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噂の遭遇

 お気に入りの下着が買えた喜びからか、今のアリーはぐっすりと眠りこけている。

 まるで、今日のサマリとの出来事なんか無かったかのように。もちろん、買い物が終わってから、俺は彼女の目を覚まさせた。

 楽しかった気持ちも元の沈んでしまった表情に戻ってしまっていたアリーだったけど、きっと彼女は気持ちに整理がついたのだろう。

 サマリに妹がいたという事実は変わらない。それを黙っていた……もしくは覚えていなかった可能性もあるが、サマリにも多少の責任があるというものだ。

 いつか、彼女の口からアリーに説明してくれる日を俺は待ちたい。


「……こうやって寝顔を見てると、本当に人間に見えてくるな」


 おまけ付きで、隣にはユニコーンが寝ている。

 アリーとユニコーン。お互い寄り添って寝ている姿は傍から見たら微笑ましい光景だと思うが、モンスターの横で寝ているということを知ってはおちおち寝てもいられない。

 しばらくは、こうして寝る前に俺が監視しておかないとな。


 ……しかし、今日は妙に暑い日だ。こんな夜じゃ気持ちよく寝れないだろうに。

 それでもすやすやと寝息を立てている二人は、よっぽど疲れたのだろう。

 ユニコーンは一体何に疲れたのだというツッコミもあるがな。


 サマリたちも寝ているのだろうか。この世にいるはずのない妹。生き返っているとは考えにくい。

 だが、あの仕草は推測ではサマリの妹そのものなのだろう。不審な点はなんら見られなかった。

 逆に不審なのはサマリの方だ。記憶を取り戻してから、彼女の様子がおかしすぎる。

 まるで何かに怯えているようにも見え、自分に対して罪の意識があるようにも思える。

 あんなに天真爛漫だった彼女をあそこまでに変えた……生まれた村の全滅。

 俺の村も力が弱ければ、サマリの村のようになっていたんだ。

 そう考えると、他人事ではない。今は拮抗している状況も、ある日突然変わるかもしれないんだ。

 その時が来たら、俺はなりふり構わず村へと帰るだろう。もちろん、アリーを連れて。


「……本当に寝苦しい夜だ」


 少し、夜風にあたってこようか。とりあえず、今日は大丈夫だろう。ユニコーンは本当に眠っている。

 そう判断して、俺はユニコーンとアリーが寝ている側から離れて、外へ出て、少し歩くことにした。


 明かりがないことから、夜中に外へ出る人間はそうそういない。いるとしたら、魔法を使えるものか、光をお金で買っている人間だろう。

 案外、夜中に出歩くというのも悪くはない。危険性をかえりみなければ、これほど心を落ち着かせてくれるものはない。

 人のいないところで、何も考えずに歩く。そして、いつの間にか心がすっきりする。夜中には、こんな魔法のような力がある。

 だが、それでも夜中に出る人はいないはずだ。安息を与えてくれる漆黒の暗闇は、いつ自分に牙を向けてくるか分からない。

 力のない人間が外に出てしまえば、たちまち通り魔の犠牲になってしまう。

 もちろん俺だって例外ではない。ちゃんと身を守るための剣を装備している。そして、それを使うタイミングも出てきたようだしな。


「……後ろ、二人か」


 盗賊か? それともならず者? 殺気を発しているから、そのどちらかだろう。

 まったく、国のど真ん中で何をしているのやら……。俺が懲らしめてやらないとな。

 音の出ないようにゆっくりと剣を引き抜き、近づいてくるのを待つ。後ろの奴らが大きな動きをした瞬間、剣で切断するというのが俺の作戦だ。

 一歩ずつ、時間をかけて確実に後ろから近づいてくる。後はタイミングの問題だ。

 ……しかし、ゆっくりすぎないだろうか。

 いくら暗闇と言えど、こんなにゆったりとした歩き方をするだろうか。

 それに、後ろの歩く音もおかしい。足を引きずっているような、そんな音がするのだ。


「――そこっ!」


 俺を襲ってくるのなら容赦はいらない。即座に後ろを振り向き、視界に映る景色を剣で薙ぎ払った。


「……何?」


 そこで俺が見た光景。それは、死んだ人間だった。今、俺が殺したわけじゃない。後ろから近づいていた人間はすでに『死んで』いたのだ。

 その証拠が、剣で切断した頭だ。首と頭が離れたということは、鮮血が吹き荒れるはず。しかし、今の人間は血の一滴も出していない。

 さらに、頭が無くなったにも関わらず、体は依然として俺に向かってきている。


「くっ!」


 追撃として、俺は胴体を切断する。やはり、胴体を切り離されても、血は出なかった。


「どうなってるんだ……!? まさか、あのうわさ話は本当なのか……!」


 単なるうわさ話ではない。そこには真実が隠されている。

 さすがに胴体を切断された人間は、歩みを止めて地面に落ちた。

 だが、まだもう一人残っている。

 よく顔を見てみると、両目が明後日の方向を向いている。そして、知性の欠片も見られない呆けた表情。

 自考を止めている。俺はそう理解した。


「すでに死んでいるなら、何やっても問題ないな……!」


 さっさとケリをつけるべく、俺は人間の脳天から剣を叩き落とした。

 その勢いで股の方まで切り落とす。すると、人間はキレイな真っ二つになってそれぞれ地面に倒れた。


「蘇った死人……本当にいるとはな……」


「わー、おにーちゃんって本当に強いんだねー!」


「――誰だ!?」


「今日会ったのに忘れちゃったのー?」


 サマリに似た脳天気な声が辺りに響き渡る。人がいればざわめくだろうが、あいにく今の時間帯では木々くらいしかざわめいてくれない。

 声の主の位置を把握しようにも、反響していて掴みづらい。

 だが、声の主の正体は分かっているつもりだ。……サマリの妹だということに。

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