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二人きりの洞窟、贖罪

 いつもの遊び場というのは、村の中心にある広場のことだ。

 割と大きい広場は、周りは木々で囲まれており、外では危ない自然をじっくりと感じることができる。

 村長になる前、つまり、親がモンスターに殺される前まで、俺と村長はこの広場で色々と工夫しながら遊んでいた。ブランコを作ったこともあったっけ。

 今も朽ちずに佇んでいて良かった。他の子どもにも遊んでもらいたいしね。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。懐かしの遊具に触れながらアリーや村長と遊んでいると、約束の時間はとっくに過ぎてしまっていた。

 先輩の大声を聞かなかったら、俺たちは日が暮れるまで遊んでしまっていただろう。


「ああ、すいません先輩。久しぶりに遊んでたらつい……」


「まあ、そういう時もあるだろう。さて、ケイ。用事を聞かせてもらおうか」


「分かりました。アリー、村長と遊んでてくれないか? 俺と先輩はちょっと用事があるんだ」


「うん、分かったよけーくん」


 遊んでいたおかげか、すっかり村長と仲良くなっているアリー。

 うんうん。子どもはそうやって仲良くなっていくんだよな。

 村の中心ならモンスターに襲われる心配もないし、大丈夫だろう。ただ、少し注意はしておくか。


「ちゃんとここで待ってるんだぞ? 多分、暗くなる前には帰ってくるけど、もし帰ってこれなかったら――」


「分かってるよけーくん。私はもう子どもじゃないんだから」


「俺からしたら、大事な子どもさ」


「む……むぅ」


「じゃ、行ってくるな」


「うん!」


 俺は先輩を連れて、モンスターが出ないぎりぎりの範囲へと行くことにする。

 これから話すことは誰にも聞かれちゃ困る……ってわけじゃないけど、出来れば隠しておきたいことだった。

 先輩を信じているからこそ、この話はできる。だから、俺は包み隠す全て話すことにした。


 俺の説明が下手くそかどうか不安だったけど、先輩はしきりに首を上下に振って理解を示してくれる。

 不明点があれば、先輩は遠慮なく質問してきた。そのかいもあったのか、先輩は完全に理解してくれたようだ。


「……なるほど。そのサマリって人を元に戻すために、村の洞窟の石が必要なのか」


「ええ。あの……すいません。人間がモンスターに変身したって事実は、あまり多くの人に広めない方がいいと思ってこんな場所で話してしまいました……」


「ああ、気にするな。私とケイの中じゃないか。んー?」


「え……ええ。そうですね」


「早速行ってみるか?」


「はい。先輩、案内お願いできますか?」


「任せろ」


 俺はその洞窟の場所をよくは知らない。この村にいたときはそれほど興味のない場所だったし。

 とにかく、今は先輩を頼るしかない。

 先輩は頼りがいのある表情で先導して森の中をくぐっていく。どうやら、洞窟はモンスターが出現する領域にあるらしい。

 だとしたら、洞窟の中もモンスターが住み着いていておかしくない。先輩は強いけど、ちゃんと俺が守らないと。

 両親が死んでしまった今となっては、先輩は俺の唯一の肉親のようなものだから……。

 また、あの日のことを思い出す。先輩が俺に向かって謝ったあの日のことを。先輩は自分のミスで両親を殺してしまったと言っていた。あれは本当に先輩のミスだったのだろうか。


「よし、ここだぞケイ」


「これが噂の洞窟ってやつですか……」


 洞窟は突然現れた。森が開けて、そこにポツンと佇んでいるその洞窟は、人の身長を有に超える縦幅を持っていた。

 奥の方を覗き込んでも全貌がまったく見えやしない。まったく、こりゃ本気で入らないと怪我することになるな。

 俺の表情から先輩も理解したのか、大きなため息をついていた。


「ああ。結構広い洞窟なんだ。しかも、この中は複雑らしい」


「『らしい』? 先輩にしては、珍しく推測を語るんですね」


「出てきた者がいないとの噂だからな」


「え!? それって本当ですか?」


「中にいるモンスターにやられたのか、はたまた迷宮の中に閉じ込められたのか……。とにかく、軽い気持ちで侵入できるような洞窟じゃないってことだ」


「そうなんですか……」


「どうした? 怖気づいたのか?」


「……いえ、そんなことありませんよ。俺はサマリを助けたいんですから」


「まあ、ただの噂だ。村人が近寄らないということで、そんなあらぬ噂が立ってしまうこともあるんだ」


「確かに、村の外はモンスターがいるから俺でも近寄らなかったですしね」


「……時にケイ。さっきのサマリって人は、ケイと同い年なのか?」


「え? うーん……どうでしょう。考えたこともなかった」


 背丈は女の子ということを考慮しても結構高い方だと思う。

 なら……俺と同じ年なのか?


「多分……年は近いと思いますけど」


「じゃ、ケイのお嫁さんは彼女に決まりだな」


「えぇ!? な、何を言ってるんですか!!」


「だってそうだろう? ケイの知り合いに年が近い人はいるか? アリーちゃんはさすがにまだマズいと、お姉さんは思うぞ?」


「だから! アリーとはそういう関係じゃないんですって! それに、先輩だって俺より年上ですけどちゃんとした大人――」


「おっ。嬉しいねえ。私を候補に入れてくれてるのか?」


 しまった。これは先輩の策略だ!

 先輩はいたずらっ子のような表情で俺と肩を寄せる。それどころか、やっぱりその大きな胸を押し当ててくるのだ。


「うぅ……やりますね。先輩」


「どっちがいい? 私とそのサマリって人」


「今は決めたくありません。さっさと洞窟に入りますよ」


「ふふっ。これで緊張もほぐれただろう?」


「あっ……」


「私なりの気遣いさ」


「……さすが、俺の先輩です」


「褒めてくれてありがとう。さ、ロープを持ってきた。近くの岩に括り付けておこう」


 そう言うと、先輩は輪になって巻かれているロープを垂らし、近くの頑丈そうな岩に括り付けていく。

 これは恐らく、洞窟内で迷子にならないための目印だろう。帰る時はこのロープを伝っていけばいいのだ。

 途中で解けないようにキツく縛った先輩。何度も強度を確認していたのだから、多分心配ない。

 考えられることとしては、この洞窟に立ち寄ったモンスターがロープを切断してしまうことくらいだろう。

 そのモンスターの心配も、この洞窟に行くまでの道中でまったく発見できなかったからあまり立ち寄らない場所なんだろう。まあ、人間も滅多に来ない場所だろうから、モンスターにとっても旨味がないしな。

 それに、他の可能性を考えたところで、この村に怪しい人間はいないし、先輩が恨みを買っている人物とも思えない。


「さて、入る準備は整ったぞ。心の方の準備はいいか?」


「俺はいつでも大丈夫です」


「ふむ。では、入るぞ」


 俺と先輩の二人は、意を決して洞窟の中へと入り込んでいくのだった。

 洞窟の中へ一歩踏み出した瞬間、空気が変わった。

 冷たい空気が俺の頬を撫で、足をすくませていく。これは本当に洞窟の冷気なのか?

 俺と同じ感情を先輩も抱いたようで、さっきまで緩ませていた顔はすでに真剣そのものになっている。


「この洞窟から出てきた者はいない……どうやら噂は本当のようですね」


「うむ……。どうするケイ? 今ならまだ引き返せるが」


「愚問ですよ。俺はサマリを絶対に助けたいんです。だから、石を持って帰りたい」


「そうか……。分かった。私も付き合おう」


 ロープが繋がっていることを確認して、俺は再び洞窟の奥へと足を踏み入れていく。

 当然、洞窟の奥へと進めば進むほど光が遮られていく。先輩が松明を掲げて、明かりを作ってくれる。

 ぼんやりとした、虚ろ気な炎の景色に聞こえてくるのは、風が吹き抜けていく音と水の滴る音。

 そして、俺と先輩の緊張した息遣いだけだ。

 先輩を巻き込んだのは失敗したかもしれない。俺一人で行くべきだっただろうか。

 道標もない入り組んだ洞窟。ロープだけが帰りの道を記してくれるが、そのロープが切れたら……。

 誰一人として帰ってこない噂の洞窟だけあって、分かれ道があったと思ったら行き止まり。そして別の道を行ったり来たり。

 こんなところに石があるのだろうか。そんな不安が次第に気持ちの中で大きくなっていく。


「……先輩。こんなことに巻き込んでしまってすいません」


「何を言ってる? 私は君の先輩じゃないか。これくらいお供させてくれてもいいだろう?」


「でも……先輩は俺の親がモンスターに殺されてからの唯一の肉親じゃないですか。そんな人をこんな洞窟に。そう思ったらなんか……」


「……ケイ。そんな気に病まないでくれ。君の両親は私のせいで……」


「違います。先輩が殺したんじゃない」


「でも、あれは確実に私が原因だった。だから、その贖罪になればと思って」


 こんなところで何を言ってるんだろう。いや、二人きりで危ない場所に来ているからこそ、言えるのかもしれない。


「……もし、時間が戻るのなら私は君の両親を助けたいよ。違う。今度こそ、私が犠牲になるべきなんだ」


「先輩に引き取られた時、同じ話をしましたよね」


「ああ……」


「俺、その時に先輩の気持ちが痛いほど分かったような気がするんです。何故かは分からない……ただの子供だった俺の大きな勘違いだったのかもしれない。でも……先輩の気持ちを理解した瞬間、俺の中で何かが生まれたんです。強くなれたような気がした」


「確かに、あの日からケイは私の技術を吸収して、私以上に強くなったな」


「先輩がいなきゃ、俺はただの田舎の子供でしかなかった。先輩がいなきゃ、俺は孤児になって、どうしようもない人生になってたかもしれない。だから、先輩が死ねばよかったと思ったことなんて、一度もありません」


「……そうか。そう言ってくれるのはありがたい。でも、私自身はずっとケジメが残っているような気がしてならないんだ。これは……私の気持ちの問題なんだろうな」


「別に無理にとは言いません。心の整理は難しいですから」


「……ずっと向き合っていく。それが私の答えなんだろうな」

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