想いの力
「死ねぇ!」
「グウッ!!」
ウィゴの剣が俺の心臓に突き刺さる。
だが、俺は必死に心臓に力を集中させて回復させていく。
瞬時の回復により、俺の体内は完全に元に戻る。すると、一瞬だけ奴の剣を俺の中に閉じ込めることができるんだ。
「なっ!? 引き抜けな――」
「おりゃあああ!!」
今もてる最大限の力を使ってウィゴの腕を切り飛ばす。それから、彼の腹部を蹴って地面に倒れ込ませた。
「ハァッ……ハァッ……!!」
意思を無くしたウィゴの腕を強引に引き抜き、そこら辺に投げ捨てる。
また心臓から血が吹き出たが、すぐに回復させてそれを止める。
この捨て身の戦法に驚いているのもあるが、やはり、一番驚いているのは俺が能力を使用できることだろう。
それがウィゴの表情から読み取れる。
「バカな……!? 能力は全て奪ったはず……!」
「……いいぜ。何度でも奪ってこい。その度に俺は能力を復活させてやる……!」
「ふ……ふざけるなっ!!」
腕を拾い上げ、くっつけるウィゴ。彼は病み上がりの腕で俺の体に触った。
力が吸い上げられていく感覚。だが……無意味だ。
「ハハハッ……! これでお前は本当に能無しの人間に――」
「――と思うか?」
剣に炎を纏い、ウィゴの肩から斜めに切り下げる。
思いもよらない激痛に、ウィゴは地面をのたれ打つ。
「グゥゥゥ!! な、何故だ!? 確かに今能力を吸収したはずなのに!」
「……みんなとの絆がある限り俺は負けない」
「そ、そんな馬鹿なことがあるか! 能力が自動的に生み出されるなど……!」
「感謝してるよ『奪取』。お前のおかげで、この力……スキルを愛することができた」
「ス、スキル? ……あ、あいつ……まさか!!」
誰のことを言っているのか分からないが、ウィゴはその誰かを脳内に思い浮かべて瞳を震わせて怒っている。
「ハ……ハハハッ……! 僕は『奪取』! 奪えない能力はない! ケイ! だったら、貴様の能力を全て吸収しきってやる!」
「やってみろ」
「グワァァァ!!」
己を鼓舞する叫び声だろう。ウィゴは剣を持って突進してくる。
だが……もう終わりだ。
――ずっと向き合っていく。それが私の答えなんだろうな。
先輩の想い。俺はずっと先輩を信頼してます。俺の両親をこんなにも大切に想ってくれる先輩を……俺はこれからも大切にしていきたい。
「――読めるんだよ」
「なっ――」
ウィゴの剣を弾き飛ばし、再びウィゴの腕を切り飛ばす。
彼がそれに気づいた瞬間、俺は彼の背後にいた。
「き、急に動きが早く……!」
「どうした? 俺の能力を吸収してんだろ? だったら着いてこれなきゃおかしいよな? 今の俺の動きに」
「当たり前だ!」
本気を出したようで、ウィゴの動きも早くなる。
だが、それは誰かに教えてもらっただけの、コツも慣れもない素人同然の動きに過ぎない。
言うまでもなく、次の瞬間、ウィゴは地面に三度倒れ込んでいた。
「グゥゥ……他人の力で……好き勝手……しやがって……。結局、僕と同じ……他人の力を奪っているだけなのに……」
「俺とお前が同じ? ……違うな」
「何……?」
「俺はみんなとの絆があるから能力が使えるんだ。ウィゴの心さえ押さえ込んでいるお前なんかに……俺が負けるかよ」
「ハ……ハハハハハハハハハッ!!」
何かを悟ったかのように、高らかに笑いあげるウィゴ……いや『奪取』。
これで、お前も終わりだな。
ようやく気がついたのか、アリーがユニに支えられながら俺たちを見ていた。
その表情には、どこか大人びたような、ホッとした顔が見える。
「さあ『奪取』。ウィゴから出て行け。さっさとお前を殺す」
「クククッ……! 良いだろう! 出て行くさぁ!! 次はアリー!! お前に憑いてやるっ!!」
「何だと?」
「ヒャッハア――ア……ア……!?」
ウィゴの目が光る。それと同時に曇り空のような黒い煙が吹き出してくる。
しかし、それは途中で止まった。完全に出ていかず、半分はウィゴの体を覆っていた。
「アリーは……やらせない……!」
「……ウィゴ! まさか意識が!」
「ケイ……さん……! コイツは……僕が……引き止める……! だから……今のうちに僕ごと斬り殺してくれ……!」
「何だって!? そうすればお前も死ぬことになるんだぞ!?」
「……僕は……力を欲したせいで……取り返しのつかないことを……! グッ! ……だから、せめてもの贖罪なんです……!」
「うぃー……くん」
アリーがボソリと呟く。
彼の中に宿っていた微かな良心。それが『奪取』を引き止めているんだ。
「アリー……ごめん……君の……新しい故郷を……こんなにしてしまって……」
「……うぃーくん! うぅ……」
「君だけは……ウグッ!! ど……どんなに支配されていても……ガァッ! ま、守りたいと……思っ……」
彼の苦しむ声が多くなってきた。もしかしたら、彼の努力が無駄になってしまうかもしれない。
もう、あまり時間がないようだ。
「……ウィゴ。お前の思いは無駄にはしない」
「……ありがとう……ケイさん……アリーを……頼みます……それと……ごめん……オーヴィンのみんな……」
剣を走らせ、ウィゴの体を斬り刻む。
激痛があるだろう。しかし、彼は最後まで叫び声を出さず、ジッと耐えていた。
黒い煙も力を失っていく。煙は彼の体へと再び戻っていき、完全に消え去った時と同時に、ウィゴの人間としての役目も終えた。
「ウィゴ……最後に罪滅ぼし、か……」
死体に永遠に閉じ込められた『奪取』。彼も息絶えたのだろうか。
俺の中に完全に力が戻ってきたのを確信した。
そして、それと同時にサマリが吐血して深呼吸を繰り返す。
「ガハッ!! ……ほ、本当に……死ぬかと思った……!!」
「サマリ!」
真っ先に駆け寄る俺。
サマリを抱き起こし、彼女の九死に一生を得た生還の喜びを一番初めに目撃する。
「ったく……いつもそうやって死ぬ真似してるからそうなるんだよ」
「えへへ……面目ないね……後輩くん」
「……ありがとうな、サマリ。お前のおかげで、俺はここまでこれたんだ」
「……嬉しい……私を頼ってくれるの……?」
「当たり前だろ? サマリはもちろん、アリーやユニだって、これからも頼らせてもらうよ」
「な……なーんだ……私一人……じゃ……残……」
安心しきったのか、サマリはそこで気絶する。
まったく……誰が運ぶと思ってんだよ。そう思いながらも、彼女が無事だったことに安堵する俺。
何だかんだ言っても、彼女のことが大事に思ってるんだな。それが、俺の力の源になるんだ。
彼女を背負って、俺はユニとアリーの元へと向かう。
「大丈夫か? アリー」
「……うん。うぃーくん、最後にうぃーくんとして……私に微笑んでくれた……」
「ああ。あいつの心は確かにアリーのことを想っていた。それを利用したのは『奪取』だ」
「そうだよね……。でも……」
遠い目になるアリー。彼女は恐らく、この国を荒らしたウィゴの影を思い描いているのだろう。
仲間のオーヴィンを騙し、国の兵士を殺し、この国を占拠した。その事実は変わらない。
だけど、あいつは最後に自分の心を取り戻して『奪取』に抵抗したんだ。そして……責任を取った。
事実は許されない。けど、あいつの意思だけは、俺は讃えたいと思う。
「行こう。囚われた人や王様が心配だ」
「ケイくん。王様ももしかしたら……」
「大丈夫だ。そんなことをしたら、きっと周辺国から袋叩きにされるはずだからな。この国を治めるのと同時に、王様はシンボルなんだ」
「分かったの。多分、リーダーさんが先に探しているはずなの」
俺は頷き、今来た階段を降りていく。
今度こそ、本当の敵を見定めないとダメだ。待っているだけじゃ、ダメなんだ。
……その見えない敵に気づかず、利用され、人間同士が争ってる場合じゃないんだ。




