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※突撃! 後輩くんのお宅を訪問!

 後輩くんと別れてから、私はすぐに支度をする。と言っても、毎日同じようなローブを身に付けるくらいしかないけど。髪は……ちょっと梳かしておくか。でも手ぐしで問題なしなし! そんな格好でも会いに行ける友人たちだから。

 行き先はもちろん決まってる。後輩くんの家だ。アリーちゃんに会うためだよ。別に後輩くんの家が不在だからって盗みを働くわけじゃないってことは分かってほしい。

 後輩くんの家は学校から結構近い物件みたい。きっと、アリーちゃんの負担を考えてのことなんだろうな。やっぱり、彼はアリーちゃんのことを大切に想っている。まるで、本当の家族みたいに。

 私のことを真剣に説得してくれたけど、アリーちゃんが私と同じように悩んでいたら、もっと真剣に、それこそ命がけで説得するだろうなってことは想像に難くない。

 あーあ。いいなあアリーちゃんは。あんなにも想ってくれる人がいて。

 私にも、いつか出来るのだろうか。本当に大切な人が……。

 未来の彼氏に思いを馳せながら歩いていれば、ほら、もう後輩くんの家に着いた。

 下らないことを考えてればいい暇つぶしになる。それが実現可能か不可能かは問題じゃない。こうして頭を働かせることが大切なんだと、私は思う。


「……あれ? 鍵がかかってない……どして?」


 単なる思いつきで、私は玄関のドアノブを捻った。そしたら、すんなりとノブは回ったのだ。

 後輩くんかアリーちゃんが鍵を忘れたんだろうなあ。もう、二人ともおっちょこちょいなんだから。やっぱり私が必要なんだね。うんうん。

 家の中に入って、私は部屋の広さに驚く。

 後輩くんから新住居のことは聞かされてたけど、こんなに広くて綺麗なお部屋たちとは思ってなかった。高いぞーこの物件は。一体いくら出したのやら。

 この家の構造は、三部屋がしっかりと仕切られており、プライベートを尊重している作りとなっている。お、後輩くんで一部屋。アリーちゃんで一部屋。もう一部屋残っているということは、私が移り住んじゃおうかなー?

 勝手に思い込んでウキウキとしている私。後輩くんに言ったらまたツッコミがくるんだろうな。でも、私はそれで良いと思う。私が面白い――かどうかは別として――ことをして、誰かが笑ってくれる。他人が楽しがってくれれば、私もそれを見て嬉しい。

 大抵、いつものやり取りをすれば、アリーちゃんが笑ってくれる。最初の内は『何だこいつ?』みたいな顔つきをしてたけど、それは過去の話。今じゃすっかりアリーちゃんは爆笑してくれるんだ。

 私の存在で悲しませたくない。私がいるなら、せめて笑ってほしい。悲しい顔をしないでほしい。だから、精一杯おどけてみせるの。


「あれ? お客さんなのー?」


 私の足音が聞こえたのだろう。部屋の奥から呑気な声が聞こえてきた。部屋は扉が閉まっていたから音でしか私を検知できなかったのだろう。というか、私がノックをしなかったのも問題なんだけど。これが他人の家だったら住居不法侵入ってところだね。勇者様なら許されるけど、ただのギルド員の私じゃ捕まっちゃうだろう。

 でも、ここは知人の家。それに、私は声の主に覚えがある。だから臆することなく声を出した。


「どうもどうも! きゃわいいサマリちゃんだよー!」


「あ、サマリさん。ちょっと待っててほしいのー」


 ドタバタといった音がしたと思ったら、扉がすぐに開かれる。

 そこから出てきたのは、紛れもなくユニちゃんだった。

 彼女を最初に見た時、天使かと思った。肌が白くて透き通っている。この世のものとは思えない可愛さ。

 というか、彼女は何でこの家にいるんだろうか。その答えはユニちゃん自ら語ってくれた。


「私、ケイくんやアリーと一緒に住んでるの。だからここにいるのー」


「あーそうなんだ。そいえば聞いてなかったなー」


「サマリさんはどうしてここに来たの?」


「フッフッフッ。それは愚問というものだよユニちゃん」


「ぐもん? どういう意味なの?」


「それを質問するのもはばかられるくらい、無意味な質問ということよ……多分」


「へー、勉強になったの」


「これで一つ、賢くなったねユニちゃん!」


「……で、どうしてここに来たのー?」


 思わずずっこけそうになってしまう。

 ユニちゃんの表情は何で私がそんな行動を取っているのだろうと伝えている。もー、空気を読んでよね。


「そ……それはいつものやつだよ。アリーちゃんの素材集めのお手伝いっ!」


「あー……ごめんなさいなの。じゃあ、アリーを待つの?」


「もちろん! 彼女が居なきゃ始まらないからね!」


「でも、毎日大変なの。アリーも最近は、ねぼすけさんなの」


「そっか……やっぱり、少し休んだ方がいいのかもね」


「今日アリーに相談してみるの。それに、サマリさんは疲れてないの?」


 実のところ、私も最近は疲労が溜まって中々起きられないことが多い。

 今日だって後輩くんが来なかったらいつまで寝ていたか分からない。だから、最近はギルドの仕事をすっぽかしている。

 でも、アリーちゃんが私を頼ってくれているんだ。ギルドの仕事なんてやってられないよ。

 私はユニちゃんに気取られないようにいつもの三割増しでおどけた。


「ハッハッハッハッ! 私はいっつも元気さ! なんたって、護衛隊に一番近い女の子と言われているんだからね! あのくらいじゃあ、家の周りを歩くのと大差ないよ!!」


「……サマリさんって面白い人なのー」


 ユニちゃんは控えめに笑ってくれる。多分、笑っちゃ失礼なんだって思ってるからだろうけど、私としては笑ってくれて大いに結構なのだ。

 今、彼女が笑ってくれるこの瞬間が大好きだから。こんな私でも、ちゃんと人を笑顔に出来るんだなって確認できる。

 一息ついて、私は大人しくアリーちゃんを待つことにする。あの計画が走り出してから、彼女の帰宅は早い。まあ、早く帰らなきゃ計画を達成させることなんて無理だからね。これは後輩くんには秘密の計画なんだから。

 居間へと向かって、私はジッと待つことにする。今のうちに寝ておくのもいいかもしれない。ユニちゃんには冗談で通したけど、疲労は確実に溜まっているのだから。

 ただ呼吸しているだけだと、次第に私のまぶたに重みが生じてくる。体から『何もしないなら寝ろ』って命令が走っているようだった。

 ウトウトとしながら、私はアリーちゃんの帰りを待つけど、ユニちゃんはどうなのかな?

 そう思って、眠気覚ましにとユニちゃんの方を見る。彼女は私を見ていた。

 けど、その眼差しは複雑な感情を感じ取れる。なんだろ、私、何か変なことしちゃったかな?


「ユニちゃん……? どしたのさ?」


「あまり思い出したくないだろうから、最初から謝っておくの。……サマリさんの村はモンスターによって壊滅したの?」


「う……うん。そうだけど」


 きっと後輩くんから聞いたんだろう。ユニちゃんは申し訳なさそうに謝ってくれたけど、私の中で決着はついている。


「……ごめんなさいなの。本当に、ごめんなさい」


「ユニちゃんが謝ることじゃないって。あれはモンスターのせいなんだから」


「それでも、謝らせてほしいの」


「……うん、分かった。それじゃ、今のユニちゃんの言葉をモンスターの言葉だと思ってあげるよ」


「サマリさん……」


「村が壊滅したのも、きっと私たちの力が足りなかったから。早く国と連携してれば……ちょっとは違ったかもしれない。だけど、それはもう過ぎたことだもの。悔やんでもしょうがないよ」


「……唯一の生き残りで、記憶を操作されてどう思ったの?」


「ん? そんなことも後輩くんは言ったの? まったく、お喋りなんだから」


「あのあの、聞かせてほしいの。催眠術で……過去の不都合な記憶を消されて……どうだったの?」


「んー、そのせいで私の本気が出せなかったってのはあるね。過去がないから、魔法を使いこなせなかった。得意だった魔法もモンスターに当たらず、辺りを焼け野原にしちゃったこともあったしね。あー! あと、アリーちゃんと過去を語るってが一度あってさ。あの時は参ったよー。だって、思い出せないんだもんね、自分の過去を。まあ、私の話術で乗り切ったけどさ」


「そう……なの」


「……不便なことが多かったけど、どちらかと言うと感謝してる」


「え?」


「だって……私に時間をくれたから。心の整理をさせてくれる時間を。ユリナ隊長の判断のおかげで、私は心が完全に壊れる前に心を守ることができた。あの時、村が壊滅した直後なら整理できなかったことも、今なら大丈夫だもん」


「サ、サマリさん……実は……」


「うん? どうしたのユニちゃん」


「……私が、あなたに催眠術をかけてしまったの。マスターに期待してた私は素直に従ったの。だけど、後悔もしてたの。こんなことを他人に使用して、いいように操っていいのかって……」


「アハハ。うんうん分かった。今はユニちゃんはモンスターの役なんだもんね。ありがとう。嘘でも嬉しいよ」


 役になりきっているユニちゃん。私に催眠術をかけたのはユニコーンだったっけか。それだけは奇跡的に覚えてる。しっかし、今の彼女は本当にモンスターのように思えるよ。……というか、本当に人間、だよね?

 いつの間にか、ユニちゃんは瞳に涙を溜めていた。……ダメだよユニちゃん。私のせいで、あなたが悲しんだみたいに見えるよ。みんなには笑っててほしいんだから。

 だから、私は彼女に近づいて彼女の涙を拭った。


「ダメよ、ユニちゃん。泣いてちゃ、何もならないから」


「……サマリさん」


「何が悲しくて泣いているか、お姉ちゃんには分からない。でも、泣くくらいなら笑ってほしいな」


「笑う……」


「そっ! 悲しいことよりも、楽しいことを多くしなきゃ! 人生まだまだこれからなんだから、ねっ?」


「……うん。そうするの」


 ユニちゃんは自分で涙を拭いて、それから笑顔を見せる。そうそうその調子。

 きっと、モンスターの気持ちになってくれたんだろうな。私に催眠術をかけたせいで私が不幸になってしまってなかったかどうか。それを私の口から聞いて、それほど気にしなかったにせよ、罪だと思って泣いてたんだ。

 でも、私は気にしないよ。催眠術がなかったら、絶対に私はここにいない。断言できる。それほど、壊滅直後は焦燥しきってたんだから。

 あの日のことは、今でも思い出せる。眼前に広がる死体の山。どこかが欠損してて、血に彩られた骨も露出している死体たち。見開かれた目は私が生き残ったことを訴える。

 私の隣でモンスターと戦ってた男の子も死んで、私は全てが嫌になって一緒に死のうと思ってた。

 それを助けてくれたのは……皮肉にもユリナ隊長だったんだ。村の戦う力を奪いたいはずの隊長が何で私を助けたのかは分からない。

 でも、実際に助かった。こうして後輩くんやアリーちゃんとも会えることもできた。時間があったからこそ、私はリノの偽物に打ち勝つことができた。

 ……あーあ。眠気が吹き飛んじゃったよ。ユニちゃんに感謝しないとね。


「ほらほら、いつまでも湿っぽくならない! そんなんだと、心も疲れちゃうからね」


「じゃあ、どうするの?」


「……こーするの!」


 私はユニちゃんの口に指を突っ込んで無理矢理に口角を上げる。


「ふ……ふがふが!」


「アハハ! 変な顔してるよユニちゃん!」


「ひゃ、ひゃめるのー」


「えー、どうしよっかなー? アリーちゃんが帰ってくるまで、こうしてたいんだけどなー」


 アリーちゃんが来るまで、私はユニちゃんとさっきまでの暗さを吹き飛ばすようにふざけあったのだった。

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