あふれでた水
「ママー、大変~!!」
トイレから息子の叫び声が聞こえる。
いったい何があった?
干しかけの洗濯物の手をとめて、あわてて駆けつければ、水が溢れ池と化した個室とへらりと笑う息子、大地の姿にがあった。
「……なんなのこれ?」
「つまっちゃった……」
便器を覗けば溢れる水の奥底にトイレットペーパーの塊が見える。
「詰まったって、一体何を流したの!」
あまりの惨状にくらりと目眩がした。頭に血が昇ったまま激情で大地を叱り飛ばせば、リビングから五月蝿い!と主人の不機嫌な声が響く。
なにそれ?
水浸しの床も詰まったトイレも片付けるのは私なのに。
もしかしてトイレのつまりが応急措置で直らなかったら、業者を呼ばないといけないのに。
そうしたら費用が、思わぬ出費がかかるのに。
そんなお金どこにもないのに。
ニュースバラエティー見て、このトイレの惨状も見ないで五月蝿いって。
なんなの、それ!
ありったけの雑巾を持ってきて、床の水を吸いとらせ、まとわりつく大地に、トイレットペーパーは使いすぎず適切な量を流しなさいと注意と小言をこぼし。
とりあえず便器の中に掃除用のブラシを突っ込んで、底にたまっていたトイレットペーパーを押し込んでみる。
なみなみと溢れていた水が少しずつ渦を巻いて流れ出してゆくのをみて、ほっと息をつく。
とりあえず、業者に電話はかけなくても良いらしい。
雑巾を絞っては水をすいとらせるのを、何度か繰り返して水溜まりをなくし、床を拭きあげると、どっと力が抜けた。
廊下の壁にもたれて座り込む。
あーあ、どこか遠くに行きたい。
家事とか、家事とか、家事とか、……流石にちょっと疲れたよ。
きりがないし。
新婚のときはなにかと手伝ってきた主人も、今ではソファーの置物と化してるし。
せめてお茶くらい、たまには誰かに淹れてもらったものがのみたい。
大それた望みなのだろうか。
ぼんやりとした頭でしばらくその場に固まっていた永都子は、仕方がないからとっておきの紅茶を自分でいれることにして、次の仕事を制覇するべく立ち上がった。
そとは真夏日。
朝から3回目の洗濯機が稼働の停止をお知らせしていた。