麗にして待っとこうと思うとったのに、なんで今日なんよー!?こんな制服でお兄ちゃんに会いたくなかったー!」


そう言うと優は泣き出してしまった。

泣き虫なのは昔と変わらないのか。少し安心した。


それにしても泣き止まん

泣いているの女の子の扱い方なんかわからんぞ。

強いて言えば、女の子の扱い方自体がよくわからんのだが。


「まぁその、なんだ、その制服は可愛いと思うぞ」


頭をフル回転させて出てきた言葉はこれだけだった。なんとも情けないが、優には効果があったらしい。ピタリと泣き止んだ。


「・・・ほんまに?ほんまにうち可愛い?」


俺のもとまで近づいてきた優がそう聞いてくる。

制服を対象として言ったが、どうやら優の事を褒めたように彼女のなかでは変換されたようだ。


まぁ、確かに可愛い。

涙目の上目遣いと言うのは、反則的なまでの効果を及ぼす。

禁止カード扱いされてもしょうがないレベル。


「あぁ、可愛いから泣き止め。ほら、この絵面は知らない人が見るとなんだ、少しまずい気がする」


夕暮れ時泣いている少女と、肌が触れあうほど近くにいる成人男性の組み合わせと言うのはなんだろう、芳しいまでの通報の香りがする。


「えへへーわかったー」


そう言うと優は俺に抱きついてくる。やばい、このインシデントはマジで通報される。


「こら優!なにオモテで騒いどんの!ご近所迷惑やから止めなさい!」


懐かしい声が聞こえる。お袋のアンブッシュだ、助かった。

玄関から出てきたお袋は俺の姿を見つけると、近寄ってくる。

虎の顔がでかく描かれたtシャツを着ている。

どこで買ったんだ。


「なんや、あんた明日帰ってくるって言うとったんちゃうんか」

「あぁちょっと色々あって早く帰ってきた」

「連絡ぐらいしなさいよ。お母さん、今日ご飯あんまり炊いてへんで。お父さんも優もあんまり食べへんしな」

「これ買ってきたから問題ないだろう」


俺はそう言って肉まんの袋を見せる。


「なんやあんた、これ街の中華街の肉まんやないの。せっかく東京から帰ってきたんやから、あのなんとかバナナとか鳩のサブレとか買ってきなさいよ。それになんやその喋り方、めっちゃ違和感あるわ。まぁええわ、はよ家入って手ぇ洗い。ほら、優もいつまでもお兄ちゃんにべたべたせぇへんの!」


それだけ一気に捲し立てると、お袋は家に入ろうとする。

久しぶりだな、このパワフルさ。

相も変わらず抱きついてくる優を解きほどいて、俺もお袋に続き家に入ろうとする。


「そう言えば秀」


お袋が振り返る


―おかえり


ただいま、と久しぶりに


本当に久しぶりに誰かに言った。







玄関に経つと、夕食の香りがする。今日の晩ごはんは何だろうか?

何でも良いが、久しぶりにいかなごのくぎ煮が食いたい。

とはいえ、もう季節が終わって随分経つから、もうどこにもないだろうな。

あースジコンとかも久しぶりに食いたいな


などとどうでも良い事を考えながら家に入ったが、その途端優に引っ張られて、優の部屋に連れ去られた。


俺の周りって、割かし強引な女性ばっかだな。


とりあえずソファーに座ってくつろぐことにしたが、優は着がえも疎かにして俺の隣に陣取り、学校であったことや、他愛もない話をしていた。

部活は入っておらず、図書委員をしていること。

最近は週3回くらいのペースで晩ごはんを作ってる事。

親父はどうやら優の作る筑前煮が最近のお気に入りらしい。

優ばっかり喋らせるのもなんなので、俺の方から優に将来の夢について聞くと、顔を赤らめて俯いてしまった。

気になったので少ししつこく聞くと、優は蚊の鳴くような小さい声で、


お兄ちゃんのお嫁さん、と言った。


―リン、と風鈴が鳴る。

蝉の声が遠くに聞こえる。

優は相変わらず俯いたまま、顔を真っ赤に染めている。

どないせえっちゅうねん。


「そ、そう言えば優、よく俺の顔がわかったな」


なんとも言えない空気を変えるために、強引に話の流れを変える。


「だって毎日額縁に入れたお兄ちゃんの写真眺めとったし」


とびきりの笑顔でそう答える優。

話変わらなかったー。むしろ聞いてはいけない領域に飛び込んじゃったー。


「その、なんだ、俺がいなくなってから毎日か?」

「せやで!」


どうしよう。

妹がちょっと怖い。


「でもあごに髭生やしとうとは思わんかったから、ちょっとわからんかったわー」

「そ、そう言えば布引もそんなことを言ってたなー」


話を打ち切るために、さらに強引に話を変える。


「ちょっと・・・待ってお兄ちゃん・・・布引って布引千夏の事?」


カチッと地雷を踏んだような音がした気がする。

それだけじゃない、急に周囲の気温が下がった。これは気のせいじゃない。

スタンド攻撃か?

とりあえずそんなことはどうでも良い。


「もしかして、布引の事知ってるのか?」


俺の妹の優が彼女の事を知っているということは、布引と俺が昔知り合いだったと言うことが、一気に現実味を帯びてくる。


「知ってるも何も・・・お兄ちゃんうちが小さい時よう家につれてきてたやん!仲良さそうにして・・・」

「そうだったか?」


彼女の事を覚えていない、と言うことを詳しく話すとややこしくなりそうなので、適当に話を濁す。


「あの女、お兄ちゃんが東京行ってからもちょくちょく家に来て、お母さんと世間話とかして!お母さんもお父さんもすっかりあの女の事気に入って!最近は家に来る度にいつ嫁に来るんとか聞いて!」


なんだそれ、親父ともお袋ともちょくちょく電話してたがそんな話一度も聞いたことないぞ。

それに、さっき会ったとき布引の奴そんな事一言も言ってなかった・・・日曜日あいつに会う時に、聞くことが増えたな」


考えていることが、途中から口にでてしまった。


「は?日曜日あの女と会うん?てか、こっち帰ってきてうちに会うより先にあの女に会うたん?」


俺の漏れでた独り言を、耳敏く聞き付けた優が、急に無表情になった。

触れてはいけない話題だったらしい。優の眼がマジで怖い。

顔からは表情が欠落していると言うのに、眼だけは炎が燃え上がっているようだ。

これはあれや。

あかんやつや。

こんな顔をできるなんて・・・

あぁ、昔日の無邪気な優はもういないのか・・・


「うちも行く」

「いや・・・」

「うちも行く」

「しかし・・・」

「うちも行く」


あぁとか、うぅとか言葉にならない鳴き声を発する俺に対して、我が妹は無機質な表情を保ちながら、中学生の少女とは思えないほど冷たい声でそう繰り返す。


「まぁ・・・良いと思うよ・・・」


俺は優に押しきられる形で、了承する。


「えへへ、良かったー。うちがおればどうとでもなるし・・・そう言えばお腹すいたなー。そろそろリビング行こ!」


優は笑顔を取り戻し、とてとてとリビングに降りていった。


俺は優の部屋に一人残される。


―リン、と風鈴が鳴る。


夏の盛りにも関わらず冷えきった部屋に響きわたるその涼やかな音色は、7歳も離れた妹に威圧された俺の心に深く染み入った。





リビングに降りると、いつの間にか親父も帰ってきていた。


「なんだ、親父も帰ってきてたのか」

「なんや、いうてそらこっちのセリフやがな。久しぶりに親に会うて最初に言う言葉がそれかい」

「ああ、すまん・・・ただいま」

「ほいお帰り。まぁ座りや、お前もう二十歳越えとるやろ」


親父はそう言うと、俺の前にグラスをおいてビールを注ぐ。


「お前も今までずっと東京おってな、やっとこさこっち帰ってきて、なんか思うことあるかもしれんがな」

「あぁ」

「俺はな、お前が生まれたときから、こうやって一緒に飲むのが夢やったんや」


―やから、お前が無事帰ってきて、こうして一緒に酒が飲めるんが最高の親孝行やわ。




「って、なに恥ずかしい事言わせとんねん!はよ飲め飲め!ほら、乾杯!」


親父はそう言うと、誤魔化すように飲み始める。

その時、台所からお袋と優が料理を持って出てくる。


「なんや、男共は!愛らしい女性陣に料理運ばせて、自分らは酒かいな!ええご身分やなぁ!」

「阿呆。優はともかくお前が愛らしいってどういうこっちゃねん!」


ぎゃーぎゃーと言い合う両親。


「お兄ちゃんは座っとってええよー。うちとお母ちゃんで全部運ぶから。ほら、お父ちゃんもお母ちゃんも、せっかくお兄ちゃん帰ってきてんから言い合うんはやめーや!」


騒がしい。

だが、悪くない。

6年も帰ってこなかった俺を、なんの気負いもなく、気遣いもなく、受け入れてくれた。

ありのままに。

普段の菊水家に、そのまま溶け込ませてくれた。

何だか嬉しくて、少し泣きそうになって


もう一度、小声でただいま、と言った。



「ところで秀」



そんな俺の感傷は、親父の発する次の一言で、無惨に打ち砕かれた。



―こっち帰ってきたっちゅうことは、千夏ちゃんと一緒になるんか?



バキッと音がする。

音がした方を見ると、優が箸を握りつぶしていた。


「あれー?この箸結構長いこと使うとったから、腐ったんかなー?」


あははーと笑う優。

目は笑ってない。


「しっかし、今時珍しく奥ゆかしい子やなー。先輩が東京で頑張ってる邪魔したくないから、こちらから連絡はとらへんけど、近況だけは教えてほしいてか!なんやいじらしいなぁ!お母さん」

「せやでお父さん!いつか秀先輩が迎えに来てくれるって言うとったから、それまで待ちたいやと!はよ迎えに行ったりや!秀先輩!」


こう言うときだけ仲良いのは昔から変わらない。

優の方をチラリと見る。

無表情でこちらを凝視している。

冷や汗が出る。


さて、どう切り抜ける。


俺の両親はいつもちゃらんぽらんだが、異性関係に関する冗談は昔から許さない。

しかも、すっかり俺が結婚するものと思い込んでいる

ここで布引千夏なる人物など知らない、などと言ってみろ。

確実に明日の朝日は拝めない。


かといって結婚するつもりだと言うのもいかがか?

そもそも俺が覚えている限りでは布引千夏とは初対面だ。(今となっては様々な要因から、俺の記憶の方に問題があるという考えに大分傾いているが)

そんなわけでいきなり結婚しますと宣言して、両親が今以上に乗り気になられるのも困る。

過去の俺が、迎えに行くなどと宣っていたのなら、まず記憶を取り戻すのが先決だ。


それに何より


何より、優が怖い


先ほどから無言、無表情で瞬きもせずこちらを凝視し続けている。

なまじ顔が整っているだけに、人形じみていて空恐ろしい。



「まぁ、その、今度の日曜日に会ってくる。大切な話があるしな。あ、それとその時に優も連れていく。優は俺にとって大切な存在だからな」


嘘は言ってない。

とりあえず無難な言葉を選び、少し無理矢理感が強いが我が妹に対する牽制も練り込んだ、悪くなかろう。


優を見る。

無表情が維持できないようで、引くくらいニヤニヤしてる。

よし!

牽制は成功した。

今のうちに両親を言いくるめる!


「実は今日、ぬの・・・千夏とあって、久しぶりに話をしたんだ。それでさっきも言ったけど、日曜日に千夏の゛家゛で会う約束をした」


ここで切り札、「相手の家で会う」を発動!

これにより両親は勘違いをしてくれるはずだ!


「あら、お父さん、おうちデートってやつやで!」

「なんやなんや、秀も隅におけんのう!避妊はせんでええで」


なに言ってんだ


「でもせやったら優は家に置いていった方がええんちゃうの?いろいろ、邪魔やろ?」


グヘヘ、と笑う親父。

セクハラだぞ。

なんにせよこの疑問が最大の難関だ。

この難問に答えられるかどうかが俺の明日を左右する!


「いや、俺はまだ大学生だし、勢いで子供を作ってしまってはいけないと思うんだ。だが、やはり久しぶりに千夏と会う訳だし、我慢出来なくなるかもしれない。果たしてそれで良いのだろうか?いや、良いわけがない!優はそんな俺をとめてくれる唯一の存在なんだ!なんたって優は世界一大切な妹だからな!」


自分でも何を言ってるのかわからんが、勢いで押しきる。

こう言うのは勢いが大切なんだ。

古事記にもそう書かれている。


優を見る。

頬っぺたに手を当てて、

「うちのことが世界一大切な女の子やなんて・・・どないしよ・・・」

と言っている

多少違うが・・・まぁ問題なかろう。


両親を見る。

お互いに、うんうん、なるほど、などと頷きあっている。


All Clear!!


丁度夕食も食べ終わった。

俺は華麗に食器を下げ、熱いシャワーを浴び、自分の部屋に退避してくる。

電撃作戦は成功した。

この部屋も家を出たときと変わらない姿で、俺を迎えてくれる。

埃が溜まってないところを見ると、掃除してくれたのだろう。

俺はいい気分でソファーにドカッと座り込む。



問題は解決した・・・



ん、待てよ?

落ち着いて考えたら、俺はとんでもないことを言ったんじゃないか?


優の様子を思い出す。

話を聞いていて解ったが正直な話、優はブラコンだ。それも重度の。

俺の言葉は、そんな優に止めを刺したんじゃあないか・・・?


―ブラコンの限界突破、


冷や汗がツゥーッ、と首筋から脊髄に沿って流れ落ち、下着のところで止まった。


俺は両親の目の前で、布引を見たらもう辛抱溜まらんくて押し倒してしまうかもしれん、と宣言したも同然だ。

それにあの両親なら、大学卒業したら子作りしまくりますよ、と捉えてもおかしくない。


自分で自分を追い詰めてしまった。


策士柵に嵌まる、か・・・


後悔しても後の祭り。

口から出た言葉はもう返らない。


・・・・・・


・・・よし、寝るか。

寝て起きたら、明日は東京の探偵事務所のソファーで目覚めるかもしれん。

そうして、いつも通りの一日が始まるんだ。

コーヒーを入れて、夢子さんが持ってくる、よくわからない事件の資料を見て、のんびり一日が過ぎて。

そうだ、きっとそうに違いない。

さっさと寝よう。



俺はベッドに潜り込み、明日から再開するであろう、いつも通りの日常を信じて眠りにつく。

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