『妹』の存在
「謝る必要ないって。別にアリーは責めてるわけじゃないんだ」
アリーも必死に頷いて肯定している。
「そ……そうだよね! アリーちゃんは私を責めないよね!」
「ねえねえサマリさん。聞きたいことがあるのー」
「ユニちゃん、今はちょっと……」
アリーの静止も聞かず、ユニコーンは真剣な表情でサマリを見上げた。
「サマリさん。私、あなたと会ったことあったかなー?」
「え……?」
「どうなのー? そういう記憶あるのー?」
「……ごめん。分からない。会ったこと、ないと思うよ」
「そっかー……変なことを聞いてごめんなのー」
それだけを言うと、アリーは俺たちから離れていった。もう用がないとでも言いたげだ。
だけど、俺たちにはまだあるんだ。サマリを元気づけるためにも、今日は一緒に店に行く。
再度の説得を試みようとしたが、サマリの後方より新たな声が聞こえてきた。
「おねーちゃん! ごはんまだぁー?」
「……え?」
「あ……もうちょっとだけ待ってリノ!!」
「お腹空いたー」
「サマリ……お前、妹がいたのか?」
「あ……アハハ。バレちゃった。びっくりした?」
「そりゃあな。アリーのことを妹のように可愛がってたから、てっきり妹なんていないのかと……」
「ごめんね後輩くん。実は私、妹がいたんだ」
「サマリお姉ちゃん……じゃあ、その妹さんのお世話で忙しいから……?」
「そ、そういうことになるね……ごめんねアリーちゃん……」
「……う、ううん! 私はだいじょーぶ! ちゃんと妹さんのこと、大切にしてね……!」
即座にアリーはサマリに背を向けて、走り去っていった。
心が読めなくても分かる。彼女は泣いていた。ただ、サマリに泣き顔を見せたくなかったから走ってったんだ。
「サマリ……。アリーはな、お前のことを本当のお姉さんのように慕ってたんだぞ。なのに……お前のその態度はなんだよ?」
「後輩くん……」
「まるで妹なんていないって風に装って、そしてアリーに近づいて……。いるなら最初からそう言え! アリー……傷ついてたぞ」
「……分かってるよ。だから……だから会いたくなかったのに」
「――お前なあ!」
「……黙ってたことは謝るよ。ごめんなさい」
「その言葉は俺に向けるものじゃない。アリーに向けるんだ」
「……じゃあ、後輩くんから伝えておいて」
「俺が言ってもどうとでも解釈されるだろ! アリーはお前の口から聞きたいんだよ!」
「ごめん……本当に、ごめん……」
「……もういい。お前はもう少し、賢いと思ってたんだけどな。結局はただの能天気だったってわけか」
力任せにドアを閉めようとドアノブに手をかける。しかし、その時にサマリの妹がサマリの後ろからひょっこり姿を表した。
多分、俺たちの話が長いから辛抱できなくなったのだろう。お腹が空いたとも言ってたしな。
「ねえーおねーちゃん。早く作ってよー!」
「ごめんねリノ。あと少しで終わるから」
「……? おにーちゃん誰?」
「……ケイって言うんだ。一応、君のお姉さんの後輩ってことになってる」
「よろしくお願いします」
そう言って、リノというサマリの妹は俺に手を差し伸べる。
礼儀正しい女の子だと思う。ただ、アリーの表情を見た後だとリノちゃんの存在が少し複雑になってしまうが……。そもそも、サマリが今まで黙ってたのが悪いんだよ。
俺は出来るだけ紳士に対応するべく、笑顔を作って彼女と握手を交わした。
「ああ。よろしくな、リノちゃん」
「えへへ、おにーちゃんの手って結構大きいね」
「そうか? まあ、いつもモンスターと戦ってるからかな?」
「へー! じゃあ、おにーちゃんは強いの!?」
「……強いよ。俺は」
さて、会話はこれくらいにしておこう。もうサマリと話す必要はない。あいつの方から俺たちを拒んでいるんだからな。
だが、最後に伝えたいことがある。それだけは言っておきたい。
「サマリ……」
「な、何?」
「……アリーにはちゃんと説明しろ。あの子の気持ちを蔑ろにしないでくれ」
「……努力はするよ」
「……じゃあな」
俺はリノの手前もあるため、俺は何とか冷静にドアを閉めることができた。だけど、あいつとは関わり合いになりたくない。
珍しく感情的になってしまっているが、アリーの気持ちを考えるとあいつの態度が許せなかった。もし、彼女に何か事情があったとしても、気持ちの整理が出来ていない今じゃ同情ができないだろうと思った。




