※最後に残った心
アリーはまだか。国の外壁よりケイたちが来ているという情報を元に偵察兵を二人ほど向かわせたのに、帰ってくる気配が一向にない。
それを受け、僕はさらに強力な戦闘員を向かわせている。そいつらの報告待ちになるだろう。
ケイの……奴の力さえ奪取すれば、僕は最強になれる。そう、アリーもなびいてくれるはずだ。僕は弱かったから彼女に捨てられた。守ってもらえていた自分に甘えていたせいで、僕は……。
城の一番てっぺんの部屋で、僕は外の景色を見下ろしていた。
弱者を犠牲にして積み上げてきたであろう城下町。そして、その犠牲に何の感情も抱いてないだろう無機質な建物たち。
僕も前まではこの一部に過ぎなかった。でも、今は違う。奴隷制度を崩壊させ、アリーと一緒に暮らしていく。そう、この城で……。
「……哀れ、ですね。あなたは」
後ろで諦めの悪い女の声がした。コイツはこの国を占拠した時にこの部屋で仕事をしていた人間だ。
最初は抵抗していて邪魔な存在だったが、中々面白い能力を持っているようだ。だから、殺さず生かして能力を奪おうと考えている。
コイツからも能力を奪いたいんだが……。
「……護衛隊のリーダーさーん。いい加減、その謎のシールドを止めてもらえませんかね? 能力が奪えないんだけど……」
「私の能力は、あなたに奪われるために存在しているわけではありません。それに、あなたでは扱えないと思いますが?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる護衛隊のリーダー。……ちっ。ムカつくやつだ。
それもこれも『調整』がしくじったせいじゃないか。何で僕がわざわざこうして頑張らなきゃならないのか……。
近づこうにも、彼女の周りに発動している透明な膜のせいで近づくことすらままならない。手を触れた瞬間、やけどしたような痛みが僕の体に走ってしまうのだ。
それより、彼女は本当に僕に正しい情報を提供してくれたのだろうか。ケイのことについて気になった僕はこの女に様々なことを聞いていた。コイツによると、ケイは魔法が使えない人間で腕っ節が強いだけの雑魚だという。
僕にはそう思わないけど、とりあえず同じくらいの力であろう偵察隊を派遣したというわけだ。
「……偵察兵のみなさん、帰ってくるのが遅いようですね」
「それが何か? リーダーさんには関係のない話でしょう?」
「果たして……そうでしょうかね?」
「さっきから何が言いたいんだ? この女」
「……あ、そろそろ戦闘員が帰ってきますかね?」
彼女の言うとおり、入り口が開かれ、無傷の戦闘員が帰ってきた。
彼らはモンスターと融合した瞬間から僕の言いなりになっている。そう、モンスターの意識の方が勝ってしまっているんだ。何と弱いのだろうか人間は。その点、僕は完全に奪取と心を通わせ、意識が完全に合わさっている。
これじゃあ、奴隷になるわな……クククッ……。
「ああ。お疲れ。で、どうだったの?」
「結論から述べますと……二体とも死んでいました……いや、正確には『一体』かもしれません」
「……どういうこと?」
「はい。一体は首筋を切断され、血を吹いて地面に倒れていました。もう一体は確認できませんが……人型のような影が焼き付いているので……」
「焼き付き? サマリが魔法でも撃ったのかな?」
「いえ、サマリは現在消息不明です。家にも行った時、いたのは我々の仲間でしたから……」
「ふふふっ」
「……リーダー。君、まだ何か隠してるな?」
僕たちから顔を背けながらも堪えきれない笑い。それがリーダーから聞こえてくる。
そろそろ僕の心も限界なんだけど?
「あー、忘れてましたー。ケイさん、魔法が使えるんでしたっけー」
「――貴様!」
「待て! 落ち着くんだ」
戦闘員がリーダーに掴みかかろうとする。けど、そんなことをしても意味がないんだ。
彼女のシールドはどうにも不可侵だ。奪取さえ出来ない。
「魔法が使えるんなら、僕にだって対策があるんだよ? ちゃんと言ってくれないとダメじゃないか」
「……誰が言うもんですか。あなたならいざ知らず、『奪取』には」
「知ってたの? 僕の正体」
「当たり前です。ケイさんが倒してくれた『調整』。それ以外にも仲間はいるはず。そう思って調べてたんですから」
「それの対策ってわけ……そのシールド」
「まあ、似たようなもんです」
「さて、リーダーさん。僕に隠していることはこれだけかな? 他に何か知ってることは?」
「……あー。サマリさんのこと、忘れてました」
「さっさと吐きやがれ!」
再び仲間が激昂する。まあ、気持ちは分からなくもないけど。
「すいませーん。最近、物忘れが激しいものでして……」
「で、何の情報なの?」
「サマリさんの消息について。確か、彼女は『ランヴァ』って場所でピクニックしに行ったって情報がありましたねえ~」
「……それ、本当の情報?」
「本当ですよ。私の机に紙があるので見ていただけますか?」
彼女の言葉に従って、机の上を眺める。すると、そこにはサマリに関しての報告書が上がっていた。
詳細な説明が書かれている。ぱっと見、それらの説明は整合性が取れているように見える。でも、今までの彼女の言動からいけば嘘だろう。もう僕たちは騙されないのさ。
それでも、彼女に気づかせないため、僕は興味あり気に報告書を読むフリをしていた。
「どうでしょうか。これは本当の情報なんですよ?」
「ああ。確かに、正しそうだね。じゃあ、明日の朝にでも派遣させよう」
「――それと」
「何だい?」
「ケイさんの能力を奪っても無意味ですよー?」
「何だって? 理由はあるのかい?」
「だって、ケイさんの能力は全てスキルの力なんですから」
「スキル? ……ああ。個人が持ってる特殊な力のこと。でも、僕は今までにそんな力を見たことない。腕っ節も強くなって、魔法も使えて……尚且つ敵の気配に敏感に反応できるなんて、スキルと言っても万能すぎないかい?」
「まあ、そう思いたいならそうなんでしょうね~。あなたの頭の中だけは」
まあいい。どうせこれも僕を混乱させるための嘘だろう。思えば、彼女は僕たちに真実を話したことなど一度もない。
さっきの件だってそうだ。ケイは魔法が使えないとわざわざ公言していたんだ、彼女は。それと、サマリの家に行けば彼女が見つかるなんて言ってたけど、それも嘘。いたのは僕たちの仲間であり、サマリの姿なんて欠片すら見つからなかったじゃないか。
城の構造だって彼女は喋ったけど嘘ばかり。コイツの言うことはもう信じられないだろう。僕たちを騙すため、何の時間稼ぎか知らないけど、もうその時間稼ぎは通用しないよ。
……ああ。それよりも早くケイの能力を奪って無力になった彼を見下したい……! さぞ気持ちの良い物だろう。
それに、魔王様へのお土産もできる……! アリーを魔王様に献上し、僕は更なる力を……!!
「――っ!?」
僕は今何を考えていた!? アリーを魔王様に?
幾ら何でもそれは無理だ。アリーは僕と一緒に生きるんだ。魔王なんかにやらせはしない。
……どうやら、まだ心を完全に支配しきれていないようだ。僕は自分自身に怒りながら、アリーのことを想い、一瞬でもそんなことを思い浮かべてしまったことに対して悲しみを胸に秘めた。
「ん? どうかしましたか? オーヴィンのリーダーさん?」
「……うるさい。護衛隊のリーダーには関係のない話だよ」
「そうでしょうか? 『奪取』あなた……まだ彼の心を制御しきれていないんじゃないですか?」
「……ふ、ふふふっ! アリーだ! アリーさえ居れば、僕の心は完全に奪取のものとなるんだよ!! だから貴様は黙ってろ!」
「いいんですか? じゃ、もう何も話しませんから。あーあ、残念。ホントの情報教えてあげようとしたんですけどねー」
くっ……! アリーを早く連れてこないと……!
僕の計画が狂っていく……!
明日だ。明日、全てに決着をつけよう。ケイたちはきっとこの城に来る。その時が僕の……ウィゴとしての最後だ……!




