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恐るべき? 少女の正体!

 彼女が紹介してくれた物件。それは俺の希望にかなり近いものだった。

 もし、甘えたアリーが学校まで付いてきてくれと頼まれた場合に対応するため、俺は昨日の深夜まで地図を食い入るように眺めていた。だから今の家から学校までの道のりは目を閉じるだけで思い返すことができる。

 それを比較しても、学校までの距離はかなり短縮されるはずだ。この家からなら、ちょっとした裏道を使うだけですぐに学校へ行けるはずだ。それは完全に地図を暗記した俺が言うんだから間違いない。

 家の広さも中々いい。一階建てだが俺とアリーが住むには二階はいらないだろう。玄関から見たところ、部屋が三部屋くらいだろうか。うむ、悪くないぞ。

 だが、こんなに条件のいい家が本当に売り物なのだろうか。

 家の玄関に立て掛けられた看板を見ると、ここが売家だというのが分かる。お金も結構かかるけど、まあ問題ない。


「……よし、ここにするよ」


「ありがとうなのー」


「ところで、君はここの家を売るような斡旋業者なのかい?」


「ううん、違うのー。ここは前から売家になってただけだからー」


「え? じゃあ、どうして俺に紹介してくれたんだい?」


「お兄さんにお話があるからー。その対価条件なの」


「対価条件? それは……」


 異様な雰囲気を彼女に感じて、俺は剣の柄を手で触る。いつでも引き抜くことができるように、そして、戦うことができるように。

 少女は首を傾げつつも、俺との会話を再開した。


「それはねー……ケイくんの命」


「――っ!」


「……と同じくらい大事な物を探してほしいのー」


「俺の命と同じくらい大事なもの? ってか待て。どうして君が俺の名前を知ってるんだ」


「だって……マスターの命に従って戦ったからー」


「戦った? マスターだと?」


 一瞬だけ沈黙を保ち、すぐに会話を始める。

 もしかして、今のが感情の切り替わりなのか? 傍から見てさっきと表情が変わらないが……。


「……マスターの名前はユリナ。私はユリナと契約してたユニコーンだよー」


「……ハァ!?」


「この間は戦ったけど、もうマスターが死んじゃったから敵意はないの。だから、大切なものを返してほしいのー……」


「い、いやいや! まずどっからどう見たらあのユニコーンなんだよ!」


「? スキルを使えば簡単だよー。ほらー」


 俺が知らないのが信じられないと言うような言葉を使った少女。

 その瞬間、彼女の体が光に包まれて、獣の姿へと変身した。それは俺があの時に戦ったユニコーンそのものだ。

 だって、ユニコーンの角がへし折られているのだから……。


 俺の表情に納得がいったのか、ユニコーンは人間の姿へと戻っていく。

 そして、控えめな笑顔を見せた。


「納得したー?」


「あ、ああ……にわかに信じがたいが……」


「じゃあじゃあ、返してー」


「ちょっと待ってくれ。悪いが、思い当たる物がない。俺は君から何を奪ったんだ?」


「むー……」


 彼女は作り上げた拳を頭上に移し、そこから空に向かって移動させた。

 ……あ。そういうことか。


「もしかして……あの角? 俺が折った角のことか?」


「あれがないとね、本当の力が出せないのー」


「そうなのか。じゃあ、そんな状態になってるのも、角がない影響なのか」


「そうなのー。だから返してー」


「返して……か」


 あの時のことを思い出す。確か、俺の手を犠牲にして、ユニコーンを縛り付けた後に圧し折ったはずだ。

 しかし、彼女には悪いがその後の角の行方は分からない。ユリナ隊長の説得に必死になってて、ユニコーンが倒れたことに安心しきっていたからな。

 ユニコーンは俺が角を出すことに期待しているようで、はやる心を抑えきれていない。


「早く早くー」


「……悪いがユニコーン。俺は持ってない」


「嘘だー。だって、あの場にいたのはケイくんとマスター、それに私だけなのー」


 ……ちょっと待て。俺は持っていたら返す気になっているが、それが正しい選択なのか?

 敵意はないと言っているが、それがどこまで本当なのかが分からない。モンスターの言うことだ。もしかしたら、角を返してもらった瞬間にあの力を発揮するかもしれない。

 こんな街中であの力を出されたら犠牲が出るに決まっている。……ここは持っていることにして、彼女の動向を探るのが懸命か。


「……ああ。確かに持ってるさ」


「やっぱりー」


「でも、返すわけにはいかないね。お前が本当のことを言っているとは限らないからな」


「戦わないってことなのー? それは本当だよー」


「一度戦った同士、信じることはできない」


「そっかー……。じゃあ、しばらく一緒にいるの。それで、私の本心を知ってほしいのー」


「……それは」


 もし、アリーを人質に取られたら、俺は戦えるだろうか。

 すでに彼女はただ匿っているだけでなく、家族のようなものになっている。そんなアリーに危害が及んだら……。


 俺の考えを読み取っているかのように、ユニコーンは言葉を繋いだ。


「アリーには危害を加えないの。信じてほしいのー」


 角さえなければ、ユニコーンの力はそれほどでもない。

 それは目の前の彼女を見れば分かる。それに、本当は角を持っていないんだ。万が一、彼女がアリーを人質にとっても何とかできる。

 ……よし、取引成功だ。彼女を目の前で監視できるという、俺にとっていい条件でもある。


「……分かった。その言葉を信じさせてもらう」

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