久々の故郷の地!
ウィゴ率いる『オーヴィン』たちと別れて、俺たちは旅を再開する。
道中のモンスターの群れは問題なく退けることができた。まあ、俺とユニが入れば問題ないからな。
ユニの父みたいな強敵が出ない限り、二人で何とかできる。移動は早朝から行われた。
昼間はモンスターがはびこり、夜間は目が利かない。となると、移動できるのはモンスターの活動が大人しい早朝の時間しかない。
さすがに、アリーとユニは眠たそうに目を擦っていたな。でも、時間が経つにつれて眠気もなくなる。
しばらくすると、馬車が足を止める。お、着いたのか?
「ここで……いいのかい?」
馬車を操っている御者さんが確認のために馬車の中にいる俺たちに話しかける。
俺は馬車から出て、一応場所を確認する。……よし、問題ないな。まあ、そこは御者さんを信頼してるからな。
「ええ。大丈夫です。長い間お疲れ様でした」
「いやいや。これが私の仕事だからね」
「そうですか。帰り道もお願いしますね」
「はい。任せて下さい」
「ふぅ。やっと着いたのー」
俺と御者さんのやり取りが終わった瞬間、ユニが馬車から出る。そして、大きく背伸びをして欠伸をした。
一方のアリーは馬車から出ても疲れの表情一つ見せることなく、目の前に広がる景色に心を奪われているようだった。
「これが……けーくんの生まれ故郷なんだね?」
「そうだよ。でもあんまり見どころがないだろう? ただの村だしな」
「ううん、そんなことないよ。けーくんの故郷が見れた。それだけで私は嬉しいから」
「そっか。喜んで貰えてくれて何よりだ」
「お姉ちゃんより一方リードしたってことだからね」
「え? 何か言ったかい? アリー」
「ううん! 何でもないよけーくん!」
「そうか? じゃ、行くか」
「うん!」
村で休んでもらうために、御者さんもついていってもらう。そんなわけで、俺を含めた合計四人のメンバーは故郷に足を踏み入れたのだ。
変わらない。それが俺の第一印象だった。
イリヤと村人たちが守ってきたおかげだろう。村の内部は壊された物が何もなく、平和を保っていた。
正直、自分の目で見れてホッとした。イリヤから村の状況は聞いていたけど、やっぱり自分で見ないことには……な。
早朝から少し時間が経ったから、もう畑仕事の準備は終わっただろうか。となると、そろそろパトロールの準備に入っているはずだ。
「ん? おめぇ……ケイか!?」
「あ、お久しぶりです!」
村人に会うことができた。俺に声をかけてきたのは畑仕事第一のおっさんだ。モンスターと戦わないが、村の食料管理という重要な役割を担っている。
常に村にいる彼だから、俺たちに最初に再会できたのかもな。
俺がお辞儀した後、再会を喜び合い握手を交わす。彼の畑仕事でガッチリとした手の感触さえ懐かしいと思える。
まだ数ヶ月しか離れてないだけだから人相の変化はないけど、このご時世、本当に生きててくれて良かった。
俺を認識してくれた後、彼は他の三人に興味を持ったようだった。
「ん? あんたは御者だろうが……このちっこい二人は何だ?」
「あ、俺の仲間みたいなものです。まあ、色々あって一緒に暮らすことになって……」
「そうかあ……。いやあ、これは強力なライバル登場ってところだなあ。幼村長もなあ……」
「え? 村長がどうかしたんですか?」
「何でもねえよ。こっちの話だ。ケイ。おめえも罪深い男だねえ」
「そ、そうですかね?」
困惑する俺を遮るように、アリーとユニが前に出て挨拶を始める。
「あ、私アリーって言います。けーくんのお知り合いさんですか? よろしくお願いします」
「アリーが自己紹介するなら、私も一応しとくの。ユニって言うのー。よろしくなのー」
「へえ、まだ小さいのにちゃんと挨拶できるんだな。ケイの教育が良いってことなのか?」
「俺は何もしてませんよ。彼女たちは最初から行儀がいいんです。俺は、彼女のやりたいことを後押ししてるだけです」
「行儀がいい……えへへ」
アリーが照れながらほっぺたを手で掻く。
「にしても、どうしたんだ? ここが恋しくなって帰ってきたのか!? 俺たちはいつでも待ってたんだぜ! お前の帰りをよ」
「ハハッ、ありがとうございます。まあ、今回はちょっと別の用事があって……」
「そうか! まあ、どんな用事でも俺が教えられることはないだろうな。お前の先輩ならいつものところで戦闘準備してるはずだぜ」
「集会場ですね? 分かりました。行ってみます」
おっさんの言葉に従い、俺たちは集会場へと向かう。
さすがに数十年離れたというわけじゃないから、場所くらいはまだ覚えている。だから迷うことなく集会場へ着くことはできた。
そこには数十名の村人たちがすでに準備を終え、パトロールに入っているところだった。
俺はその中に先輩の姿がいるかどうかを調べていく。……あ、いた。
しかし、俺が声をかける暇もなく、村人の一人が俺の姿に気づいた。
「あー! ケイじゃないか!」
「おー、生きて帰ってきやがったのか!」
「みんな……久しぶり!」
懐かしい村人たちだ。みんな、モンスターと戦うための仲間だ。最近仲間入りしたのか見ない顔もあるけど、俺が旅立ってから死んだ人は誰一人としていないようだ。本当に良かった。
俺は御者さんを早く休ませるために、村人たちに事情を説明する。すると、村人の一人が御者さんを案内していった。多分、宿泊施設に連れて行ってくれるんだろう。この村はわらで作ってある、簡素な宿泊施設がある。
ここに滞在するのは一日二日程度だし、あそこでも問題ないだろう。とにかく、帰りもお願いするのだからちゃんと休んでもらわなければ。
御者さんがいなくなった後、先輩と俺は挨拶を交わした。
彼女も変わらない。その凛々しい表情は、相変わらずモンスターたちを弓で射抜いていることだろう。
「ケイ。久しぶりだな」
「先輩……ご無沙汰してます」
「ふふふ……。帰ってきてくれて良かった」
「ええ。俺も、無事に先輩の顔を見ることができて良かったですよ」
なんだろう。先輩の顔が妙にいたずらっぽい気がする。こういう時の先輩は大抵良からぬことを考えているのだ。今回も例に漏れず、変なことを考えているに違いない。
「さて、ここに来たのは結婚式を開くためか?」
「け、結婚!? どうしてそんなことになってるんですか!?」
「ん? 違うのか? そこにいる二人の女の子はお嫁さんじゃないのか?」
「違いますよ! 彼女たちは色々あって助けた結果、一緒に住んでいるってだけです!」
「まあ……色々っていうのは想像しておかないことにしよう。つまり、今日は結婚するためにここに来たんじゃないってことだな」
「先輩……俺、エロいことは何一つやってませんからね。言っておきますけど」
「なんだ。男を上げたと思ったのに残念だな」
そう言うと、先輩が俺に近づいてくる。というか、近すぎだろう。
何で先輩の頬を俺の頬が合わさるくらいまで接近してくるんだ。
豊満な胸をわざと当ててる感触。いつも通りで何も感じないけど、イリヤ辺りがされたら卒倒もんだろうなあ。
というか、先輩のせいなんじゃないだろうか。俺が女の子に興味を示さないのは……。
「じゃあ、まだ大丈夫ってことだな」
「何が大丈夫なんですか」
「んー? この村にも一人いるからね」
「何の話ですか。俺にはさっぱり分かりません」
「まったく……そんなんだと一生結婚できないぞ」
俺から離れる先輩。相変わらずクスクスと笑っている。
この人には敵わないなあ。すっかりペースを持ってかれてしまう。




