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頂上への到達

「何だ……これ」


 俺が城の頂上を登っていき、あと一階で頂上に付くだろうという時、俺の目には異様な光景が広がっていた。

 人間とモンスターだったものの残骸が、あちこちに散らばっていたのだ。

 幸いなことに、血溜まりが床に無いことで卒倒は避けられたが、その光景は思わず目を逸してしまうほどだ。


「す……凄い力なの。ここまでの力を持つ人間がいたというの……?」


「……ん?」


 多くの死体が乱雑に配置されているこの場所で、俺はある部屋に注目した。

 その部屋の奥には、少量だが血液が付着している。死体はない。なら、何であの場所に血液が……?

 頭の回転がまだ戻らないため、どうすればいいか分からない。とりあえず、ユニに聞いてみるしかないか。


「ユニ……あそこに血痕が」


「……分かったの」


 俺がしてほしいことを何となく理解できたのか、ユニはその部屋へと向かう。

 彼女は床に付着した血液を人差し指で拭って、それをジッと見つめていた。そして、俺へ振り返る。


「これはサマリさんの血痕だと思うの」


「サマリの!? じゃあ、この惨状はサマリがやったってのか!?」


「それは分からないの。でも、ここにサマリさんはいない。アリーもいない」


「……じゃあ、この上にいるってことか」


「なの。行こう、ケイくん」


 はやる気持ちのままに、俺たちは頂上へと向かう。

 そこにサマリとアリーがいることを信じ。その階の光景も、また悲惨なものだった。

 全ての扉が開け放たれているのだ。しかも、扉は完全に破壊されている。


「これも……サマリの仕業?」


「うーん……多分、違うと思うの……」


 一つ一つ部屋を調べていく。

 最後の部屋を残し、全て調べ終わったが……そのどれもが無人だ。

 一体、何の目的で扉を破壊しまくっているんだ? まあいい。その答えが最後の部屋に残されているに違いないさ。

 ユニと並んで歩きながら、慎重に部屋の前にたどり着く。


「……よし、行くぞユニ」


「分かったの」


「一体、この階で何が起こっ――」


「ケイさん!!」


「――うぉっ!?」


 部屋に侵入しようとしたその時、何者かが俺に抱きついてこようとしてきた。

 間一髪、俺はその何者かを回避することに成功する。


「――ってえぇぇぇヘブッ!!」


 勢いついて突進してきたソイツは、前のめりになって床に突っ伏してしまった。

 誰だよ一体……って、まさか……。

 彼女の服装。およそ護衛隊のリーダーとは思えないだろう白を基調としたカットソー。そんなに大きくないのに、大きく胸を開いた服が特徴の衣服。これはヒーラーの制服だと前に聞いたことがあるんだが、ホントか?

 とにかく、こんな衣装を着てこんな場所にいるってことは、リーダーその人に違いない。


「リ……リーダーさん……。何をしているの?」


 呆れたような口調でユニが質問をする。

 ずっこけたせいで大きなお尻をこちらに向けているリーダーは、鼻を優しく撫でながらゆっくりと立ち上がった。

 残念でもないが、パンツは見えない。長いスカートを履いているからな。

 向き合った時、彼女の鼻が赤く腫れていたことを考えれば、倒れた時に鼻を擦ったな?


「ヒグゥ……酷いですケイさん……。せっかくケイさんのために魔法のこと隠してたのにぃ……あの人でも、こんなことしなかったですよぉ……」


「いや、俺は身の危険を感じただけだぞ?」


「明らかに女の子の声だったのに、避けたケイくんもどうかと思うの……」


「じづは……私だってこと分かってました?」


「……多分、俺の本能が拒絶したんだろうなあ」


「だとしたら……酷すぎますよケイさん!」


「リーダーさんなら……仕方ないの。サマリさんの危機に菓子折りを持ってくるくらいだから……」


「そ、それを言うならユニちゃん! あなたこそサマリさんに火の輪っかをくぐらせようとしてませんでしたっけ!?」


「あれー? 何のことなのー? ユニ、分かんないのー」


「……はぐらかしましたね?」


 そんな下らないことより、聞きたいことは山ほどある。

 この状況で、俺の真剣な表情なら伝わると思い、俺は短い言葉でリーダーに伝えたのだった。


「リーダー……教えてくれ」


「……コホン。分かりました。ケイさんにお教えいたします」


 珍しくマジな顔つきになったリーダー。ある意味で、任務を言い渡す時よりも深刻そうだ。

 一体、どんな事実が公表されるのか。俺は固唾をのんで彼女の言葉を待った。


「今のは……」


「今のは?」


「――ちょっとしたドラマをやってみたくて演じてみたんです」


「……なの?」


「……でも、私の演技力を見せつける前に、残念な結果になってしまったようですね……。本当にオーヴィンの連中を騙せてたのか、甚だ疑問です……」


「……おい」


「しかしながら、結果としてはオーヴィンの連中を騙し続けることができたんですから……やっぱり、私って演技の才能がある――」


「違う! アリーとサマリはどこにいるんだよっ!!」


「う……うぇぇ……アリーちゃんと同じように怒るんですね……」


「当たり前だ! サマリでもこんな状況で下手な冗談は言わないぞ!」


「サマリさん以下……なの」


「ご……ごめんなさい。私、空気読めてないです?」


 その質問に、打ち合わせがなくとも俺とユニは同時に頷いた。

 がっくりと項垂れるリーダー。そう言われたくなかったら、サマリのように空気を読んでほしいものだ。


「……分かりました。アリーちゃんとサマリさんですけど、今、彼女らはメルジスしてます」


「メルジス? それって何なの?」


「あっ、ケイさんたちはご存知ないんですね。あの、オーヴィンの連中が石を使用してモンスターと融合していたと思いますが、その行為がメルジスです」


「つまり、アリーとサマリが同化してるってことか」


「そうなります。そして、彼女はあそこの穴から更に上の階へと……」


 リーダーが指差すその方向。確かに大きな穴が空いている。

 そこから上がれるというわけか。……つまり、あそこが最終決戦の場所ということになる。


「ウィゴもそこにいるんだな」


「はい」


「……あいつら、俺を置いてウィゴと戦ったのか。リーダー! どうして止めなかったんですか!?」


「も、もちろん私も止めましたよ! でも、ウィゴと決着をつけるのは自分だと言ってきかなくて……」


「……それだけじゃないの」


「どういうことだ、ユニ?」


「きっと、能力が無くなったケイくんのことを想って、自分がケイくんを救う。そんな決意でウィゴと戦っているはずなの」


「……アリー……サマリ……!!」


 くそっ、俺の心が弱かったばかりに心配させてしまうなんて……。

 大事なのは、俺だって同じなんだぞ……!


「行こうユニ。サマリたちを救いに」


「なの。こっちに戻ってきてないってことは、上で何かが起こってるという証拠なの」


「そうだな……!」


 リーダーを置いて素早く階段を駆け上がっていく俺とユニ。

 まあ、リーダーが着いてきても戦力にはならないと思うし……。

 陽の光が差しているその一点を目指し、俺たちはようやく頂上へと出れた。


「アリーとサマリは……!」


「ケイくん、あそこなの」


「……!?」


 そこには、アリーとサマリの二人がウィゴの前にひれ伏していた。

 地面に力なく倒れている二人。もしかして……彼女たちは……! い、いや、ウィゴに限ってアリーはあり得ない……! それなら……サマリが……!!


「……ん? ああ。負け犬のケイじゃないか」


 うつ伏せに倒れているサマリの背中を蹴り上げながら、ウィゴは俺に視線を合わせてニヤリと眉を動かす。

 止めろ……サマリに……そんなことすんじゃねえ……!

 怒りで力の入らない拳に力を込めていく。人一人気絶させられない今の拳。だが、俺の怒りは目の前の人間を殺したいと思うほど燃え上がっている。


 次に視線をユニに移したウィゴは明らかに俺をバカにしたように鼻で笑う。

 なるほど。ユニの力だけでここまで来たと勘違いしてるんだな。上等だ。その油断が命取りってことを教えてやる。


「タイミングがいいなあ、サマリ。お前を殺す前に、目の前の負け犬を殺すことに決めたよ」


 何の反応がないほど痛めつけられたのだろう。サマリはウィゴの囁きにピクリとも動かず反応を示さない。

 それを不快に思ったのだろう。ウィゴはサマリの腹部を蹴り上げ、彼女を仰向けにさせた。


「何とか言ったらどうだよ? ん? さっきまでの威勢はどこに消えたのかなあ?」


「……サマリを傷つけるな」


「ケイ。まだお前には何も――」


「これ以上、俺たちの大切な人に触れることは許さない……!」


「……そう言えるだけ、お前に力があるのか?」


「俺にはないさ」


「ケイくん……?」


 力がない。そう吐き捨てる俺にユニが心配の眼差しを送ってくれる。

 大丈夫だ。俺は迷いを捨てた。迷いはもう……あの時の涙で終わりなんだ。


「俺は弱い。それは周知の事実だろう? ウィゴ」


「……ああ。当たり前じゃないか。能力が無いお前に価値はない」


「だとしても、だ。こんな俺を……虚勢張っていつも生きてきた俺を信頼してくれる仲間がここにいるんだ」


「何が言いたい?」


「こんなどうしようもない俺を信頼してくれる仲間がここにいる。それだけで、俺はお前に負けない理由になる。力がある理由になるんだ」


「フッ……虚勢張ってるのは今も同じだなぁ!! ケイ!!」


「――ユニ! 今のうちにサマリとアリーを!」


「分かったの!」


 ウィゴが俺に襲い掛かってくる。それが開戦の合図だ。

 いつもより少し重い愛用の剣を引き抜き、俺はウィゴを待ち受ける。

 奴の攻撃は読めない……だからこそ、俺は……!

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