※お姉ちゃんに教えてもらおう!
その後、けーくんの提案により、サマリお姉ちゃんの家に行くことになった。
家でお風呂を沸かすよりも、サマリお姉ちゃんに頼んで魔法で水を出してもらおうということだった。
……ちょっと不安だと思った。サマリお姉ちゃんは私を受け入れてくれるのだろうか。そして、妹のこと……。
サマリお姉ちゃんの妹さんは私のことどう思うのかな。
「ねえけーくん……」
「どうした?」
「サマリお姉ちゃん……大丈夫かな? また拒絶されたりしない?」
「ああ。もう、大丈夫だ」
けーくんが私の頭を撫でる。その優しい手の感触に目を細めながら、私はけーくんの言葉の意味を探る。
何か根拠があるのかな? 妹と、関係があるのかな?
どちらにしても、再びお姉ちゃんと会わないと何も分からないのは確かだった。
色々と複雑な感情が胸の中でぐるぐる回りながらも、いつの間にか私はサマリお姉ちゃんの家の前に着いていた。
日の光があるかないかだけで、この間来た時と何ら変わりない。
けーくんが先導して家の玄関へと立ち、ドアを叩く。
すると、パタパタと玄関に近づいてくる足音が聞こえてきた。それは妹さんなのかサマリお姉ちゃんなのか……。
妹さんだったらどうしよう。まだ気持ちの整理がついていない私は、あの子と仲良く出来るのかな。
「はいはーい! あ、後輩くん」
「よお、サマリ。俺だけじゃないぜ」
「……アリーちゃん」
お姉ちゃんは視線を私に向ける。
この間の見えない亀裂のせいなのか、お姉ちゃんの表情は嬉しくもあり悲しくもあるような相反する感情が見え隠れできた。
前まではあんなに笑いあってたのに……。
二人の他人行儀な態度に気がついたのか、けーくんがしゃがんで私の肩に触れた。
「サマリはもう大丈夫だよ」
「大丈……夫?」
「ああ。サマリ! ちょっとアリーと二人で話をしてこいよ」
「……そうだね」
けーくんの提案にお姉ちゃんも乗り気のようだ。もちろん、私も否定する理由もない。
私はサマリお姉ちゃんと話をするために庭に集まることにした。
けーくんとユニちゃんは時間を潰すとか言って、どこかへ行ってしまった。けーくんの配慮、なのかな?
「…………」
二人きりになっても、重い沈黙が周囲を包む。どうしよう。言葉をかけなくちゃいけないのに……。
いつまでもあの時の気持ちを引っ張ってはいけない。私はサマリお姉ちゃんを助けるために声をかけた。
「ねえ、サマリお姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「魔法……教えてくれないかな?」
「いいよ。どの魔法を知りたいの?」
「あのね、炎の魔法なんだけど……」
「炎の魔法……か」
「ダメ……かな?」
私の言葉を聞いて、お姉ちゃんは寂しそうな表情を浮かべる。
もしかして、教えてもらえないのかな。ショボンとしながら、私はお姉ちゃんの言葉を待つ。
目が合ったお姉ちゃんは、ハッとしてすぐに笑顔になる。
「あっ! 違うの。ただね……私と同じだから」
「同じ?」
「うん。最初に習う魔法がね。……コホン! いつまでもテンションガタ落ちしてても仕方ない! 今は元気にいこう!」
「う……うん!」
「このサマリお姉ちゃんが指導するからには! 最強の魔法使いになってもらうからねっ!」
「は、はい!」
「じゃあ、実践してみようか」
「うん」
本を広げて、私はさっきのページを確認する。
……よし。準備はいい。後は実践あるのみだね。
本から目を逸らして、お姉ちゃんを見た時、彼女はどこか遠くを見ているようにボーッとしていた。
「お姉ちゃん?」
「……私と同じ。その本で、私も習ったんだから」
「そうなんだ」
「よし。いい? アリーちゃん。魔法のコツは『心を開く』こと!」
「心?」
「恥ずかしがらずに呪文を唱える! 心の中にしっかりとしたイメージを持つ! そして、全ての意識を魔法を出力する場所に集約させるの!」
「へぇー」
「まあ、最後は素質がものを言うんだけど、私の見立てじゃ、アリーちゃんは十分に素質があるよ!」
「分かった! 頑張る!!」
「拳くらいの炎をイメージすると、効果的だよ」
サマリお姉ちゃんのアドバイスを受けて、私はもう一度神経を研ぎ澄ませる。
ちゃんとお姉ちゃんの期待に応えなきゃ。そして、前みたいに一緒に笑い合いたい。
この魔法がそのきっかけになれればいいなという願いを込めて、私は魔法の呪文を唱えた。
「『我に炎の力を。そして、彼の者に焼灼を』!……『テーゼ ・ ヒノ』!!」
本に記されてある通りに私は動き、恥ずかしさを無くして枝を振った。
すると私のイメージ通り、拳ほどの大きさの炎が表れた。それは枝から離れて真っ直ぐに飛んでいく。
その先はサマリお姉ちゃんの家だ! あっ! そんな!
だけど、お姉ちゃんは冷静に対処を始めていた。
「クデン ・ ルセンル!」
お姉ちゃんが唱えた呪文は光の壁を作り出した。私の魔法はその壁に阻まれ、いとも簡単に崩れ去った。
私が初めて出した魔法よりも、お姉ちゃんの魔法に心が惹かれる。お姉ちゃん、やっぱり凄い魔法使いだったんだ……!
「す……凄いよサマリお姉ちゃん! やっぱり、天才なの!?」
「え? あ、あはは。ほ、本当かなあ?」
「本当だよ! だってだって! 前置きの呪文なしにこんな壁を作れるんだよ!」
「そりゃあ、まあ……あっ」
「どうしたの?」
「……このやり取り、前にもしたなぁって思ってね」
「私と?」
「ううん、もういない妹とね」
「そっか……」
あれ? でも、妹さんって生きてるんだよね?
実のところ、私はよく分かっていない。私が前にお邪魔した時には居なかった妹さんが、この間にはいた理由。そして、今のサマリお姉ちゃんが言った『いない』という言葉。
でも、今は魔法の練習をしなくちゃ!
「サマリお姉ちゃん、見てて! もう一回やってみるから!」
「今日はもう休んだ方がいいと思うよ? 今日が初めてなんだよね? 魔法を出したの」
「そうだけど……私もサマリお姉ちゃんみたいになりたいから!」
さっきと同じ立ち位置に戻って、呪文を唱えようとする。けど、突然体がふらっときてしまった。
地面に倒れそうになったのを、サマリお姉ちゃんが支えてくれる。
「あ……れ……?」
「おっと! アリーちゃん、最初はみんなこんなものだよ。私もよく分からないけど、魔法を使うと体の中にあるパワーを消費するらしいから。呪文を唱えて魔法が出てきたんだから、後は慣れだよ」
「うーん……お姉ちゃんの言う通りにする……」
「そうそう! んー? この汗の匂いは魔法を出そうと頑張ってた証かなー?」
「お、お姉ちゃん……! 恥ずかしいんだからあまりそんなことしないでよー」
「あはは。じゃ、私の魔法でお風呂にしますか!」
「……うん! あ、でも、けーくんとユニちゃんは……」
「きゃつは男よ? 一緒に入ったらヘンタイの烙印を刻んでやるわ。ユニちゃんの方は……まあ気にしない! きっと二人でいちゃラブエッチしてんのよ! あーあ! こんなにも可愛い女の子二人がいるのに、後輩くんったらイケナイ男の子だね!」
「あはは……そうかもね」
ちょっとぎこちなかった私たちの関係も修復されていく。
お風呂の時に聞いてみようかな。妹さんのこと……。




