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復活!サマリお姉ちゃん!

 その後、俺たちは無事にサマリの家にたどり着くことができた。

 サマリの家は、外観は荒らされた形跡がないように見える。モンスターの爪痕もなく、地面がえぐれたような光景が見えないだけで、中が無事だという保証もないが……。

 しかし、家を取り囲むように片付けされずに残っているテープを見て、俺は心の中で落ち着きを取り戻せた。あの日、リーダーの暴走によって変なことになった日常。それを俺たちが取り戻さなければ……。

 依然として周りに注意しつつ、俺が先導して入り口のドアを開いた。


「けーくん。どうかな?」


 後ろで飛び跳ねる音がしきりに聞こえるのは、アリーやユニが部屋の状況を見たいからだろう。

 俺はそんな彼女たちに安心するだろう状況を伝えることにした。


「……大丈夫だ。前と変わらないよ」


「良かったぁー……サマリお姉ちゃん、無事なんだね?」


「多分な。さ、行こう」


「うん」


 玄関を経て居間へと移動する俺たち。そこには床で寝そべっているサマリの姿があった。

 彼女の姿はまだ狼のままで、そのもふもふとした毛皮がとても暖かそうだ。

 こういう状況だと言うのに、彼女は眠ったままだ。

 まったく……、俺は呆れと同時に日常が保存されているような気がして暖かい気持ちが流れてきた。

 アリーやユニも同じようで、眠りこけるサマリを微笑ましく眺めていた。


「えへへ、サマリお姉ちゃんの寝顔可愛いね」


「今ならイタズラしてもバレないの」


「そうだね~……ってダメだよユニちゃん!」


「残念。アリーは真面目なの」


 俺は懐からジャネストーンを取り出し、サマリを起こそうと彼女の体に触れる。


「おい、起きろサマリ」


 サマリの体を揺らし、目覚めを促す。彼女はすぐに目を覚ました。

 パチクリと目を瞬かせ、俺たちを認識する彼女。口をパクパクさせているのは、彼女自身が喋られないのを忘れているからだろうか。

 待っててくれ。今、人間に戻してやるからな。


「ジャネストーンを持ってきた。これを……どうすればいいんだ?」


「多分、サマリさんに持たせればいいと思うの」


「よし。サマリ、これを持ってくれ」


 ジャネストーンをサマリに渡す。これで、彼女が人間に……。

 その時、ジャネストーンが不思議な光を放ち始めた。その光は粒子になってサマリの体へと吸収されていく。その代わりに、光に比例してジャネストーンは体積を小さくしていく。


「わあー、キレイー」


 感嘆しているアリーの言うとおり、その光景はキレイの一言でしか表せられないものだった。

 キラキラした光がサマリに取り込まれ、彼女自身の体が光を帯び始める。粒子の軌跡も目を奪われる原因の一つとも言えるだろう。

 ジャネストーンが完全に消滅した時、サマリに取り込まれた光は一番の輝きを見せる。

 そして、その光はサマリを逆に取り込むように、彼女の姿が見えないほどに発光した。


「わっ、眩しいよけーくん!」


「これが……ジャネストーンの力……なの?」


「くっ、大丈夫かサマリ!」


 あまりの眩しさに顔を背けつつ腕を前に出して目を守る。この光で、スキルが制御可能になるというのか?

 その答えは、光が収束した事実が答えてくれた。


「……こ、後輩……くん」


「……サマリ?」


 懐かしい声が聞こえ、俺は即座に顔を向ける。

 そこには見慣れたサマリの姿が……人としての彼女の姿があった。


「……う……うぅ……!」


「どうした? 大丈夫か?」


「……うん……! ごめんね、迷惑かけちゃって……」


 涙をこらえながら、俺たちに謝るサマリ。

 気にしないでくれ。俺たちは今まで一緒に戦ってきた仲じゃないか。一緒にアリーを守って、笑いあってきた。

 これくらい、大したことないさ。


「サマリお姉ちゃん」


「……アリーちゃん」


「おはよう」


「……うん。起こしにきてくれて、ありがとうね」


「えへへ」


 サマリに駆け寄るアリー。サマリはアリーを愛おしく抱きしめ、彼女の体を優しく撫でていた。

 まるで、人間の感触を思い出すように……。

 おでこをくっつけて、笑い合う二人。

 ……数日前は火の輪をくぐらせようとしていた事実は、今は野暮か。ってか、あれはユニがアリーを騙してやらせようとしてたんだったよな。

 そんなことを強いらせようとしたユニも安堵している。

 リアナと御者さんは何がなんだか分からないとは思うが、もう少しだけ我慢してくれ。今いいところなんだ。


「ねえねえサマリさん」


「ん? どうしたのかなユニちゃん」


「これでスキルを制御可能になったの?」


「え? うーん……ちょっと待ってくれない?」


 サマリが立ち上がり、唸って何かを念じ始める。

 すると、彼女の体から粒子が溢れ出てきた後に、彼女の体は狼へと戻ってしまった。


「狼に戻ったの!」


「そうみたいだね……ん? あ……この状態でも喋れるよ! 後輩くん! 私、言葉を話せる!」


「おお。凄いなジャネストーンの力は……」


 ジャネストーンの力を目の当たりにし、俺は少しだけ残念な気持ちになった。

 この石がまだあれば、俺の力も制御できたかもしれない。……いや、今が制御できているのか、できていないのか分からないけど、少なくとも安心できるじゃないか。

 先輩からお墨付きを貰ったにも関わらず、俺の心はまだどこかで恐れを感じているようだ。

 そんな自分が情けなく思うと同時に、他の人と変わらない人間なんだなと実感させてくれる。

 村の中で一番強く、国に至っては恐れられるくらいに強いとされる俺。どこかで他人とは違うんじゃないか、別の存在なんじゃないかって思うこともあった。

 だから、人であろうとするために――。


「何考えてるの? ケイくん」


「――え? あ、いや別に……」


「良かったの。サマリさんが元に戻って」


「そうだな……本当に良かった」


 ユニのおかげで、俺は答えのない迷路に迷わずにすんだ。

 ……ダメだ。ああいうことを考えたら。さっさとさっきのことは忘れないと。

 そのために、俺はサマリに目を向ける。

 自由自在に獣と人間を行き来できるようになったのが嬉しいのだろう。彼女はしきりに変身を繰り返している。


「狼……人間……狼……人間……おぉ!! これで私は完璧に狼に変身できるようになったぞー!」


「凄いよサマリお姉ちゃん!!」


「ふふん! これも私の力のおかげだねっ!」


 ジャネストーンの力のおかげだがな。


「うん! そうだねお姉ちゃん!!」


 こらアリー。そんなにサマリをおだてるんじゃない。調子に乗るじゃないか。


「フッフッフッ……! これでもう、後輩くんになめられた態度を取られることもない……! 私は最強になったのだー!」


「わーい!」


「さあ行こうアリーちゃん! 今こそ、私の真の力をこの世に知らしめる時なのだー!」


「……ねえ、サマリさん」


「ん? どうしたんだいユニくん!」


「外の状況……何か知ってるの?」


 ユニの言葉を聞いたサマリはおどけていた様子を止めて、真剣な表情を取り戻した。


「そろそろおふざけは終わりにしよっか」


「サマリさん……」


「ごめんね。……やっぱりみんな、そういう気分にはなれないか」


 頭を下げて、彼女は各々に座るように指示を始める。

 全員が座った後、サマリはため息をつきながらその重い口を開いた。


「……後輩くんたちが私のために旅立った次の日、何者かが国を襲い始めたの」


「次の日……」


「うん。どこか少数のグループなんだと思うんだけど、そいつらはモンスターと体を融合させて、兵士たちを殺し始めた。確か名前は――」


「オーヴィン。そうなんだろ?」


「なんだ。知ってたんだ後輩くん。じゃあ多分、見てきた状況と想像を合わせたもの。それがこの国で起こったことだよ」


「……つまり、オーヴィンが国を襲い、街をめちゃくちゃにしていった」


 サマリはコクリと頷く。やっぱり、俺の想像通りだったか。しかし、気になることはまだたくさんある。

 それをユニが聞いてくれた。


「サマリさん。前に会った時、オーヴィンは弱い組織だったの。それがモンスターとの融合をしたことで強くなった。一体誰が融合なんてものを……」


「ごめん。それは私にも分からない。でも……『ウィゴ』ってオーヴィンのトップらしき人物が色々と指示していたことだけは確かね」


「――嘘だよ。サマリお姉ちゃん」


「ううん。アリーちゃん、これは本当。ここから街が壊れていく光景を見ていたから」


「うぃーくんがそんなことするわけないよ!!」


「アリー……ちゃん?」


「そんなのは間違い! きっと……きっと私みたいに操られてるんだ! うぃーくんは私に甘えてて、守りたくなるような男の子で……こんなことをする人じゃない!」


 アリーの激昂にサマリはハテナを浮かべている。

 無理もない。オーヴィンのトップであるウィゴが、アリーの幼馴染のような関係であることは俺たちしか知らない。

 今までオーヴィンのことで沈黙を貫いてきていたアリーも、サマリの口から真実を言われて感情的に否定している。


「どうしちゃったの……うぃーくん……。こんなことをするために、あの時私を誘ったの……?」


 涙を溜めて、嗚咽を繰り返すアリー。

 今はそっとしておこう。昔の旧友に会えたその次の日に、国を襲い始める。

 困惑しているサマリに、俺は話を促していく。


「……続けてくれ、サマリ」


「あ、うん。兵士たちも頑張ってたんだけど、モンスターと融合した人間が強くて、次々に亡くなっていったの……。私も一緒に戦いたかったんだけど……」


「……ああ。気にするなよ」


「ありがと、そう言ってもらえると、私も助かるよ。……でも、あの時戦ってたら、私はここにいないかもしれない」


「サマリさんがそういうほど、融合した人間は強い……そういうことなの?」


「うん。あの強さは……なんて言えばいいのかな。とにかく、今までの常識を超えていた。村の手練より弱いとは言え、国を守る兵士なんだよ? それがあっさりと倒されていくの……」


「でもでも、ケイくんは融合した二人相手に楽勝だったの」


「……やっぱり後輩くんは次元が違うわ。でも、これで安心だね」


 そっと微笑みかけるサマリ。

 だが、あれはあくまで敵が弱かったからに過ぎないかもしれない。


「……あれは偵察兵だったから。その可能性だってあるぞ?」


「え?」


「ウィゴのような少しは戦闘に慣れている人間が融合したら……結果は違うかもしれない」


「……そんなことないって。後輩くんならきっと大丈夫だよ」


「そうだと……いいんだけどな」


「ねえねえサマリさん。オーヴィンのメンバーは一体どこを拠点にしてるの?」


「……多分、お城だと思う。というか、この国を占領したらそこくらいしか思い浮かばないよ。この国を支配するに相応しい場所は」


「なるほど。……ところで、お前はどうして無事だったんだ?」


「えへへ……実は私の家にもオーヴィンが来てたの」


「え!? それでサマリさんは無事だったの!?」


「あいつら、私の姿を見て安心したみたい。……同じ仲間だって」


「そうか……サマリの姿が狼だったから、人として認識することがなかったのか」


「サマリさんが狼になった。その事実を公表してなかったのも幸いしたみたいなの」


「襲われなくて良かったよ。だから私は、後輩くんたちが帰ってくるまで待ってたってわけ」


 サマリから詳しいかどうかは分からないが話を聞いて、この国が俺の予想していた状況になってしまったことは確実になった。

 目指すべきは城か。……見れば、サマリやユニは俺を見て何も言わず頷いている。

 ああ。そうだな。俺たちでこの国を救おう。城にいるリーダーも心配だ。彼女は大丈夫だろうか。


「でも後輩くん、一旦落ち着いた方がいいと思うよ。体調を整えてからでも、遅くはないよ」


「……そうだな。よし、明日の明朝、オーヴィンを倒しに城に行こう」


「分かったの」


「多分、オーヴィンはここにはモンスターがいるって安心しきってるだろうから、襲われる心配もないと思う。だから今日はゆっくり休んで?」


「そうさせてもらう。悪いな、サマリ」


「へっへーん、どういたしまして!」


「そういうところが無ければ、可愛いんだけどな……」

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