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ある村の異変

 城の中にある護衛隊の部屋。俺は再びそこに足を踏み入れることになった。

 護衛隊が駆り出されるほどの指令とは一体どういうことなのだろう。モンスターの退治だろうか。

 ユリナ隊長亡き今、国や連携した村のモンスター退治はギルドが責任を持って対処にあたっている。それ自体は悪いことじゃない。

 だけど、肝心の戦力がない。これは致命的だろう。国は今まで弱いモンスターしか相手にしてこなかった。さらに、弱いモンスターでも大人数での戦闘はまったくと言っていいほど経験がない。

 ……モンスターなら俺の得意分野だ。きっと力になれるはず。

 俺はそんなことを思いながら、ドアをノックした。


「ケイです。入ります」


「どうぞ」


「失礼します」


 ドアの奥にいるリーダーに了承をとってから、俺はドアを開けて中へと入る。

 この前みたいに窓の方向を向いていて俺からは後ろ向きになっているリーダー。

 彼女は椅子を回転させて、こちらに向き合ってくれた。

 その際に、彼女の可愛らしいボブカットが揺れる。とてもリーダーなんて仕事を受け持っている人とは思えない。

 まあ、普段はギルドのヒーラーとして活躍しているから、きっとこれは表向きに合わせた結果なのだろう。


「早いですね、ケイさん」


「あ……どうも」


「何のご用でしょうか……というよりも、あの手紙を見てここに来てくれた。そういうことでしょうか?」


「ええ。護衛隊の召集がかかったということで来たんですが……」


 そう言って俺は部屋を見回す。

 しかし、ここにはリーダーと俺の二人しかいないのだ。もしかして、俺が一番早く来たってことなのか?

 怪訝な表情で辺りを見ていた俺が可笑しかったのだろうか。リーダーはくすくすと笑い始めた。


「な、何がおかしいんですか?」


「いえ……他の人員を探しているんですよね?」


「まあ、そうですね。俺が一番乗りってやつなんですか?」


「では、真実を伝えましょう。実は……」


「実は……?」


 真実? 嫌な予感がする……。

 リーダーは真剣な眼差しで俺と目を合わせている。これは相当な覚悟を持って挑まなければならない。

 俺は喉元に溜まったつばを飲み込んで、彼女の言葉を待った。


「現在、護衛隊の隊員はただ一人。ケイさんだけなのです」


「……えぇ!?」


「事実です。リーダーの私。そして、人員はケイさん。……それだけなのです」


「いや、さすがに少なくないですか!? その前に、これって本当に『隊』ですか!?」


「だって……この国には強い方がいらっしゃらないのです……!!」


 そ、そんな! 嘘だろ!?

『護衛隊』にしては妙に自由行動が認められているなと思ってたけど、管理できる人数で、俺しかいないからかよ!


「皆さん、たった数体のトロールで苦戦する人たちばかりなのですよ!? この国は危機管理が甘すぎます! だから村と友好関係を結んで戦力をお借りしているのですが、それだけでは国としての戦力は変わりません。私の独断で学校に新しい課を設立させて明日を担う人員を育成中ですが、それも数年後にならないと育ちませんし……」


 そう言うと、リーダーは頭を抱えた。

 心なしか目に涙のようなものが溜まっているように見えるんだけど……今のこの状況を考えると喜劇にしか思えないぞ。


「た、大変なんですね」


「私もこうして座っているだけで……椅子をクルクル回しながら遊んでいることしかできなかったのです」


「遊んで?」


「あ、いや、それはう、嘘です」


「そう言えば、どうしてリーダーはいつもドアから背を向けているのですか?」


「それは……その方がカッコいいからです」


「……は?」


「エライ人ってよく窓を見て怪しげな雰囲気を醸し出していませんか? そして、人が来たらクルッとその方向を振り向く……。ほら、エライ人の完成です」


「…………」


「……それは置いといて!! ケイさん。もし近くに有能な人材がいましたら声をかけて下さいね?」


「善処します……」


 それもこれも、ユリナ隊長が計画を歪ませたせいじゃないか。彼女は村に裏切られたからしょうがないと言えばしょうがないが……。

 冷静に突っ込んでみるか。


「あのう、リーダー」


「何ですか!? もしかして有能がこの近くに!」


「いえ、ユリナ隊長をもう少し早く止めていたらと思いましてね……」


「そうですね。しかし、私では止めることはできなかった。村出身であるあなたの力が必要でしたから……」


「……いえ、すいません。出来過ぎた真似でしたね」


「いいえ、構いません。今回あなたを呼んだのは、そのユリナ隊長のことなのですから」


「何ですって?」


 ユリナ隊長のことについて。それってもしかして……!

 俺の目の色が変わったことでリーダーは全てを理解したようだ。彼女はゆっくりと頷いた。


「お察しの通りです。ユリナ隊長の運命を変えた村が……判明しました」


「それはどこに!?」


「ケイさん。あなたは今までに立ち寄った村でも、そこに行くことができますか?」


「できます! 何なら、俺が村代表として説教しに行ってもいい! 何でこんなことをしやがったんだって!」


「……『ファーマ』村。あなたがトロールを八体退治した村の名前です。覚えていますか?」


 アリーにプレゼントを買うきっかけを作ってくれた村のことか。覚えている。

 あそこにはお花が大好きな女の子や、お年寄りの村長がいたはずだ。

 そうか。あの村がユリナ隊長の彼氏を殺したのか……。


「綿密な調査を重ねた結果、そこの村だと私は判断しました」


「そう……ですか」


「元気が無くなりましたね」


「少し……ショックですから。あの村は、トロールに襲撃されて家や畑がめちゃくちゃになってたんです。それを退治して、ようやく村として再興できるって思ってたものですから……」


「まだ希望を捨ててはいけませんよ、ケイさん」


「どういう意味でしょうか?」


「これは予測なのですが、最初、村人は本当にユリナ隊長たちを歓迎していたのではないでしょうか?」


「え?」


「調査結果をまとめたところ……村人が暴力的になったのは、ユリナ隊長の彼氏を殺した一度きりなのです。それ以外は悪い評判を聞かないほのぼのとした普通の村でした」


「どういうことでしょうか」


「それはまだ分かりません。ですが、あなたが行けば、何かが分かるかもしれない。一度あの村に立ち寄っているあなたなら」


「俺が……」


「ユリナ隊長にここまで真剣になってくれるのはあなたしかいない。ですので、これは護衛隊の案件として預かったのです。本来はギルド兵士を総動員させて村の壊滅を図るところでした。ですが、それではまた新たな悲しみを生むだけ。また、凶暴的になった理由があるのかもしれない。……ですから、あなたを指名したのです」


「リーダー……」


「行ってくれますね? ケイさん」


「も……もちろんです。ユリナ隊長の無念は俺が晴らします」


「良かった」


 その答えを待っていたのだろう。リーダーは優しく微笑んでくれた。

 ユリナ隊長だって、あの事件がなければこうして笑ってくれる人に違いなかったんだ。可愛い装飾品をつけて、彼氏にからかわれて。それでちょっと頬を膨らませたりして……。


 逆にあの村のことも気にかかる。俺と出会った時はギルドの兵士が働かないということで完全な被害者だった。

 それが、過去に隊長の彼氏を殺したことがある村と同じ? 俺には考えられなかった。

 あの、人当たりよさそうな村長や、女の子。他の村人だって話し合えば仲良くなれただろう。

 二つの真実を確かめるためにも、俺は行かなければならない。

 リーダーに二つ返事で、俺は出発を決め込んだのだった。

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