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「じゃーねー! アリー!」


「うん! また明日ね!」


 校門前で友だちと別れ、私は家へと急ぐ。本当はお話をしながら帰りたいんだけど、友だちとはまったく逆の方向に家があるの。

 だから、仲のいい友だち同士が一緒に楽しいお喋りをしながら帰っている光景を見ると、ちょっと嫉妬しちゃう。いいなって思っちゃう。あの子たちは、一緒に帰って何の話をしているのかな。学校の続き? それとも、帰り道でしか話せないこともあるのかな。

 まだ学校に来て日の浅い私は、友だちが少ない。これから色んな人と仲良くなれば、あの子たちのように帰り道も楽しくなるのかな。

 でも、今の私には好都合かもしれない。家に急いで帰って、支度をしないと。こうしている間にも、きっとサマリお姉ちゃんが来てて待ってるに違いないから。

 靴の状態を確認しながら、私は友だちを見送る。そして、友だちの姿が見えなくなると同時に私は自分の家へと駆け出した。

 えへへ、今日もお姉ちゃんは協力してくれるかな。最近、お姉ちゃんの魔法が凄くなったような気がする。ううん、今までがおかしかったんだよ。お姉ちゃんの本当の力が、あれなんだ。本当の力を取り戻したお姉ちゃんが一緒なら、私の計画も早く進むよ。

 さて、今日はどこに行こうかな。でも、ちゃんと日帰りできる場所にしないといけない。けーくんに怪しまれちゃうから。

 けーくんのための計画だけど、けーくんにバレちゃったり心配させちゃったりしたら意味がないからね。

 駆け足でいけば、私の家はものの数分でたどり着いちゃう。私は息を切らしながら、玄関のドアを開け放って元気に声を出した。


「ただいまー!! サマリお姉ちゃん、いるー?」


「お……おかえり……アリーちゃん」


「お、お姉ちゃん!? どうしたの!? そ、そんなに疲労困憊してて!」


「いやあ……ちょっと……はしゃいじゃって……」


 靴を乱暴に脱ぎ捨てて居間へと向かった私を出迎えてくれたのは、焦燥しきっていたサマリお姉ちゃんだった。

 お姉ちゃんは床に寝そべって息を切れ切れの状態になっている。私の声に反応して、かろうじて頭を私の方に向けてくれた。それくらい疲れているような雰囲気だった。

 その隣にはユニちゃんもいる。でも、彼女はサマリお姉ちゃんと同じく床に突っ伏しているけど何の反応も示さない。すやすやと眠っているようだった。

 というか、お姉ちゃんは一体何をしてたというの!? も、もしかして誰かにやられたんじゃ……!


「大丈夫? 誰かが来たの?」


「あ……アハハ。ユニちゃんとコチョコチョ合戦してたらさ、いつの間にかこんなに体力を消耗しちゃってねぇ……。いやー最近の女の子は体力があるんだねえ。お姉さん、びっくりしちゃった」


「……サマリお姉ちゃん。今、私が本気で心配した分、返してくれないかな?」


「あぁ! そんな冷たい目で見ないでよアリーちゃん!」


「もー。ユニちゃんは――」


 人間じゃなくて、ユニコーンなんだよ。

 そう言おうとして、思わず口をつぐんだ。そう言えば、サマリお姉ちゃんにはまだ彼女がモンスターだってこと言ってなかったよね。

 どうしよう。サマリお姉ちゃんなら別に話してもいいんじゃないかな。

 その時、この間訪ねてきた紳士を思い出した。異様な雰囲気を醸し出していたあの紳士。彼は確かユニちゃんを探してたはずだった。

 あれから訪ねて来なかったから、今の今まで私の記憶は彼との出会いを奥の方に隠してしまっていた。だからけーくんにも言ってない。言うのを忘れちゃった。

 言っといた方が良かったと思う。うん。今日けーくんが帰ってきたら言おう。けーくんに注意してもらった方が良いと思うし。


「ユニちゃんが……何だって?」


「え? あ、う、うん……ユニちゃんは」


「ユニちゃんは?」


「……とっても可愛い女の子なんだから!」


 こ、これで誤魔化しきれただろうか。お姉ちゃんはたまに鋭いところがあるから、気づくかも……。

 と思ってたのは私の奇遇だった。サマリお姉ちゃんは納得したようで、イタズラに寝ているユニちゃんのほっぺたをツンツンし始める。


「そうだねー。ねえ、この子ってモンスターなりきりごっこが好きなの?」


「どうして?」


「さっきね、私とユニちゃんが二人きりだった時にユニちゃんがユニコーンになってごっこ遊びをしてたからさ。……ん? ユニちゃんがユニコーン……ユニコーンがユニちゃん……ユニ……」


「あ、あーーー!!」


「へ!? アリーちゃん!?」


「あーーーーーー! あーーーーーーーー!!」


 お姉ちゃんに隠し事をする必要はないと思ったけど、やっぱりユニちゃんの素性を知る人は少ない方がいいと思う。

 だから、私は話していいかをけーくんに確認するまでは、サマリお姉ちゃんには黙っておこうと思った。

 でも、サマリお姉ちゃんは何かを思いついたように呟いた。そんな彼女の気を引くために私はとっさに大声を出してしまった。……うう。いい案が浮かばなかったんだよぅ……。


「どうしたのアリーちゃん!? アリーちゃんまでギャグる必要はないんだよ!! じゃないと私の出番がなくなるじゃないの!!」


「こ……これは今日の授業で習った呼吸法なんだよ! こうすれば、魔法が使いやすくなるんだって!」


「……ほえー、学校ってところは凄いんだねえ」


「す、凄いんだよ!」


「ねえ、アリーちゃん。学校って楽しい?」


「うん! お友達が増えてきたし、勉強も……大変だけど、毎日色んなことを覚えられるから嬉しい!」


「これからも、頑張ってね。……なーんて、学校に行ってない私が何偉そうに言ってんだって話だけどさ」


「そんなことないよ! お姉ちゃんは凄いよ! だって、独学で魔法をマスターしてるんだもん!」


「それを言われちゃ、ちょっと恥ずかしいな……」


 恥ずかしがるお姉ちゃん、可愛い。

 体力も回復したのか、お姉ちゃんは立ち上がって大きく背伸びをする。それは出発の合図に近かった。


「うーん……! よし、そろそろ行こっか! 今日はどこに行く?」


「うん。ちょっと待ってね」


 いつも学校に持ってってるカバンの中身を広げて、一冊のノートを取り出す。

 そこには、どの素材をゲットしたのかがひと目で分かるようにチェックを付けていた。えーっと、まだ取れてない素材は……。

 素材の名前を控えて、教科書を広げる。教科書には素材の分布が記載されてる。だから、どこに行けば取れるのかが分かるの。


「……お姉ちゃん。この素材なんだけどね」


「ん? どしたの? あ、もしかしてとんでもなく強いモンスターがいるところにしかないってやつ!? それこそ真の力に目覚めた私の出番ってやつじゃないの! 安心して、お姉ちゃんに任せなさいって!」


「ううん。全然違う」


「ありゃ。じゃあ、何?」


「実は……日帰りで帰れるところにはなさそうなんだ」


「あー、なるほど。でも、安心して! そんなアリーちゃんに朗報だよ」


「え?」


「何と、後輩くんが数日出張するかもしれないのです!」


「そーなの?」


「アリーちゃん……もしかして、私のほら話と思ってないかい?」


「……ごめん。ちょっと、思っちゃった」


「酷いよアリーちゃん! ちゃんと後輩くんから聞いた情報なんだから!」


「信じるよー。だから怒らないでー」


「しょうがない。今日だけは許す! まあ、そんなわけで、一日くらいは家に帰らなくても大丈夫ってこと」


「そっか。じゃあ、ここに行けそうだね!」


 こんだけ大騒ぎしてたら眠りを妨げるのも頷ける。

 眠っていたユニちゃんが欠伸とともに目覚めたからだ。


「ふぁぁ……おはよーなの」


「疲れて眠ってたんだね、ユニちゃん」


 寝ぼけ眼のユニちゃんに微笑む私とサマリお姉ちゃん。

 そんな、楽しい時間は一つのノックによって終わりを告げた。最初、来客なのかなと思って私は何の疑問も持たずに玄関のドアを開けてしまう。

 だけど、私の目の前に立っていた人物はいつだかの紳士だった。彼はこの間と同じく黒色のスーツを着こなし、黒色のハットを片手に持っていた。


「やあ、アリー」


「あ……あなたは……」


「今日こそ、ユニコーンはいるよね?」


「い……いません……!」


「それは嘘だろう? 私は聞いていたよ。ユニコーンの楽しそうにはしゃいでいる声をね。さあ、本心を言ってみなさい?」


「……います。どうすればいいですか?」


「そうだな。ここに連れてきてほしい」


「分かりました……」


 何故か、紳士の目を見てしまうと、彼の言うことに従ってしまう。

 それ自体に疑問を湧く必要があるのに、今の私はその疑問が麻痺してしまっている。私はユニちゃんを彼の前に連れて行くことがどれだけ恐ろしいことか気づくことができずに、彼の言う通りにしてしまっていた。


「ユニちゃん。お客さんだよ」


「……アリー。それは、この間の人なの?」


「うん。早くした方がいいよ。彼を待たせているんだから」


「…………」


 どうしてユニちゃんは動かないのかな。わがまましちゃ、あの人が可哀想だよ。

 そう思った私はユニちゃんの手を引いて玄関へ引きずり込もうとする。


「あっ! アリー! 止めてほしいの」


「ダメだよ。ちゃんと会って話をしなきゃ!」


「――ちょいと待ちなさい。アリーちゃん」


「何? サマリお姉ちゃん」


 突然、サマリお姉ちゃんが私の肩に手をかけた。

 どうしたんだろう。私、何か変なことをしてる? よく分かんない。


「何か様子がおかしいけど、その男に何かされた?」


「え? 特に何もされてないと思うけど……」


「嘘ね。普段のアリーちゃんなら、嫌がるユニちゃんを無理矢理連れ出さないもの」


「だって、あの人が待ってるんだよ。あの人の言う通りにしなきゃダメだもん」


「ぽっと出の男と普段から接してるユニちゃん。どっちを信じるっての?」


「……あ……。あ、あ……わ、私……今、何を……!?」


 サマリお姉ちゃんの言葉で、私の頭にかかっていた霧が晴れた。

 それと同時に、私はユニちゃんに対してとても酷いことをしてたことを実感し、恐ろしくなる。


「ごめんねユニちゃん! 私……変になってた……!」


「いいの。でも……」


「二人とも安心なさいって。このお姉ちゃんが、変なおじさんを追っ払ってあげるから!」


「サマリさん。気をつけて欲しいの。あの男は……」


「大丈夫大丈夫!」


 軽いノリでサマリお姉ちゃんは玄関へと向かった。でも、なんだろう。ここで引き止めておかなきゃダメな気がする。

 それはユニちゃんも同じようで、二人でサマリお姉ちゃんを止めようと駆け出す。

 でも、サマリお姉ちゃんはすでに紳士と話を始めてしまっていた。


「ちょっといいかしら?」


「誰かな? 君は」


「名前を言う必要なんかないと思うけど? それより、さっさと帰ってくれない? 何が目的か知らないけど、あなたの望む物はここにはないから!」


「根拠があるのかい?」


「はっ! アンタに喋る利益があると思って!?」


「……まったく、邪魔な存在だ」


「その言葉、そっくりそのまま返してあげる」


「――なら、この攻撃は?」


「なっ――!」


 その瞬間、紳士の手から光が放たれる。その光はサマリお姉ちゃんを包み込み、やがて爆発した。

 煙が舞い上がって状況がよく分からない。けど、何かが壁に激突している音だけは拾えたから、きっとそれはサマリお姉ちゃんが壁にぶつかったんだろうと思う。

 私はお姉ちゃんに駆け寄ろうと走り出したけど、ユニちゃんが止める。

 彼女は私の腕を掴み、離さない。


「離してユニちゃん! サマリお姉ちゃんが大変なんだよ!」


「――狙われてるのはアリーなの!」


「え? ど、どうして……」


「いいから逃げる!」


 そう言うと、ユニちゃんは私の腕を引いて玄関から離れていく。

 どうしてあの紳士は私を狙っているの!? 最初に出会ったときはユニちゃんを探してる風だったのに!

 状況が飲み込めないまま、私はユニちゃんに連れられている。


 ユニちゃんは部屋の奥にあった大きな窓を割って、外へと駆け出す。

 砂利道が靴を履いていないため、ざらついた感触が足に広がっていく。幸いにも靴下を履いていたからまだ大丈夫だけど、いつ足を擦り剥けていくか……。


「おやおや、それで私を退けたつもりかな?」


「っ!」


 逃げた先に紳士はいる。

 彼は汗一つかいていない涼しい顔で、必死に逃げる私たちをあざ笑っていた。


「どうして……どうしてアリーを襲うの!?」


「彼女を匿う彼が邪魔だからだよ。しかし、君はもう私たちに戻る気はないのかい? 今なら、ユリナに囚われていたということで許される。どうかな? パルラリナ」


「……ごめんなの。あんなところに戻るのは! それに、私はそんな変な名前じゃないの。私の名前は『ユニ』だから……」


「そうかい。それじゃ、私自らの手で始末しなくてはならないな。残念だよ、我が娘を手に掛けるのは」


「え……? あ、あなた、ユニちゃんのお父さん!?」

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