護衛隊からの連絡
サマリが偽りの妹と決別した日。あれから数週間が経った。
あの日からサマリは再び俺やアリーと会うようになった。辛い思いを乗り越えて、彼女は毎日を生きている。
その一歩を踏み出すには時間がかかったけど、俺は彼女の歩みを応援したいと思う。
「今日もいい朝だ」
一番早く起きるのは俺だ。朝の日差しに耐えられない俺は目覚めるのが早い。
大きく背を伸ばし、窓を開けて新鮮な空気を部屋へ取り込んでいく。部屋の生ぬるい温度が、外の空気によって冷やされていく。
これで、あの二人も起きるはずだ。俺は二人が眠っている部屋へと向かう。
「おーい、朝だぞー」
案の定、アリーとユニコーンは眠っていた。彼女らは一つのベッドを使って二人で寝ている。
顔合わせに眠り込んでいる二人は本当の姉妹のように見えてしまうが、実は違う。
いつものことだと思うが、そろそろ自分で起きられないのかい? 君たちは……。
まあ、いいか。こんなことも、いつかは出来なくなるんだからな。
俺はまだすやすやと眠っている二人が包まっている布団を強制的に剥ぐ。外気に晒された二人は、寒そうにうめき声を出した。
「……朝だぞ。お前たち」
「ううん。あぁ……おはようなの」
「よお、ユニコーン」
「ほら、アリーも起きるのー」
先に目覚めたのはユニコーンの方だった。寝ぼけ眼でまだ眠っているアリーの体を揺する。
というか、ユニコーン。お前、本当に馴染んだな。最初の頃はいつ反旗を翻すか警戒をしていたが、もう長い時間を共にしてしまっては彼女の本心も分かるというもの。
こいつは、本当に俺たちを襲う気がないらしい。
「ふぁぁ……もー朝なのお?」
「そうだぞ、アリー。お前……昨日は何時に寝たんだ?」
「あ……おはよーけーくん。ふぁ――」
俺に気がついたアリーはベッドから這い出て俺の足に絡みつく。そして、そのまま目を閉じたのだった。
「おやすみぃ……」
「……起きろ!!」
「――ひゃい!!」
喝が効いたのか、アリーは一気に目を覚まして直立不動になる。
いつから彼女はお寝坊さんになってしまったのだろうか。もしかして、俺の教育が悪いのだろうか……。
だとしたら、少し厳しくしてやった方がいいのだろうか。アリーを可愛がり過ぎて、彼女が甘えん坊になったのでは……!?
あらぬ不安を心に抱えつつも、役目を果たした俺は朝食の準備をするために部屋を出たのだった。
「ごちそうさま!」
手を合わせて食器を片付けるアリー。何だか食べるのが早いぞ。
もう学生服に着替えている彼女。初日はあんなに手こずってたのに、もう慣れたも同然だ。
顔つきもすでに最初の時とは違っている。だが、最近はいつにも増して起きるのが遅い。
悔しいが、ここはユニコーンに聞くしかないか。
「けーくん、いってきまーす!」
「ああ! 気をつけろよ!」
「うん!」
パタパタと走る足音が聞こえ、玄関の方へと遠ざかっていく。
アリーが学校へと行った証拠だった。
よし、彼女がいなくなったなら、聞くのは今しかない。俺はまだ朝食のパンを頬張っているユニコーンに尋ねてみることにした。
「なあ、ユニコーン」
「なにー?」
「最近、アリーは何時に寝てんだ?」
「えー? 結構早いよー」
「夜遅くまで、何かしてんじゃないだろうな?」
「どうして気になるのー?」
「そりゃ、俺はアリーの保護者みたいなもんだからな」
「へー。でも、ケイくんが心配するようなことは特にないの」
「本当か?」
「本当なの」
「そう言えばユニコーン。最近アリーに催眠術をかけてないよな?」
「それがどうしたの?」
「どういう風の吹き回しだ? アリーに催眠をかけるのがお前の生きがいみたいなもんじゃなかったのか?」
「ああ。それならもう大丈夫なの」
「大丈夫?」
「アリーも覚えたみたいだし、私がアリーに催眠をかけることはもうないのー」
頬張ったパンをごくりと飲み込み、彼女も朝食を終える。
なんだろう。最近、アリーは俺に隠し事をしているような気がする。俺が彼女に話しかけると、何故か焦りだすのだ。
最初は特に思わなかったけど、それが何度も続けばさすがに気になる。
うーん……アリーとはちゃんとした信頼関係を築いていたと思ってたんだが……。
まあ、女の子なら隠し事をしたい年頃もあるのだろう。気にしないようにしたいけど……。でも気になる。
後でサマリに相談した方がいいのだろうか。ああ……俺は本当にアリーと別れられるのだろうか。彼女といれる時間は有限なのに。不安しかないぞ。
「ところでケイくん」
「何だ?」
「護衛隊からお手紙が来てるの」
「え?」
ユニコーンから受け取った手紙を広げる。
それは確かに護衛隊からの連絡だった。それは『指令が下ったため、召集すること』という、要点のみが書かれたものだった。
急ぎの用事か? 護衛隊は基本的に自由だが、指令が下ればそれに従って行動しなければならない。
指令が何なのかは分からないが、とりあえず行かなければならないだろう。
「悪いユニコーン。俺、ちょっと出かけてくる」
「そうなの」
「もしかしたら、今日一日こっちに帰れないかもしれないが……大丈夫だよな?」
「今日は仕方ないけど……できれば、これからはアリーと一緒に居て欲しいの」
「ん? 仕事の無い日はアリーといる方の時間が多いと思ったけど……なんかあったのか?」
「それは……アリーが寂しがるから。アリーは寂しがりやさんなの」
「そっか。でも、サマリやお前だっているんだろ? なに、一週間もいないってわけじゃないんだ。心配しなくても、アリーは強い子だよ」
「そう……かもしれないの。ごめんケイくん。ちょっと、アリーを信用できてなかったの」
「……フッ」
「ん?」
「まさか……ユニコーンとここまで打ち解けるとは思わなくてな」
「やっと私の本心を受け取ってくれたのー?」
「ああ。俺とアリーに敵意がないってことは分かった」
「なら良かったのー」
「じゃ、行ってくる」
「分かったの。アリーのことは私に任しておくのー」
早めに支度を済ませ、俺は護衛隊の集まる城へと向かうことにしたのだった。




