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※引っ越しと恐い噂

「ふうー……」


 けーくんが見つけてくれた家にやっと到着して、私は大きく安堵した。

 良かったー、何も起こらなくて。けーくんは何も気にしてないようだけど、私はすっごく心配だったんだから。

 けーくんが鍵を使って玄関のドアを開け放つ。錆びてない新品同様の玄関のドアは私たちを受け入れてくれる。

 両手に荷物を持っているけーくんを先に入れるために、私は率先して半自動的に閉まろうとするドアを抑える役目を担う。


「お、ありがとうな、アリー」


「どういたしまして、けーくん」


 けーくんに誉められて嬉しい。でも、もっともっと誉めてもらえるように頑張らなくちゃ。

 学校に行ってるんだもん。あなたの力に、私はなりたい。

 けーくんが中に入った後、続けてもう一人入ろうとして私に目を合わせた。あっ! あまり目を合わせないようにしなきゃダメなのに!

 ユニちゃんの瞳に魅入られないように、私は必死に首を動かして彼女と目を合わせないようにした。


「ありがとなのー。アリー」


「……ユニちゃん。あなたもちゃんと荷物を持ってよ。私とけーくんしか荷物持ってないんだよ?」


「だってだって、持つ荷物がないのー。二人入れば十分な荷物の量ということだよー」


「ま、まあ……一理あるけど……」


「それよりアリー。どうして私と目を合わせてくれないのー?」


「当たり前じゃない。あなたと目を合わせたら催眠術にかかっちゃうんだから……」


「でも、ちゃんと強い人ならかからないのー。現に、ケイくんには効き目はなかったの」


「へー、さすがはけーくんだね!」


「だから、アリーも特訓すれば催眠にかからなくなると思うのー」


「それとこれとは話は別! 自分の知らないうちに勝手な行動をしてるなんて……そんなの嫌」


「記憶は少し残るから安心してほしいの」


「むしろ、もっと嫌だよ!」


「アリーはわがままなのー」


「今はわがままでいいよ……もう……」


「本当にー?」


「え?」


「わがままだったら、もしかしたらケイくんに捨てられるかもしれないのー?」


「そんなこと……」


 ちょっとだけ不安になって、思わず私はユニちゃんに目を合わせてしまった。

 あ、しまった。これは罠だった。


「……はぅぅ……また……変に……」


「アリー、今からケイくんにわがままな姿を見せにいくの」


「……わがまま……」


「ほら、荷物は私が持つの」


「……ん」


 そうだ。ユニちゃんの言う通り。けーくんに見せるんだ。私のわがままを。

 私は荷物をユニちゃんに預けて、すぐに家の中へと入る。そして、けーくんの姿を探した。

 けーくんは荷物を紐解いている最中だ。でも今の私にはそんなことは関係ないもん。何だか分からない無敵感が、私の心の中にあるんだから!


「……けーくん」


「ん? アリーか。どうした?」


「ねえ、お願い……聞いてくれる」


「アリー? お前、また催眠にかかってないか?」


 お構いなしに、私はけーくんの背中にピタッと張り付く。

 そして、自分の感情を吐き出した。


「私ね……新しい下着が欲しいの」


「ブッ!」


「お願いけーくん……学校にも通うから……出来れば心機一転してみたいなって思って……」


「ゴホッゴホッ!」


「けーくん……」


「アリー! お前、やっぱり操られてるなっ!?」


 けーくんは私に向かって、紙を丸めた物で頭を叩いた……。

 ……ってえぇ!? わ、私また操られてた!? し、しかもすっごく恥ずかしいことを言ってしまったような気が……。


 私の洗脳が解けたと同時に、ユニちゃんがひょこっと私たちの前に姿を表した。


「わーい、成功なのー」


「……ユニコーン。貴様、再度アリーを洗脳して何が目的なんだ」


「私の言ってたこと、やっぱりアリーも感じてたの。それの証明したかっただけなの」


「証明? あの時のか……!」


「ほらー、ちゃんと買ってあげないとアリーが沈んじゃうよー」


「……ったく。アリー、本当に下着欲しいのか?」


「え!?」


 私、そんなに恥ずかしいことを言ってしまったの!? しかもけーくんに!

 はわわっ! ま、まずいよこれは! 慌てふためく私をジッと見ているけーくん。ここは……正直に言った方がいいのかな……。

 私は、顔を赤らめながら、本当のことをけーくんに話した。


「……う、うん。ちょっと、種類が少ないなと思って……。あ、で、でも! 一人で買いに行く勇気もなくて……。本当はサマリお姉ちゃんと行きたかったんだけど、最近のサマリお姉ちゃん……頼みづらくて……」


「そうか、そうだったんだな。いや、悪かったアリー。お前の気持ちを分かってあげられなくて」


「けーくん……」


「明日、俺と一緒にサマリのところに行こう。アリーが頼みづらいなら、俺から言ってみるよ」


「うん。ありがとう、けーくん」


「パチパチパチなの。二人の心が通じ合って何よりなのー」


「……ユニコーン。今度こそ、俺は怒るぞ」


「あ……やっぱりダメなのー?」


「当たり前だ!!」


「逃げるが勝ちなのー」


「あ、待てユニコーン!」


 ほのぼのとしているユニちゃんでもさすがに危険な匂いを嗅ぎつけたのかもしれない。

 すぐさま玄関の方へと走っていく。そのユニちゃんにお仕置きをするべく、けーくんも荷物の整理を中断してユニちゃんを追っていく。


「ふぅ……」


 今度はユニちゃんに対して呆れたため息。

 もう、どうして私に催眠術をかけるのかな。そんなに私が催眠にかかるのが面白いのかな。それとも、けーくんとの仲を良くするために?

 いずれにしても、分からないよ。


「……な……ぅ……!」


「……ば……え…………!!」


 遠くで二人の声が聞こえる。なんて言ってるのかは全然分からないけど。

 荷物運びに疲れた私は広い部屋の真ん中で座り込んで休むことにした。

 体力には自信があったんだけど、精神的に疲れたってのが私的には多かったかな。

 だって、ホテルを出る直前、大家さんが怖い声でこんなうわさを呟いたから。

 最近、死人が夜の街を出歩いているといううわさがあるらしい。そして、その姿を見かけた者を始末しているとのこと。

 うう、怖すぎるよ……。死人が生き返るなんてこと知ったら、もう夜の街を出歩けないよ……。

 ただ、大家さんが言うには、さすがに同じ報告が多いことから、ギルドを含めた護衛隊は調査を近々開始するとも言ってた。

 良かった。護衛隊ならけーくんがいるから。けーくんがいれば、きっとすぐに解決するよね。


「……ったく、馬だから足は早いんだよなあいつ」


 追いかけっこを終えてけーくんが帰ってくる。息を切らして再び荷物の整理を始めていく。

 私は、うわさの真相を確かめることにした。


「ねえけーくん」


「どうした?」


「……大家さんが言ってたあのこと、ホントかな?」


「死人のことか?」


「うん」


「気にする必要ないさ。死人は死人だ。生き返るなんてありえない」


「そうだよね……」


「もしかして、気になってる?」


「ちょ、ちょっとは……」


「アリーは怖がりなんだな。初めて知ったよ」


「へ、変なことしないでね?」


「俺が? そんなことしないよ。アリーを怖がらせることなんて、絶対にしない」


「えへへ、ありがとうけーくん。やっぱり、けーくん大好き」


 休んでいた体を起こして、私はけーくんに近寄る。

 まだまだ開けてない荷物はいっぱいあるんだから、私がお手伝いしなきゃ。

 その後、私はけーくんと仲良く荷物を解いてそれぞれの部屋へと配置していくのでした。

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