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スキル:ファミリオアクセッション

 アリーの気持ちを落ち着かせるために、彼女の頭を撫でてリラックスさせる。

 それからアリーは何も言わなかった。ただ、俺の後ろについて戦いの行方を見守っててくれる。


「なに? アリーの催眠がそんな簡単な衝撃で解けるというのか?」


「ああ。ユニは俺に託してくれたんだ。切り札――カウンター――をな」


「……ふふふ。そうか、そういうことか。面白いことをするものだ。さすがは私の娘と言ったところか」


「お前の切り札は崩した! 後はお前自身の裁きの刻だ!」


「たかが切り札が破られたからといって私に勝てると思わないことだ。これは勝率が五パーセント下がった程度だからな」


「何だと!?」


「ケイ。お前は私の恐ろしさをまだ知らない」


「そんなもの、また俺がぶちのめす!!」


 許せないんだ……アリーに催眠をかけて俺と同士討ちにしようとして!

 ユリナ隊長の彼氏を、よりにもよって親しかった村人の手で殺させて! 自分は見ているだけで壊れたユリナ隊長に村と国の関係を壊させて!!

 やり口がとにかく汚ねぇんだよ! 見てるだけでイライラする!


 老人は未だに不敵な笑みを絶やさない。それが俺とアリーを見下しているみたいで、俺の感情はさらに高ぶっていく。

 目の前の老人を殴ってやりたい。俺の拳が強く震えていく。


「剣で挑んでこい。私の持つ言葉の意味を教えてやる」


「ふざけるな……貴様!!」


 俺が剣を引き抜き、突進していく間に老人も準備を始めていた。

 彼は双剣を召喚させ、片手ずつ持って構えている。その毒々しい見た目に湾曲している剣の刃。奴の心の醜さがにじみ出ている。

 お構いなしに、俺は剣を奴の首筋へと薙ぎ払った。


「ハァ!!」


「甘い」


「なっ!?」


 腕に全ての力を込めて振った渾身の一撃だったはずだ。

 スピードも悪くない。生まれてきて一番早い斬撃だった。それなのに、前方の憎き老人は目の色一つ変えずに双剣で受け止めているのだ。


「私に剣撃は無意味だ。それが私の『スキル』なのだからな」


「スキル……だと!?」


「獣化と物理無効化。それが私の『スキル』だ。どうだ? 君に勝ち目があるかな?」


「……そんなもの、俺には意味ない!!」


「やれやれだな。聞き分けのない人間は嫌いだよ」


 俺の眼前で老人は姿を変える。それはユニコーンだった。

 しかし、ユニとは違って彼の体毛は幾分濁っていた。完全な白とは言えず、どちらかと言うと灰色に染まっている。

 そして、彼の角はユニよりも大きかった。それだけで俺の持つ剣よりもリーチが長いほど、長い角を持っている。


 双剣が無くなったが、ユニコーンはすぐに自身の角で俺の剣を弾いた。

 あまりの力強さに、俺の手から剣が離れていってしまう。俺が力負けした……。改めて、ユニコーンの力に危機感が生まれる。


「驚いたかな? 魔法でなければ、私を殺すことはできない。それだけにサマリは面白い女だったよ。君の仲間で私を倒せるとしたら、あの子しかいないだろうね。まあ、体と心をボロボロにしてやったがね」


「サマリまで……貴様!! そんなの……やってみなきゃ分からないだろうが!」


「無理なのだよ」


「ぐっ!!」


 一瞬だった。ユニコーンの角は俺の左肩を貫き、そのまま持ち上げて振り落とす。

 俺は吹き飛ばされて近くのレンガの壁に激突した。脆いレンガだったためか、俺の体は崩壊したレンガに飲み込まれていく。

 このままボーッとしている暇は当然ながらない。俺はすぐにレンガを吹き飛ばして剣を持つ。

 物理無効化? ふざけるなよ……! そんなのあり得ないに決まってる! あり得ても、俺に効くか!

 アリーを助け出したものの、まだ俺は頭に血が上っていて正常な思考を取り戻せていなかった。これも、彼の作戦の一つなのかもしれない。

 諦めず、俺はユニコーンに向かって剣を振るう。無力にされたって、何度でも挑戦してやる……!


「うおおおお!!」


「……何度やっても結果は変わらない。私が本気で動けば、君は一秒で死ぬ人間なのだよ。それを理解した方がいい」


「ぐぅ!」


「私が動かなかった理由……それはな、親しい者で殺し合ってくれた方が、生き残った方が面白く壊れてくれるからだよ」


「ううううう!!」


 剣と角の鍔迫り合いが続く。

 だが、俺の本能が語りかける。これは『負ける』と。そんな腐った本能を俺は理性で押さえつける。

 何を諦めている! コイツを殺さなきゃ、利用されたアリーや傷ついたサマリはおろか、ユリナ隊長の無念だって晴らせないんだぞ!


 体が再び宙に浮く。それは俺が鍔迫り合いに負けた証拠だった。

 ユニコーンのヒヅメによって俺は力強く飛ばされ、無残にも地面に叩きつけられる。それでも起き上がる。死ねない……! 俺は……絶対に……!!

 その時、体が地面に倒れた。俺の意思じゃない。何故だ……。

 俺の体が限界を越えていたんだ。力の抜けた膝がガクッと倒れる。


「けー……くん……」


「これが現実というものだ。一人で戦っていたツケが回ってきたんだろうなあ」


「俺は……お前を……殺す……!!」


「この状況からどうやって私を殺そうと言うのか? 魔法が使えないお前では、私を殺すことはできない。残念ながら、こっちの切り札は用意していなかったようだな。まあ、これは我が娘にも教えていないスキルだ。無理もあるまい」


 再び人形へと変身を遂げたユニコーンは、双剣を持って俺を見下している。


 残念ながら、ユニコーンの言う通りだった。

 ここでようやく、俺は自分自身の置かれた状況を理解したのだった。

 ……無理だ。今の俺には奴を倒せる力がない。

 敗北。

 その二文字が俺の脳内を駆け巡る。

 負ける……俺が……?


 アリーの顔を見る。彼女は全てを諦めて完全に塞ぎ込んでいた。

 俺は、彼女の笑顔も守れないのか……?

 今まで戦ってきたことは無意味だったのか……?

 ……そんなわけない。どんな時も『無意味』だった時間はない。

 魔法がツカエナイ? だったら何だ。使えるようにすりゃいい話じゃないか。

 俺にはサマリがいる。あいつは記憶が戻ったおかげで、強い魔法も使えるようになったんだ。

 俺の説得と、彼女自身の決断が、魔法をも取り戻したんだ。サマリの力が……俺にはある。サマリが直接手伝ってくれるんじゃない。分かるんだ。サマリの力が……俺にも宿っている。


 こんなこと、前にもあったような気がする。

 あれは両親の仇について村の先輩が始めて贖罪した日だったか。俺はただ先輩を許しただけだった。

 その時、力がみなぎってきたような気がしたんだ。無力だった俺は、あの日からモンスターを殺せるようになった。先輩と同じ力を持てるようになったんだ。


 ……笑ってる場合じゃないぜ、俺の膝よ。もう一度、立つんだよ。


「ん? また気力を取り戻したのか?」


「……俺はお前のような奴を殺すために今まで生きてきた。それに、守らなきゃならない者もいるんだ。死んでたまるか」


「類は友を呼ぶ……か。サマリも同じようにしぶとく立ち上がっていたよ」


「いくぜ……」


「いつになったら諦めてくれるのかな?」


 俺は心で念じる。魔法が使えるようにと。

 呪文は関係ない。今、ユニコーンを燃やし尽くしたい。その感情だけを剣に宿らせる。

 それと同時に、剣が赤く揺らめいていく。それは俺から放出された魔力が炎へと変わっていく瞬間だった。


「何……? それは何だ?」


「お前の嫌いなものだよ……!」


「まさか……魔法だというのか?」


「食わず嫌いしないでちゃんと喰らえよ!!」


「くっ!」


 俺は刃にたぎらせた炎をユニコーンに向かって放つ。

 炎は曲線を描いて彼を襲うが、間一髪のところでかわされてしまった。

 だが、彼には焦りの気持ちがあることが分かる。それは双剣を持っている彼の手が小刻みに震えていたからだ。


「あり得ない……。ケイが魔法を使えるだと? そんな情報なかったはずだ」


「人は成長するんだ。いつまでも同じスペックだと思うな!」


 剣に雷をまとわせて、俺はユニコーンの双剣を破壊するために走っていく。

 ユニコーンも防戦するために双剣を掲げたが、俺が振るった剣はいとも簡単に双剣を破壊する。


 さすがにマズいと思ったのか、余裕の笑みは消え去り、ユニコーンは背を向けて逃げの体勢を取る。

 獣化のスキルを使用し、老人の姿からユニコーンの姿へと変わる。


 逃がさない。


「ハァァァァ!!」


 跳躍しながら、俺は剣に魔素を溜め込む。

 剣自体に変化は見られないが、確実に魔素が染み込んでいるのは感覚が教えてくれる。

 容赦のない俺の一撃が、ユニコーンの胴体に突き刺さる。


「ガァァァァ!!」


 胴体に剣の刃が侵入した瞬間より、俺は魔素をユニコーンの体へと流し込ませた。

 前に聞いたことがある。人には血液と同じように魔素にも違いがあり、別の血液を輸血されると異常が発生するように別の魔素を注入されても同様に異常が表れるという。

 魔素は同じものは存在しない。人々が内に秘めている魔素は全て別個体なのだそうだ。

 ……なら、今俺がやっているこれはどうか? 元々魔法が嫌いなコイツに俺の魔素を入れてやっている。


 その結果はユニコーンの様子を見れば明らかだろう。

 白目を向き、体を痙攣させている。逃げるという思考も全て『痛覚』に支配されているのだろう。

 終わらない断末魔を上げて叫んでいる。


「止めてくれぇぇぇぇ!! く、苦しぃ!! 死んでしまう!!」


「これがお前によって人生を狂わされた人間全ての痛みと知れ!」


 これほどの激痛ならば、普通は死んでしまうだろう。

 しかし、俺はそれにある仕掛けを施した。それは、ユニコーンが息を引き取る直前に治癒魔法をかけているのだ。

 つまり、コイツは俺が治癒魔法を止めない限り生きていることになる。そして、治癒魔法を止めればコイツは死ぬ。

 十分に行き渡った魔素が簡単に消費されるわけがない。もう、彼は生ける屍と化しているのだ。

 そうまでして彼を生かしている理由はちゃんとあった。この『調整』を仕掛けた張本人を知りたかったからだ。


「さあ吐き出せ! お前に『調整』を指示した存在は何物なんだ!」


「そ……ガァァァァ!! それだけは言えん!! 私の最後の忠誠にかけてぇぇぇ!! グワァァァァ!!」


「……だったら、もうお前は終わりだ」


 治癒魔法を止め、俺は剣を引き抜く。

 その瞬間、ユニコーンの断末魔は終着点へと到達し、地面へと倒れ込んだ。

 溜まりに溜まった魔素のおかげか、ユニコーンの体は爆発四散。肉片は炎によって燃え尽きていった。


「くっ……!」


 疲労が限界を突破した俺だが、剣を地面に突き立てて杖代わりにすることで必死に立つ。

 まだ、俺にはやらなければならないことが残っているんだ。イリヤとファーマ村の人々を助けなければ。

 ユニコーンを殺したことで催眠が戻っているかどうかを確かめる。それまで、俺は倒れるわけにはいかない。


 一度だけ深呼吸し、俺は剣を引き抜いてよろよろと歩み始める。


「けーくん……どこに行くの?」


「まだ……助けが必要なところが残ってるんだ。それをほったらかしにして、俺はここに来たからね」


「私も手伝うよ!」


 アリーは俺の横に立って、上手く歩けない俺に手助けしてくれる。

 自分の肩に俺の腕を回して、体を支えてくれた。ただ立つだけだと身長が足りない彼女は、健気に背伸びをして俺の身長に合わせてくれる。

 ありがとう、アリー。


「ねえ、けーくん。サマリお姉ちゃんの様子も見ておきたいの。一度家に行こうよ」


「ああ……そうだな……!」


 サマリの様子を見て、大丈夫だってことを確認する。

 その後、イリヤとユニ……そして村人を助けにファーマ村へ行くんだ。それで……この一連の戦いは終わる。

 ユリナ隊長を不幸にした元凶との戦いが……。

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