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サマリとユニコーン

 三人でトボトボと歩いて行く。一応、目指している先は下着を売っているお店だが、俺たちの足取り……いや、アリーの足取りは重い。

 今まで、自分だけの姉だと思いこんでいた彼女にとって、本物の妹――リノ――の出現はショックが大きいだろう。

 リノちゃん自体が悪いわけじゃない。問題の根幹はサマリが今まで黙ってたことだ。

 沈黙の中で歩いているが、時折その雰囲気を覆したく俺はアリーに話しかける。

 一応、普段と変わらない体を装っている彼女だが、ショックな様子が見て取れて痛々しく感じられる。


「……お、着いたか」


 俺の言葉で、アリーは立ち止まる。そこには可愛らしい下着がキレイに陳列されてあるお店がある。

 店の様子も悪くなさそうで、気軽にお買い物ができそうだ。……俺が入ったらひんしゅく者だけどな。

 アリーはそれなりに窓から見える商品に目を泳がせているようだが、あまり乗り気でない。


「アリー……今日は止めようか?」


「……ううん、ちゃんと買うよ。けーくんに連れてってもらったのもあるし」


「でも、あまり元気がないからさ」


「分かってるんだ。頭では。でも、何ていうのかな……やっぱりびっくりして……ちょっと悲しいの」


 彼女なりに言葉を選んでいるのだろう。出来るだけサマリに対して失礼な言い方をしないように気をつけている。

 ちゃんとアリーはサマリのことを考えているのに……あいつときたら。


「……でも、こんな調子じゃああまり選べないかも」


「そっか。じゃあ、止める?」


「……うん」


「えー? 止めるのー?」


 ユニコーンが空気を読まずに俺たちに話しかける。

 君ね、もう少し状況を考えてほしいものだよ。


「せっかくのお買い物だし、もっと楽しんだ方がいいのー」


「そのお買い物が楽しめないから問題なんだろうが」


「私は楽しいの。出来れば、ケイくんと一緒にお買い物したいのー」


「何で俺と買い物するんだよ!」


「だってだって、ケイくんとたくさんお話をしたいからー」


 そう言って、ユニコーンはちらりと俺を見た。その瞳は真剣なものだ。

 いつものおっとりとした雰囲気じゃない。もっと鋭い重要なことを伝えていた。

 ……何かあるのか? そう言えば、さっきサマリのところで変なことを聞いてたなこいつは。

 ……いいだろう。少しだけ付き合ってやる。だが、アリーはどうしよう。

 その心配を他所に、ユニコーンはアリーに近づいた。


「アリー。私の目を見るの」


「催眠術をかけるの?」


「催眠術ってほどじゃないのー。ちょっとした精神安定薬ってところなの」


「……ユニちゃん」


「大丈夫なの、アリー。買い物をする時だけ、アリーの精神は落ち着きを取り戻すから……。だから、安心して買い物をしていいの」


 ユニコーンと目を合わせるアリー。すると、彼女の表情が少しだけ元に戻った。

 なるほど、催眠術を有効に使って気持ちの整理を先にさせたってわけか。


「……ありがとうユニちゃん。ちょっと気が楽になったよ」


「それは良かったの。じゃあ、買い物をするの」


「うん。けーくんとユニちゃん。ちょっと待っててね」


「時間かけてゆっくり選んでこい。お金は俺が出すからさ」


「……うん!」


 サマリに会う前と同じような笑顔を取り戻したアリーは、意気揚々とお店の中へと入っていった。

 その様子を見ながら、ユニコーンはパチパチと手を叩いている。

 ……こいつ、本当に敵意がないのか?


「良かったのー。アリーが元通りになって」


「そういう使い方もあるんだな」


「意外だと思ったのー? でも、買い物から帰ってきたらちゃんと叩いてあげてほしいの」


「……そうだな。気持ちの整理は自分で決着をつけた方がいい。……で、だ。俺に何か話があるのか?」


「立ち話も難だし、向かいのお店でお茶するの」


「いいだろう」


 ユニコーンに従って、俺は下着が売ってるお店の真向かいにある喫茶店へ向かう。

 中には入らず、表で展開しているテーブルに決める。ここならアリーが買い物が終わったことが一発で分かるからな。

 ユニコーンは特に異論はないのか、俺が指定したテーブルの近くにある椅子に座り込んだ。

 俺もすぐに座り込んで、注文を待つ。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「ああ。えーっと……ステルティー二つで」


 メニュー表に書いてある適当なものを選び、店員に伝える。

 店員はそれをメモし、すぐに中へと入っていく。おそらくものの数分でお茶が出て来るのだろう。

 ……というか、国の名前のお茶なのか。これ。この世の中には、様々な種類のお茶があるらしいが、この国ではお茶の栽培が難しい気候らしい。だから輸入しているところもあるそうだが、値が張るとのうわさ。

 そんな国の名前が付いたお茶だから、味はあまり期待できそうにないが、まあ、今はユニコーンと話す時の暇つぶしくらいでいいからな。値段も安価だし、問題ないだろう。


「……で、話って何だ?」


「あのサマリって人のことなの」


「ああ。あいつか……それが何か?」


「私ね、前に会ったことがある気がするのー」


「……本当か?」


「私は嘘は言わないのー」


「『アリーに手を出さない』というのがそもそも嘘だと思うんだが」


「えー? アリーには手を出してないのー。ただ見つめているだけなのー」


「へりくつなヤツだ」


 呆れているところに、店員がお茶を持ってくる。

 カップに注がれているお茶。何というか、色が薄い。味もほぼ水のような感じだ。

 ……しょうがないのかなあ。もっと、頑張ってほしいものだけど。


「……いつ頃に会ったんだ?」


「それが上手く思い出せないけど……多分結構前だと思うの。数年前……かなー」


「数年前?」


 あれ? あいつがこの国のギルドに配属になったのはいつごろだった?

 確か……最初に会った時に三年がどうとか言ってたような気が……。五年だったか?

 まあ、数年の内に入るか。


「それって……サマリがギルドに所属した時と同じくらい、だろうな。というか、どこで見たんだよ」


「えっとー、確かマスターに頼まれたのー」


「ユリナ隊長から頼まれた? 何を」


「……記憶の改ざん」


「改ざん? 何でそんなことを……!」


 あいつの記憶を改ざんだって? 一体何があったんだよ……!

 ユニコーンは考えているが、命令以外のことは知らされてはいないらしい。少し苦笑いをしつつ、言葉を続けた。


「マスターから受けた命令はねー『サマリは村から選ばれて国にやって来た。村での楽しかった記憶を胸に秘めながらも、自分が護衛隊に選抜されるまでは決して村に帰らない意思を持つ』って感じだったのー」


「村に帰らない? ……何かありそうだな」


「確かになの。村に帰らせたくない何かがありそーなの」


「サマリ……」


「……あ」


「何だ?」


「もしかして、ケイくんが原因かもしれないの」


「俺が?」


「私の角は私の力の源だということは分かっていると思うの」


「ああ。俺はお前に勝つためにそれを圧し折ったはずだ」


「そう、そこなの。そのせいで、私の力が弱まってしまったの」


「……つまり、サマリに掛けてた催眠が角が折れた影響で解けた。こういうことでいいのか?」


 俺が答えを示すと、ユニコーンは黙って頷いた。そして、更に彼女は条件を付け足す。


「あと、サマリに何か大きなショックが起こらなかったのー?」


「ショック? 度合いにもよるな。例えば?」


「大怪我をしたり、死に至るようなこととかー」


「……大ありだ。サマリは実際、アリーを救うために二度死にかけている」


「ユニコーンの催眠術は、基本的に大きなショックが加わると解けやすくなってしまうのー。あの角があれば普通の怪我程度では解けないけど、さすがに死ぬような怪我になっては話は別なのー」


「そう言えば、あの後から様子が少しだけ変だったな。何か、達観としたような感じがあった」


「多分、記憶が戻ってしまったからなの……」


「……よし、サマリがおかしくなった理由は大体分かった。後は彼女の過去を調べてみる必要があるってところだな」


 一体、サマリは過去に何があったのだろうか。俺の知らない彼女の姿が、今は表面化しているというのか。

 彼女の過去に思いを馳せながら、俺はカップに入っているステルティーを全て飲み干したのだった。

 さて、お金を払わないとな。俺は店員を呼びつけ、頼んだステルティー二杯分の銀貨を手渡す。

 アリーのお買い物は進んでいるのだろうか。もし買い終わってたら待たせてることになるけど。

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