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サマリへの違和感

 翌日の朝、早速俺はアリーを連れてサマリの家へと向かった。

 サマリの家は、引っ越したところから少し離れた場所に位置している。そのため、今の雰囲気だと会える頻度がもっと減るかもしれない。

 だが、俺が最初に抱いた彼女の雰囲気では、そういう事情はお構いなしにアリーに会いに来そうな感じだった。それが、崩れつつある。

 これが彼女の心境の変化なのかどうかはまだ分かっていないが、あの事件の前後に彼女に何かがあったことは事実だろう。元気がなくなったのも、同じ時期だ。


 サマリ一人にしては広いだろうという家の前に立ち、俺は大きく深呼吸をした。

 何故か、そうしたくなったんだ。


「ケイくんケイくん。ここがサマリって人の家なのー?」


「ああ……ってお前もついて来たのか。ユニコーン」


「家の中に居ても暇なの。だからケイくんとアリーに付き合うことに決めたの」


「勝手にしろ」


「勝手にするのー」


「けーくん。サマリお姉ちゃん、来てくれるかな?」


「まあ、頼んでみないことには分からないさ。じゃあ、呼び鈴鳴らすぞ」


「うん」


 玄関に備え付けられている呼び鈴を鳴らす。俺が鳴らした鈴はサマリの家の中にリンリンと鳴り響いているようだ。

 外からちょっとだけ聞こえてくるが、この程度だと家の中は相当うるさそうではある。

 ここまで騒音を立てて、居留守を使うことはないだろう。俺たちはサマリを待つ。

 パタパタと玄関に近づいてくる足音。よし、とりあえず家にはいるようだな。


「はい……って後輩くん」


「アリーもいるぞ」


「アリーも?」


「おはよう、サマリお姉ちゃん!」


「あ……おはよう、アリーちゃん」


 元気よく挨拶を交わしたアリーとは対象的に、サマリは控えめに微笑んでアリーに手を振った。

 これじゃまるで最初と立場が入れ替わったみたいだ。最初はサマリが空気を読まないくらい元気なのをアリーが冷ややかな眼差しで見てたのに……。

 サマリは少し迷惑そうな表情を浮かべた後、俺に話しかけた。


「な、何か用でもあるの?」


「ああ。実は……ちょっといいか?」


「何?」


 言うのも恥ずかしいので、俺はサマリの耳元に近づく。

 そして、そっと囁くのだった。


「アリーが下着を欲しいと言っててな。俺じゃ分からないから付き合ってほしいんだよ」


「下着か……いいね、それ」


「お、一緒についてってくれるのか?」


「……でも、ごめん。今日はちょっと忙しくて……」


「……忙しい?」


「うん。ちょっと、ね」


「本当か?」


「本当だよ。私が嘘を言うわけないじゃん」


「何か、隠してないか? 俺たちに」


「……隠してないよ」


 その会話中、彼女は俺と目を合わせようともしない。

 本心を探られたくないのか、はたまた他の事情があるのか……。

 サマリを連れて行こう作戦も失敗かと思われたその時、アリーが悲痛な言葉を言い放った。


「ねえサマリお姉ちゃん……! 私、あの事件のこと全然気にしてないよ」


「え……?」


「お姉ちゃんは、私をちゃんと守ることができなかったって思ってるんだよね? でも、私感謝してるんだよ。サマリお姉ちゃんのおかげで、私は剣で斬られることがなかったんだから」


「それは……守った内には入らないんだよ」


「お姉ちゃん……。寂しいよ、お姉ちゃん。私、またお姉ちゃんと遊びたいよ……」


「アリー……」


 幼い彼女の本心にさすがのサマリも心を痛めているのか、彼女にだけは目を合わせている。

 ここは俺からも後押しをしてみるか。もしかしたら、心が変わるかもしれない。


「なあサマリ。まだアリーにはサマリが必要なんだよ。それは分かってあげてくれ」


「……うん。分かってないわけじゃないんだ」


「ならどうして……。アリーは君の妹になるために生まれたって言ってたじゃないか」


「ねえねえ、あなたがサマリって人なのー?」


 横からユニコーンが口を挟む。君は今までの会話で、どう解釈したらサマリじゃないって結論に行き着くんだい?

 何故か、ユニコーンは興味津々にサマリの顔を見つめている。何だ? どうしたんだ?


 今までに見かけない人物から声をかけられたため、サマリは少し驚きながらユニコーンを見た。


「え? うん、そうだけど……あなたは?」


「私ー? 私はユニコ――むぐっ」


「ユ、ユニちゃん! 私のお友達のユニちゃんなんだよ!!」


 事態がややこしくなることを防ぐためか、アリーがユニコーンの口を塞いでごまかした。

 まあ、ユニコーン人間態の名前としては間違っていないからごまかすってのは違うか。


 特に気にも留めなかったサマリは、彼女の名前を『ユニちゃん』だと認識したようだ。


「そっか。ユニちゃんか。お友達が増えたんだね」


「そ、そうなの! サマリお姉ちゃんが構ってくれないからお友達作っちゃったんだよー!」


「……ごめん。アリーちゃん。やっぱり私……お姉ちゃん失格なんだね」


「あっ……」


 しまった。そんな感じの顔が、アリーから見て取れた。

 取り繕うとしたせいで、新たなほころびを生んでしまった。ここは俺がフォローしないと……!

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