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交差する真実

 寝たふりをしている間に、俺とイリヤはどこかに連れ去られているようだった。

 情報は聴覚からしか入手できない。視覚を目覚めさせた瞬間、俺の『役』作りはバレてしまうからな。

 でも、俺とイリヤを運んでいる村人の話し声は聞こえるため、おおよその情報は手に入った。


「なあ、俺たち、本当にケイを殺すのか?」


「疑問を抱いてはいけない。この村で友好的になった人間は始末する。これは『調整』で決まっていることなんだ。昔の村に降り立った神がそう言ったんだ。間違いなく、こいつは村に災厄を振りまく」


「そうか……? 俺はあんまりそうは思わないんだが。大体、『調整』という言葉が聞きなれない。なあ、俺たちは本当に正しいことをしているのか?」


「当たり前だ。この村は昔からそうしてきたんだ。昔から……な」


「やっぱり、お前も疑問あるんじゃねーかよ」


「確かに、ケイを殺すことに何故かためらいがある。昔に始末した男には何の抵抗も感じなかったんだが……」


「……でも、ちゃんと殺さなきゃな」


「ああ」


 調整?

 この言葉に引っかかる。会話をしている中で、聞きなれない単語だという『調整』

 これが村人たちに関わっているに違いない。村長の目のような虚ろの状態。恐らく、ユニコーンのような催眠状態に陥るための何かだとしたら、この村の真相が分かるというもの。

『友好的』と判断された外部の人間を始末するよう、誰かに操られているとしたら……一体誰が。

 俺の近場で催眠術をかけることのできるのはユニコーンのみ。しかし、それだとユリナ隊長と一緒にいた説明がつかない。

 ユリナ隊長の彼氏を殺した原因がユニコーンにあるとしたら、何故ユリナ隊長をマスターと呼んでいたのか。

 やはりユニコーンではないのか……。まあ、あいつに直接聞けば分かることだ。


「んじゃ、独房に入れるとするか」


「処刑はいつにするんだ?」


「明日、行うそうだ。処刑人はケイと最初に仲良くなった人間になるらしい」


「あの女の子か。幼いのによくやる」


「――悪く思うなよ。これが村の掟なんだ」


 残念ながら、大人しく独房まで入るわけにはいかない。俺は目を開けて暴れ始めた。


「なっ! お、起きただと!?」


「ハァ!」


 俺を抱えていた村人に対して、腹部にパンチをお見舞する。鈍い音でめり込んだ拳と同時に、村人は気絶した。

 次はイリヤを抱えている方だ。すかさず剣を引き抜き、剣の腹で村人の頭を叩いた。もちろん、死なないように手加減をして、だ。

 操られているとしたら、村人自体に罪はないだろう。自らの意思で人を襲わないのなら、モンスターじゃない。


「ガッ……」


 白目を向いて、村人は地面に倒れる。その際、手を離れたイリヤが地面に転がっていく。

 彼はまだ薬が効いているようだ。目覚めるのは時間がかかるだろう。

 かと言ってここに置いていくのも気が引ける。とりあえず俺が運ぶか。

 その時、俺はある一つの視線に気がついた。それはあの女の子だった。俺と一緒にお花を摘みにいった、あどけない少女だ。

 その手にはナイフという似つかわしくない武器を持っている。君はお花を持っていた方がいいのに。


「お兄ちゃん……」


「君は……」


 明日の処刑人は彼女とか言ってたな。つまり、彼女も操られている……はずだ。

 女の子は自分自身の感情に疑問を抱いているのか、困惑した表情をしながら俺に話しかけた。


「私……お兄ちゃんを殺さなきゃならないの……どうして? 分からない……」


「……君はきっと操られているんだ。その原因は分からないけど、俺がきっと見つけ出してみせる。だから、自分を強く持って!」


「いや……お兄ちゃん……こっちに来ないで……! 体が勝手に……!!」


「くっ……!」


 ユニコーンが言ってたな。催眠術にかかった人間は強いショックを与えれば催眠術が解けると。

 しかし、彼女はまだ幼い。俺が手加減をしても、もしもということがある。

 くそ……! 一体誰がこの村に催眠を……!!


「ダメ……! もう……!」


「一か八か、かけるしかないってか!」


 つばをゴクリと飲み込んで、覚悟を決める。持っている剣を構えて、少女が来るのを待ち構える。

 ……一発勝負だ。ミスは許されない。


「――なっ!」


 しかし、そんな俺たちの間にユニコーンが割って入ってきた。こいつは俺の家にいるはずなんじゃ……。

 しかも、彼女の様相が変だ。彼女は獣になっているが、体中が傷だらけになっている。痛々しい打撲傷と切り傷が白い体には目立っている。

 俺の姿を確認したユニコーンは人の形に戻ると、フラフラとした状態で少女に近づいていった。


「ユニコーン!」


「あ……安心してほしいの……ケイくん……」


 ユニコーンは少女に抱きつく。正確には立っていられないから抱きつきざるを得ないといった感じだが。

 少女の視線とユニコーンの視線が一致する。その瞬間、ユニコーンの眼差しが光った。


「正気に戻るの……人を殺めては……いけ……ないの……」


「あ……あぁぁぁ……」


 ユニコーンの催眠術が効いたのか、少女はナイフを落として正気を取り戻していく。

 そして、今まで抵抗していたことで疲労が溜まっていたのか、少女は目を閉じてその場に倒れ込んでしまった。

 少女を助けてくれてありがたいが、何故ユニコーンがここに……。まさか、俺の予想が当たった?


「ユニコーン……この状況はお前のせいなのか?」


「……違うの……話せば長くなるけど……今は……くっ」


「傷だらけになってる理由……この村と関係してるのか?」


「お願いケイくん……アリーを……助けて……」


「アリーに何かあったのか!」


「……ケイくんの家で……それ以外は……」


「……分かった。もう喋るなユニ。後は休んでてくれ」


「……待って……ケイくんに……伝え……なきゃ……」


そう言って、ユニコーン……いや、ユニは意識を失った。

地面に倒れていく彼女の体を、俺が支えて、優しく地面に寝かせる。

息はあるから死んではいない。俺に伝えなきゃならないことがあったようだけど、今は彼女の安静の方が大事だ。無理に喋らすわけにはいかない。


俺が国に帰る決意を固めているところで、ようやくイリヤが目を覚ました。

彼は地面に転がっている自分の状況がいまいち理解できていないようで、必死に考えを働かせようと頭を叩いていた。


「くっ……一体何があったんだ?」


「俺たちは睡眠薬を盛られたんだ。そして、独房に入れられそうになった」


「何だって?」


「……そして、悪いがイリヤ。俺は急用ができた」


 ユニの伝言を胸に秘め、国へと帰る。

 そこにどんなことが待ち受けていようと上等だ。俺が絶対に解決してみせる。

 そして待っててくれユリナ隊長。きっと、俺が仇を取る……! 絶対にな!

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