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※あれ? ユニちゃんはけーくんと一緒じゃなかったの?

 魔法の練習をして、かなりの時間が経った。

 一生懸命汗水たらして頑張っていても、さっき出会った男性の姿を忘れることはできなかった。

 もう。これじゃ全然集中できないよ。なんか不気味だったし、ちょっと怖かったってのもある。

 でも、そうしてユニちゃんの居場所が彼には分かっていたんだろう。けーくんが教えたのかな。

 ううん。けーくんがそんなことをするとは思えないよ。モンスターがいるって言っても、ユニちゃんのことをバラして他人に始末させようなんて、けーくんらしくない。

 けーくんなら、自分で片を付けるはずだ。ユニちゃんのことが、けーくんにとってどんな存在になっているかは分からないけど……。

 ユニちゃんはモンスターだから、けーくんはとっても警戒している。私がユニちゃんと話をしてても、影から監視しているように。

 最初は私だってユニちゃんが怖かった。でも、話をしていく内に、彼女はそれほど人間に対して敵対心を持っているわけじゃないってことが分かってきたの。

 普段はおっとりとしてて語尾を伸ばして呑気な感じをしているけど、私は前に見たことがあった。

 私とけーくんに見せないはずだった、彼女の複雑な表情を。その表情は一瞬で、目があったユニちゃんはすぐに笑顔を取り戻した。けど、あれを見て私はユニちゃんに心を開いたんだ。

 ああ、人もモンスターも変わらないのかなって……。モンスターだって悩んだり、嬉しがったり、悲しんだりする。

 だから、ユニちゃんのことをもっと知りたい。あの子の心を、分かってあげたいと思ったの。

 ……この気持ちが催眠術だったら、笑える話なんだけどね。


「ふー……少し休もうかな」


 一息つくため、私は地べたに座り込んだ。制服も汗をかいてしまったせいでちょっと濡れてしまっている。

 ……私服に着替えておけば良かった。これで明日も学校に行くのはちょっと。でも、制服は一つしかないし……どうしよう。


「……ん?」


 ガサッと草を踏みしめる音が聞こえて、私は耳をすます。

 どうやら、その足音はこちらに近づいてきてるようだった。もしかして、けーくんかな?

 そう思ったけど、私の目の前に現れたのはユニちゃんだった。


「おかえりなさいなのー、アリー」


「ユニちゃん、こう言う時は『ただいま』だよ?」


「じゃあ、ただいまなのー」


「もう……」


 あどけない笑顔で微笑みかけるユニちゃんに、私は呆れてしまう。

 さっきまでユニちゃんのことを考えてたのに。彼女はそんな私を知らないでぽけ~っとしている。


「アリー、その服、水でビショビショなの。どうしたのー?」


「あ、これ? あはは……ちょっと練習のし過ぎで……」


「? どういうことなの?」


「……汗でこんなことに」


「へー、凄い汗なのー」


「あ、あんまり言わないでよ。恥ずかしいんだから……」


「じゃあ、着替えるといいの」


「う、ユニちゃんに言われなくても分かってるよ」


 そうだ。こうしても仕方ない。風邪も引くかもしれないし、早く着替えよっと。家に入るために私は立ち上がる。


「ねえ、アリー」


「ん? どうしたの? ユニちゃん」


「……誰か、この家に訪ねて来なかったの?」


「え?」


 ……ユニちゃんは辺りを見回して、それから私に視線を合わせた。

 モンスターだから鼻がいいのかな。だから、あの男性が来てた証拠として、匂いがこの辺りに残っていたのかも。

 正直、言うべきかどうか迷っている。あの男性は明らかに怪しげな雰囲気を持っていた。

 ユニちゃんの居場所を知っていたし、私に意味不明な言葉を投げかけていた。だから、不気味に感じている。

 って、ユニちゃんに黙ってても催眠術で喋らされるのかもね。じゃあ、自分から言った方がすっきりするよ。


「実はね、ユニちゃんを訪ねてきた人がいたんだよ」


「……その人、誰だったの?」


「名前は聞けなかったよ。けど、黒のスーツやハットを着てて、見た目は紳士な人だったよ。ただ……ちょっと不気味だったけど」


「不気味? どうしてなのー?」


「だって、ユニちゃんがいること、私とけーくんしか知らないはずなんだよ? ユニちゃんの今の姿って、どう見てもモンスターには見えないじゃない? だから、その姿ってことでバレた可能性はないと思うんだけど……」


「うーん……私、その人は知らない人だと思うの」


「そっかあ。じゃあ、ただの変な人だったのかなあ」


「……きっとそうなの」


 その時、ユニちゃんは珍しく私に冷たく突き放したような言葉をかけた。

 これって、何か裏があるってことを言ってるのと同じだよね。

 おせっかいかもしれないけど、私はユニちゃんに言った。


「あの、ユニちゃん……」


「なんなのー?」


「私に出来ることがあったら言ってね?」


「? 急にどうしたの、アリー?」


「……私、ユニちゃんのこと、ちゃんとお友達だって思ってるから」


 夕闇の風が私の素肌を撫でていく。気持ちいい風だ。練習で熱くなった私の体をこれでもかってくらいにクールに冷ましてくれる。

 そんな風の中で、私とユニちゃんは向かい合っていた。

 ユニちゃんは不思議そうに私を覗き込んでいる。

 ちょっと唐突過ぎたのかな。わ、話題を変えた方がいいのかも……。


「あ……ああ! そうだ! ユニちゃん! ちょっと話を変えてもいいかなっ!?」


「別にいいのー」


「そいえば、ユニちゃんは角……ないの?」


「角はないのー。というか、折られたの」


「お、折られた? へぇー誰にー?」


「ケイくんに折られたのー、痛かったのー」


「あっ……」


 思い出した。最初にユニちゃんと出会った時にけーくんが言ってたじゃないか。

 ああ、どうしよう。自分から質問したのに、興味なさそうな感じに映ってないかな!?

 と、とにかく話題を繋げないと!


「じゃ、じゃあ! 折られた角はどっかにあるんだ!」


「うーん……正確には『あった』なの」


「え? あった? 過去形?」


「そうなのー。ついさっき、ケイくんに粉々にされてきたところなのー」


「え……えぇ!?」


 粉々!? ユニちゃん! 私の知らない間にけーくんと何をしてたの!?

 というか、粉々にされていいものなの!? つ……角ってユニちゃんにとって大事な大事なものなんじゃ!?


「じゃあ……もう角は付けられないってことなのかな?」


「まあ……そういうことになるの」


「い、いいの? だって、ユニちゃんにとって大事な物なんじゃないの?」


「別にいいの。もう、必要がないって分かったの」


 そう言ったユニちゃんは遠い目をしていた。まるで、何かを決意したみたいに……。

 そして、彼女はあの男性と同じようなことを私に言ったのだった。私も同じことをユニちゃんに伝える。それ以外、答えはないもの。


「ケイくん……アリーはどう思っているの?」


「……私にとって、一番大切な人。けーくんのために……私は強くなりたい」


「アリー……その気持ち、大切にするの」


「ねえ、ユニちゃん。どうして私にそんなことを……?」


 フッと笑い、ユニちゃんはいつものおっとりとした彼女に戻った。


「ん? 特に理由はないのー。ただの気まぐれなのー」


「……えぇ!?」


「ほらー、そろそろケイくんが来るのー」


「え? けーくんが?」


 ユニちゃんの言葉に反応して、私は玄関へと繋がる道を眺める。

 すると、奥からけーくんの姿が見えた。私は思わず走り出してけーくんに近づいていく。


「けーくん!」


「アリー!」


「えいっ!」


 ジャンプして、けーくんに抱きつく。

 やっぱり、まだけーくんに甘えたいなって思う。今ならまだ……良いよね?

 彼の胸の中に顔を埋めて、頬ずりする私。ああ、とても幸せ……。


「どうしたんだアリー? お前……汗だくじゃないか」


「……あ」


「熱でもあるのか? ん?」


「ち、ちがっ!」


 わ、忘れてたぁー!!

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