表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/143

想いの力

「死ねぇ!」


「グウッ!!」


 ウィゴの剣が俺の心臓に突き刺さる。

 だが、俺は必死に心臓に力を集中させて回復させていく。

 瞬時の回復により、俺の体内は完全に元に戻る。すると、一瞬だけ奴の剣を俺の中に閉じ込めることができるんだ。


「なっ!? 引き抜けな――」


「おりゃあああ!!」


 今もてる最大限の力を使ってウィゴの腕を切り飛ばす。それから、彼の腹部を蹴って地面に倒れ込ませた。


「ハァッ……ハァッ……!!」


 意思を無くしたウィゴの腕を強引に引き抜き、そこら辺に投げ捨てる。

 また心臓から血が吹き出たが、すぐに回復させてそれを止める。


 この捨て身の戦法に驚いているのもあるが、やはり、一番驚いているのは俺が能力を使用できることだろう。

 それがウィゴの表情から読み取れる。


「バカな……!? 能力は全て奪ったはず……!」


「……いいぜ。何度でも奪ってこい。その度に俺は能力を復活させてやる……!」


「ふ……ふざけるなっ!!」


 腕を拾い上げ、くっつけるウィゴ。彼は病み上がりの腕で俺の体に触った。

 力が吸い上げられていく感覚。だが……無意味だ。


「ハハハッ……! これでお前は本当に能無しの人間に――」


「――と思うか?」


 剣に炎を纏い、ウィゴの肩から斜めに切り下げる。

 思いもよらない激痛に、ウィゴは地面をのたれ打つ。


「グゥゥゥ!! な、何故だ!? 確かに今能力を吸収したはずなのに!」


「……みんなとの絆がある限り俺は負けない」


「そ、そんな馬鹿なことがあるか! 能力が自動的に生み出されるなど……!」


「感謝してるよ『奪取』。お前のおかげで、この力……スキルを愛することができた」


「ス、スキル? ……あ、あいつ……まさか!!」


 誰のことを言っているのか分からないが、ウィゴはその誰かを脳内に思い浮かべて瞳を震わせて怒っている。


「ハ……ハハハッ……! 僕は『奪取』! 奪えない能力はない! ケイ! だったら、貴様の能力を全て吸収しきってやる!」


「やってみろ」


「グワァァァ!!」


 己を鼓舞する叫び声だろう。ウィゴは剣を持って突進してくる。

 だが……もう終わりだ。


 ――ずっと向き合っていく。それが私の答えなんだろうな。


 先輩の想い。俺はずっと先輩を信頼してます。俺の両親をこんなにも大切に想ってくれる先輩を……俺はこれからも大切にしていきたい。


「――読めるんだよ」


「なっ――」


 ウィゴの剣を弾き飛ばし、再びウィゴの腕を切り飛ばす。

 彼がそれに気づいた瞬間、俺は彼の背後にいた。


「き、急に動きが早く……!」


「どうした? 俺の能力を吸収してんだろ? だったら着いてこれなきゃおかしいよな? 今の俺の動きに」


「当たり前だ!」


 本気を出したようで、ウィゴの動きも早くなる。

 だが、それは誰かに教えてもらっただけの、コツも慣れもない素人同然の動きに過ぎない。

 言うまでもなく、次の瞬間、ウィゴは地面に三度倒れ込んでいた。


「グゥゥ……他人の力で……好き勝手……しやがって……。結局、僕と同じ……他人の力を奪っているだけなのに……」


「俺とお前が同じ? ……違うな」


「何……?」


「俺はみんなとの絆があるから能力が使えるんだ。ウィゴの心さえ押さえ込んでいるお前なんかに……俺が負けるかよ」


「ハ……ハハハハハハハハハッ!!」


 何かを悟ったかのように、高らかに笑いあげるウィゴ……いや『奪取』。

 これで、お前も終わりだな。


 ようやく気がついたのか、アリーがユニに支えられながら俺たちを見ていた。

 その表情には、どこか大人びたような、ホッとした顔が見える。


「さあ『奪取』。ウィゴから出て行け。さっさとお前を殺す」


「クククッ……! 良いだろう! 出て行くさぁ!! 次はアリー!! お前に憑いてやるっ!!」


「何だと?」


「ヒャッハア――ア……ア……!?」


 ウィゴの目が光る。それと同時に曇り空のような黒い煙が吹き出してくる。

 しかし、それは途中で止まった。完全に出ていかず、半分はウィゴの体を覆っていた。


「アリーは……やらせない……!」


「……ウィゴ! まさか意識が!」


「ケイ……さん……! コイツは……僕が……引き止める……! だから……今のうちに僕ごと斬り殺してくれ……!」


「何だって!? そうすればお前も死ぬことになるんだぞ!?」


「……僕は……力を欲したせいで……取り返しのつかないことを……! グッ! ……だから、せめてもの贖罪なんです……!」


「うぃー……くん」


 アリーがボソリと呟く。

 彼の中に宿っていた微かな良心。それが『奪取』を引き止めているんだ。


「アリー……ごめん……君の……新しい故郷を……こんなにしてしまって……」


「……うぃーくん! うぅ……」


「君だけは……ウグッ!! ど……どんなに支配されていても……ガァッ! ま、守りたいと……思っ……」


 彼の苦しむ声が多くなってきた。もしかしたら、彼の努力が無駄になってしまうかもしれない。

 もう、あまり時間がないようだ。


「……ウィゴ。お前の思いは無駄にはしない」


「……ありがとう……ケイさん……アリーを……頼みます……それと……ごめん……オーヴィンのみんな……」


 剣を走らせ、ウィゴの体を斬り刻む。

 激痛があるだろう。しかし、彼は最後まで叫び声を出さず、ジッと耐えていた。

 黒い煙も力を失っていく。煙は彼の体へと再び戻っていき、完全に消え去った時と同時に、ウィゴの人間としての役目も終えた。


「ウィゴ……最後に罪滅ぼし、か……」


 死体に永遠に閉じ込められた『奪取』。彼も息絶えたのだろうか。

 俺の中に完全に力が戻ってきたのを確信した。

 そして、それと同時にサマリが吐血して深呼吸を繰り返す。


「ガハッ!! ……ほ、本当に……死ぬかと思った……!!」


「サマリ!」


 真っ先に駆け寄る俺。

 サマリを抱き起こし、彼女の九死に一生を得た生還の喜びを一番初めに目撃する。


「ったく……いつもそうやって死ぬ真似してるからそうなるんだよ」


「えへへ……面目ないね……後輩くん」


「……ありがとうな、サマリ。お前のおかげで、俺はここまでこれたんだ」


「……嬉しい……私を頼ってくれるの……?」


「当たり前だろ? サマリはもちろん、アリーやユニだって、これからも頼らせてもらうよ」


「な……なーんだ……私一人……じゃ……残……」


 安心しきったのか、サマリはそこで気絶する。

 まったく……誰が運ぶと思ってんだよ。そう思いながらも、彼女が無事だったことに安堵する俺。

 何だかんだ言っても、彼女のことが大事に思ってるんだな。それが、俺の力の源になるんだ。

 彼女を背負って、俺はユニとアリーの元へと向かう。


「大丈夫か? アリー」


「……うん。うぃーくん、最後にうぃーくんとして……私に微笑んでくれた……」


「ああ。あいつの心は確かにアリーのことを想っていた。それを利用したのは『奪取』だ」


「そうだよね……。でも……」


 遠い目になるアリー。彼女は恐らく、この国を荒らしたウィゴの影を思い描いているのだろう。

 仲間のオーヴィンを騙し、国の兵士を殺し、この国を占拠した。その事実は変わらない。

 だけど、あいつは最後に自分の心を取り戻して『奪取』に抵抗したんだ。そして……責任を取った。

 事実は許されない。けど、あいつの意思だけは、俺は讃えたいと思う。


「行こう。囚われた人や王様が心配だ」


「ケイくん。王様ももしかしたら……」


「大丈夫だ。そんなことをしたら、きっと周辺国から袋叩きにされるはずだからな。この国を治めるのと同時に、王様はシンボルなんだ」


「分かったの。多分、リーダーさんが先に探しているはずなの」


 俺は頷き、今来た階段を降りていく。

 今度こそ、本当の敵を見定めないとダメだ。待っているだけじゃ、ダメなんだ。

 ……その見えない敵に気づかず、利用され、人間同士が争ってる場合じゃないんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ