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頼りない先輩、登場!

 次の日の朝。俺は遅刻することなくギルド商会の前に立っていた。

 それも栗毛ちゃんのおかげ……と言ってもいいのだろうか。

 俺は何かに頬を叩かれる感触を覚えて、目が覚めた。

 ヒリヒリする右頬を撫でながら、俺は時間を見る。だが、予定の時間まではまだ一時間ほどある。


「あれ? 珍しいな。いつもは好きな時間に起きれるのに……」


 ボーっとする眼を手でこすりながら、ふと俺は栗毛ちゃんが寝ているベッドへと目を移した。

 彼女はまだ毛布に包まってすやすやと眠っている。


「ま、起こさないようにそっと出ていくか」


 ようやく安息の地が見つかったかのように、彼女の表情は完全に緩みきっている。

 そんな彼女が可愛らしいと思い、俺は彼女の頭をそっと撫で、枕に触れた。その時だ。違和感があったのは。


「あれ? 枕が冷たい……?」


 大抵、人が寝るのだから枕は暖かいはず。それが冷たいということは……。

 右頬の痛みはもしかして彼女が?

 寝てれば良かったのに、夜中ずっと起きててくれたのか? 俺が遅刻しないように……。

 ということは、今の彼女は徹夜明けでぐっすり眠っている感じなのだろう。


「……ありがとう。助かったよ」


 聞こえてないかもしれない。でも、俺は栗毛ちゃんにお礼を言った。

 名前、いつか聞ける日を楽しみに待ってるよ。


 そういうわけで、俺は一時間早くギルド商会に着いたのだった。

 商会はよくあるレンガ調の建物で、こんな時間にも関わらずしきりに人が出入りしている。

 俺もこれからここで依頼を受け、モンスター退治をすることになるのだろう。

 俺は今、新たな舞台への第一歩を踏み出そうとしていた。


「あー! もしかしてあなたは!」


「――おうっ!」


 大きく足を上げて石畳の階段を上ろうとしていたから、俺はその声に心臓が止まるかと思うくらいビックリしてしまった。

 そして、そのせいで俺は足を踏み外して商会のドアに脳天を激突してしまったのだ。

 声にならない痛みを堪えて、俺は声のした方向を見る。

 声の主は、ローブの中に制服を着た女の子だった。

 この衣装って、魔法使い?

 だけど、それ以上に衝撃的なことがある。それは彼女の耳だった。

 彼女の耳が頭のてっぺんから生えている。三角の形を成しているその耳からして、人間ではなさそうだ。

 ……これが噂に聞いていた獣人?


「もしかして、今日から配属になった新人?」


「……はあ。まあ、そうですけど」


「やっぱり! この辺で見ない田舎者っぽかったから」


「あの、俺はケイって言いますけどあなたは?」


「私はサマリです! 先輩だから敬ってねっ!」


「は……はぁ……」


「やっと私にも後輩が出来るんだねー。苦節三年。これで私も一人前として護衛隊に近づいたってところなのかな!?」


 一人舞い上がっている彼女を無視し、俺は彼女の身なりを調査する。

 獣人なのかもしれないけど、耳以外は普通の人間と似たような感じだな。

 言葉も通じてるようだし、ちょっと残念かも……。


「ジロジロ見て、そんなに私が珍しいかな?」


「あ、まあね。獣人なんて俺の村じゃ見かけなかったから」


「そして失望している……違うかい後輩くん?」


「え!?」


「むう……ちゃんと進化に適応した姿だってのに、どーしてみんな勝手なんだろう。獣人は『毛むくじゃらで普通の獣が二足歩行している』って間違った常識、誰が流してるのかしら」


「進化……ねぇ」


「そう。進化だよ。こういう姿になっているのは、人間社会に馴染めるように進化した結果なんだよ」


「な、なるほど……」


「それよりそれより! 君はどんなことができるの?」


「別に誇れることはないよ。ただ村の周りのモンスターを狩ってただけさ」


「それだけ?」


「それだけだけど……ギルドは一芸に秀でた人しか雇わないのか?」


「この格好で大方察しがついているとは思うけど、私は魔法使いの才能を買ってもらって村から来たの。だから、君も何か素晴らしいことができるのかと思ったんだけど……」


「うーん……。考えてみたけど特には」


「そっかあ……。よしよし、先輩が君の才能を引き出しちゃうぞー」


 ニコニコしながらサマリは俺を見つめている。

 うーん……もしかして、俺って結構弱い部類に入るのだろうか。となると昨日啖呵を切ったのはミスだったかも?

 まあいいや。どんなモンスターがいて、人を困らせているのか。俺はその人々を救えるようになれればいい。


「……でサマリ。ギルドの登録をしたいんだけど」


「いいよ! こっちに来て」


 サマリの案内のおかげで、俺はギルドの受付へとたどり着くことができた。

 受付のお姉さんは俺に一枚の紙を手渡した。登録書ということだろうか。

 名前や年齢、その他に色々なことを書く場所がある。


「これにささっと書いちゃえばもう君はギルドの一員だよ」


「へー、じゃあ書くか」


 後は半自動だ。

 紙に情報を書き、お姉さんに渡す。するとお姉さんは代わりにカードを差し出してくれる。

 これが、ギルドの一員の証明になるらしい。どんな仕組みかは分からないけど、きっと魔法か何かで判別できるのだろう。

 凄いなあ魔法は。俺もいつか使える日がくるのだろうか。


「これで登録終わり! それで、今日のご予定は!?」


「ユリナ隊長から事前に言われてたことはもうこなしたよ。後は帰るだけかな」


「えーもったいないよ後輩くん。せっかくだし、私が簡単な依頼を受けるからギルドの流れを見てみない?」


「あーなるほど。それいいかも。じゃあ、是非見せてほしいな」


「……それとさ。一応聞いておくけど、私は先輩なんだからね」


「うん。分かってるよ」


「何でタメ口になってるのさ!」


「うーん何でだろう。サマリに敬語で話すのは何か違う気がして……」


「むー……まあいいけど。いや良くないけどいいってことにしとく! 私の戦いを見たらきっとびっくりするからね! 実力で言わせてあげるよ、先輩ってね!」


 サマリはそれから受付に向かって依頼の話を聞き始めた。

 簡単な依頼。つまり倒しやすいモンスター。そういうのは大抵数が多く、依頼が途切れることはないらしい。

 だから、サマリもすぐに依頼を受けることができたのだった。


「よし! ゴブリン部隊の討伐ゲット! 早速行こう後輩くん!」


「あ、ああ」


 サマリは杖を振り回しながらご機嫌な足取りで目的地へと進んでいった。

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