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ユニコーンの瞳

「ねえけーくん。あの子は誰?」


「あれはユニコーン。モンスターだ。何故か俺とアリーに着いていきたいとせがんでいてな」


「え? モンスター?」


 俺の言葉に警戒心を露わにするアリー。

 だが、当の本人は自身が警戒されていることに気づかずベッドで眠りこけている。アリーという女の子が一人増えたのに、彼女は目を覚ます気配がないのだ。


「だが、とりあえず安心していい。あいつの力の源である角は俺が折ってる」


「そうなんだ……。さすがはけーくんだね!」


「おい、起きろ。そろそろ出発すっぞ」


 俺は近くにあった長方形の紙を丸めてポンッとユニコーンの頭を叩く。

 さすがに目覚めたようで、彼女は大きな欠伸をしながらベッドより起き上がった。


「ふぁー……あ、おはようなの」


「ねえ、あなた……本当にモンスターなの?」


 アリーが疑問を持つのも無理はない。どう見たって、今は人間の女の子だ。しかも絶世の美少女。


「じゃあ、見せてあげるよー」


 ユニコーンの姿へと戻る彼女。それにあんぐりと口を開けて驚いているアリー。

 多分、俺もこんな感じで呆然としてたんだろう。ああ、誰も見てなくて良かった……。


「け、けーくん……モンスターって、人間にもなれるんだね」


「あのユニコーンが特別ってだけだよ。本来は人間にはならないさ」


「そうなの。私はユニコーンだから特別なの」


「あ、あなたがホントにモンスターだってことは分かったよ。でも……だからこそ……怖い」


「怖いー?」


「怖いに決まってるよ……。だって、モンスターは……みんなの命を奪っていくんだもん」


「大丈夫だよアリー。私の目をジッと見るのー」


「……目?」


「そう……ゆっくりと見つめるの」


「あ……はぅ……」


 見つめ合う二人。傍から見たら何の変哲もない光景だが……。俺は違和感を覚えた。

 アリーの雰囲気が一瞬を堺にして変わったような気がするのだ。まるで、気が抜けてしまったような……。

 数秒間の沈黙の後、アリーは突如としてユニコーンに抱きついた。


「……ユニコーンちゃん大好き!!」


「アリー、モンスターは怖くないのー?」


「全然怖くないよー。ユニコーンちゃんは私の大事な友だちだから!」


「嬉しいー。もう親友なのー」


「うん! ユニコーンちゃんは私の親友! 大切な、親友!! そだ! ずっとユニコーンちゃんだと何か変だよね?」


「私は別に違和感はないよー?」


「親友だもん! 私が名前を付けてあげる! そーだなー。ユニコーンだから『ユニ』ちゃん! えへへ、可愛いと思わない?」


「『ユニちゃん』か……嬉しいの。ありがとう、アリー」


「どーいたしまして!」


 ……これは、操られている。やられた。こいつはアリーを洗脳して自分の配下に置くつもりなんだ!

 そういえばこいつ、最初は俺のことをジッと見てたな。もしかして、俺にも洗脳を仕掛けようとしてたのか!?

 俺はすぐさま剣を引き抜き、ユニコーンに向かって剣を突きつけた。


「ユニコーン……貴様は……!!」


「あ、怒らないでほしいの! 軽いショックを与えればすぐに目を覚ますのー。さっき私を起こしたやつを使えば一発だよー」


「何?」


 剣を突きつけられたユニコーンは本当に焦っていた。その様子から出た言葉だ。恐らく本当のことだろう。

 俺は警戒心を解かずに丸めた紙をアリーに近づけていく。彼女は未だにユニコーンのことを大好きだと勘違いしている。頬ずりまでしている。


「えへへー、ユニちゃーん……」


「目を覚ませ、アリー」


 ポカッと軽快な音が鳴り響く。それは俺がアリーの頭を丸めた紙で叩いたからだ。

 すると、ユニコーンの言う通り、アリーはハッとして目を覚ました。


「あ……あれ? 私……」


「アリー、君はユニコーンによって操られていたんだ」


「え? え? 私が?」


「ああ。ユニコーンには近づかない方がいい……。俺がすぐに追い出してやる」


「……まあ、しょうがないの」


 俺が言わなくても、ユニコーンは自らドアへと近づいていく。

 出会ってから初めて、彼女は心の中を見せてくれた。彼女の顔は明らかに悲しそうにしていたからだ。

 少し可愛そうな気もするが、催眠術を使えるモンスターをアリーの側に置いておくわけにはいかない。

 だが、それにストップをかけたのは他ならないアリーだった。


「ねえ、けーくん……ちょっと待ってくれないかな?」


「アリー?」


「……この子、悪いことをするモンスターじゃないと思う。今のだって、私が怖い思いをしないようにって思っての行動かもしれないし……」


「まだ操られている……わけじゃないんだな」


「うん。モンスターが怖いのは本当だよ。だけど……良いモンスターとは仲良くしたいなって思って。サマリお姉ちゃんだって獣人族なんだから……」


「……分かったよ。もし、催眠術をかけられても、俺がすぐに目を覚ましてあげるから」


「ありがとう、けーくん」


「……いてもいいの?」


「アリーが良いって言ったんだ。感謝なら、彼女にするんだな」


「よろしくね、ユニちゃん」


「……アリーはどうして私を受け入れてくれたのー?」


「ユニちゃんには、私と同じ雰囲気があるなって思ったから。誰かに捨てられて、ずっと捕まってたのかなって……」


「アリー……」


「それに、けーくんは奴隷だった私を見捨てずに助けてくれた。同じことを、あなたにもさせてほしいの」


「アリー、それが過ちだって気づいてもかい?」


「うん。ちゃんと自分のしたことには責任を持つよ。つまづいても、絶対に起き上がるから」


「……それでこそ、だな」


 アリーはちゃんと俺の意思を継いでくれているじゃないか。

 もっと幼いと思ってたけど、ちゃんと成長している。学校に行くのだってそうだ。

 良かったと思った。このまま甘えきって俺に依存していたら、彼女の人生を縛ってしまったのではないかってずっと心配してたんだ。

 彼女の自立を促すのに、ユニコーンがいてもいいのかもしれない。またアリーに催眠術をかけて悪さをするなら、俺が目覚めさせてやればいい。

 今日一日のやり取りで、ユニコーンに敵意がないことは分かった。いたずら好きだが、ちゃんと善悪の区別はついている。

 俺も意を決するか。


「しょうがない。俺も覚悟を決めるか。ユニ、またアリーに悪さをしたら、次は怒るからな?」


「分かったのー。ケイくん、よろしくー」

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