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不穏なる突破作戦

 翌日、まだ朝もやが空一面に広がっている時間帯。

 そんな、一日を迎えるには早すぎる時間帯に俺は起床した。戦いの場において厄介なのは視界が遮られること。

 つまり、夜を迎えた瞬間、俺たちに勝ち目はないということだ。まだ城で抵抗している兵士もいるかもしれない。でも、あまり期待は出来ないだろうな。

 とにかく、朝の早いうちに城へと到着し、奇襲攻撃の電撃作戦でかからないと戦力に乏しい俺たちは勝てない。

 ……こんなことをしなくても、俺の力だけでやっていけるかもしれない。でも、どこか不安だった。オーヴィンのメンバーはそれほど強くないだろう。しかし、それらを束ねるようになったウィゴが唯一の不安材料だった。

 彼は何かの力を持ってしまった。でなければ、あのモンスターと融合した力を持つオーヴィンのメンバーをまとめられない。

 ……ユニの親だった『調整』と似たような何かが、裏に絡んでいる。俺はそう確信している。


「おはよ、後輩くん」


「もう起きたのか、サマリ」


「まあね。やることなくて寝てばかりだったから、あまり疲れてないんだ」


「そうか……」


 家の壁に寄りかかりながら、朝の風景を楽しんでいた俺に声をかけてくれたサマリ。

 彼女はひょっこりと俺の隣に立って、俺と同じように空を見上げた。


「後輩くんがいれば、きっと大丈夫だよね」


「ん? オーヴィンの連中を倒せるかどうかってことか?」


「うん。あの、催眠術を使ってた変な連中だって倒せたんだし」


「ああ……」


「にしてもさ、凄いよね。後輩くん……何でも一人で出来ちゃって……」


「……そんなこと、ないさ。俺はそんなに万能な人間じゃない」


 チクッと刺さった彼女の言葉。何気ない褒め言葉の一つのはずなのに。

『調整』を殺したあの日が来るまで、俺自身の力について考えることを止めていた。

 それなのに、それなのに……。

 先輩の言葉を必死に心の中で繰り返す。でも、俺の中の不安は言葉を繰り返すたびに膨らんでいく。

 そんな俺の心中を知らずに、サマリを言葉を続けていた。


「でも、私たちから見れば万能人間だよ。……ねえ、私……頼りないかもしれないけどさ……」


 サマリを見ると、彼女は両手を弄って何かを言いあぐねている。

 何か言いづらいことでもあるのだろうか。……いや、コイツに限ってそんなセンチメンタルなことはないだろう。


「……頼ってくれたら……とっても嬉しいなって……」


「サマリ……」


 一瞬、心が軽くなった。まるで、底なし沼に沈みかかったところを強引に引き上げられたような唐突感。

 その後に来る助かったという事実。

 ……だが、彼女はある意味で期待を裏切らなかった。


「……あははっ! な~んちゃって!! もうっ! 本気にしたらダメだぞー?」


「おい」


 こっちは真剣に悩んでいたんだが。


「ごめんごめん! それじゃ、アリーちゃんたちを起こしに行ってくるね!」


「まったく……サマリは……」


 サマリがいなくなり、物思いに耽るのもバカらしくなった俺は大きく背伸びをした後、出発の準備に取り掛かることにしたのだった。

 それから数十分後、全員起床し準備も整ったことで、ようやく出発の目処が立った。

 城を目指すのは俺とユニ。そして、サマリとアリーだ。アリーは昨夜聞いた決意を無駄にさせないために、俺が責任を持って連れていくことにする。これはサマリとユニにも話して了承を貰った。

 まあ、否定する奴はいなかったんだけどな。

 御者さんとリアナはここで待機してもらうことになる。二人は戦える力はなく、サマリの家にこもっていた方が安全だからな。

 リアナはお見送りまでしてくれるようで、手を合わせて心配そうな表情を浮かべていた。


「みなさん。あの……無事に帰ってきて下さいね」


「ああ。もちろん、そのつもりだ」


「……そうですよね。ケイさんがいるなら、安心ですよね?」


「え? あ、ああ」


「それじゃあ、頑張ってきて下さい」


 リアナの言い方に少し疑問を抱いたが、それはきっとサマリと同じような意味合いなのだろう。

 ……それにしても、俺が凄いって噂、広がりすぎてないか? リアナは百歩譲って良いとしても、どうして昨日の通り魔みたいな奴にまで認知されてるんだ。

 くそっ、最近能力について悩んでいるせいか余計なところまで気になってしまってるのか?

 それに、俺の能力なんてどうでもいいんだ。今は城へ向かってオーヴィンを倒さないと。

 不安感を拭い去るように、俺はアリーに言葉をかける。


「アリー、本当に大丈夫なんだな?」


「……うん。私がうぃーくんを目覚めさせるんだ」


「その意気だ。アリー」


 出発だ。俺たちは足並みを揃えて城へと向かっていった。

 城への旅は簡単に進んでいった。いつもの風景と変わりなく、そして静かすぎるほどに。

 少し肌寒いことを除けば、仲良く散歩にでも出かけているような気分にさせられる。


「昨日はごめんねアリーちゃん」


「ん? どうしたのサマリお姉ちゃん」


「オーヴィンのこと、アリーちゃんの知り合いだと思わなくて酷いこと言っちゃって……」


「全然気にしてないよ。それに、悪いことしてるのは本当だもん」


「アリーちゃん……」


「だからね、私、昨日けーくんに誓ったの。うぃーくんは、私の手で絶対に目を覚まさせるって」


「そっか……。うん、私もお手伝いするよ!」


「ありがとうお姉ちゃん!!」


 後ろでアリーとサマリの会話を耳にする。

 緊張感のない会話だが、この状況では集中力も散漫になるだろう。俺を持ってしても、敵の気配が全く感じられないのだ。

 感情を消しているわけではないと思うんだが……。


「ねえねえ、ケイくん」


 そう言えば、会話の中に入ってなかったやつが一人いたな。

 その人物であるユニは、俺との会話を選んだようだ。珍しいこともあるものだ。彼女ならアリーと話したいだろうに。


「何だ?」


「こんな時に言うのも難なのだけど……私の父を倒した方法……結局教えてもらってないの」


「し、しょうがないだろ。こんな状況だなんて思いもしなかったんだし……!」


「なの。それを咎めることはしないの。ただ……」


「ただ……?」


「……その方法。今回の戦いでも使うの?」


「……分からない」


「『分からない』? どういう意味なのー?」


「……自由に使えるわけじゃないんだ」


「分かったの……」


 少し期待もあっただろう。しかし、俺から提示された答えにがっかりしたようだ。

 ユニは一言謝った後、一言も言わないで俺と並んで歩いていた。


「……おかしい」


「確かに、後輩くんの言うとおりだね。人っ子一人出会わなかったよ?」


 何事もなく、本当に城までついてしまった。

 どういうことだ? このままウィゴの元までたどり着いてしまったら、オーヴィンの負けは確定するはずなんだぞ?

 何か罠が仕掛けられているに違いない。しかし、そんな短時間の間に見慣れない城に罠を仕掛けることは出来るだろうか。

 ……それならば、心理的な何かだろうか。それならすぐに仕掛けることはできる。だが、アリーはまだこちらにいるわけだし、誰かが人質に取られていることもこっちじゃ把握のしようがない。

 どうにも薄気味悪い前兆だ……。しっかりと警戒して進まないと。


「サマリ……オーヴィン、いや、国を占領したテロリストは、どこに拠点を構えると思う?」


「……やっぱり、あそこでしょ!」


 サマリが指差す先、そこは城のてっぺん。

 あの位置には、確か護衛隊のリーダーの部屋があるらしいと聞いたことがある。

 ……まさか。リーダー、人質に取られているってことないよな?

 無事だといいんだが……。


「後輩くん、隠し通路とかは使わないの?」


「正直言って、敵の動きが全然ない。これじゃ、正面突破の方が返って簡単だ。ここまで静かだと、相手が俺たちの行動の裏を読んで、隠し通路に戦力を集めていた可能性だってある」


「……了解!」


 頷き、進む俺たち。

 その先に敵の姿は見つけられない。確かに、中に入ると気配はする。しかし、あちらから仕掛ける気はまったくないようだ。

 俺の力を恐れているのか、作戦があるのか……。

 どちらにしても、無駄な労力を使わず先に進めるのは悪くない。

 結局、敵の気配がありながらも攻撃されないまま、俺たちは城の中腹まで来てしまっていた。


 大きな扉を開け放ち、一旦外へと出る。

 ここは吹き抜けになっており、ちょっとした自然が楽しめる庭になっているようだ。

 青々しく生い茂っている健康そうな草。そして、様々な種類の花が俺たちの目を保養させてくれる。


「わー……キレイだねー……」


 儚い少女が夢見る景色がそこに広がっていることから、アリーは感嘆の声を出している。

 その彼女を邪魔する影がゆらりと現れた。……早いお出ましだな、黒幕の。


「ウィゴ……!」

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