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※登校初日!

 朝が来た。いつもと同じように私に降り注ぐ光のカケラたち。

 一日の始まりは昨日とまったく同じだけど、今日の私は一味違う。……違う、と思う。


「うぅ……」


 けーくんという気持ちいい抱き枕にしがみついて、私は起きたことを実感した。

 まだまだ寝足りないって感じにまどろんでいる私の意識。まだけーくんの温もりを確かめていたい。

 けーくんに助けられてからというもの、私はずっと彼に甘えている。今までこうして甘えていられる人がいなかったのもあるけど、けーくんになら絶対に拒絶されないだろうという想いがあるのも確かだ。

 これからもずっとけーくんと一緒にいたい。だから、彼を守れるように私も強くなりたい。そのための勉強をするため、私は学校に行く決意を固めたんだ。


「でも……まだ眠い……」


 自分から、中々起きることができない。けーくんから早起きが得だと言われたのに、私はダメな子かもしれない。

 その時、けーくんが大きな伸びをしながら目覚めた。

 私も眠たい目をこすりながら、けーくんに視線を合わせる。


「やあ、おはようアリー」


「おはよーけーくん……」


 これで安心。私はけーくんを抱き直して再び目を閉じたのだった。

 気持ちいい温度という誘惑が、私を布団から出してくれない。もーしょうがないなあー。もうちょっとだけ、ここで寝てあげるよ。

 私のせいじゃないもん。この布団のせいなんだもん。


「おーい。アリー? 何をしているのかなー?」


「もうちょっとけーくんの側で寝かせてー」


「……学校初日から遅刻する気かい?」


「……うぅ」


「ほら、シャキッとする!」


「あぅぅ……」


 けーくんがベッドから立ち上がる。もちろん、けーくんに抱きついている私も自動的に外部の空気を体に浴びることになってしまう。

 私の体から温もりが消え去っていく。ああ……さよなら。また寝る時に会いたいな。

 けーくんは私を床に立たせて、ベッドから降りる。そして、朝食の準備を始めた。……と言っても、貯蔵しているパンを取り出すくらいなんだけど。


「先に着替えておけよ、アリー」


「あ、うん!」


 そうだ。今日から私は学生さん! だから制服を着なきゃいけないんだった。

 床でキレイに折りたたんである、学校から貰った制服を取って、私はまじまじと見つめた。

 白を基調とし、腕や首筋に紺色のラインがあるブラウスに、紺色のスカート。

 何度見ても可愛らしい制服だと思う。ちょっと、私に合うのかなって思っちゃう。

 先生が言うには、割りと普通のデザインだと言っていたけど、他のデザインを見たことのない私には何のことか全然分からないよ。

 とにかく着替えなくちゃ。私は窓に反射する自分の姿を鏡代わりにして、衣服を脱ぎ、着替えていく。けーくんから貰った髪留めも忘れない。ちゃんと髪を留めてくれていることを確認した。


「わー……」


 窓に映る新しい私の姿。これが私だなんて、一年前には考えられなかった。これもけーくんのおかげだ。

 私は彼に自分の姿をどう思ってくれるのか確かめるために、振り向いた。


「けーくん! ど、どうかな……?」


「ん? おお! それが学校へ行くときの正装なのか!」


「……似合ってる、よね?」


「当たり前だろ。とっても可愛いぞ」


「本当!?」


「嘘ついてどうするんだよ。ほら、パンを食べてさっさと学校に向かえ」


「うん!」


 けーくんから大好きなパンを受け取って、味の広がりを楽しむ。

 ああ、なんて幸せなんだろう。


「あれ? アリー、これ何だ? これも必要なんじゃないのか?」


「え? あ、それも着なきゃダメだった」


 もうパンを食べ終わっているけーくんが真っ黒の布を掲げる。

 そっか。それも忘れてた。確か首に掛けてリボンのようにするって先生が言ってた。

 先生が言うには、これはランクを表しているらしい。ランクって言うとけーくんが何故か嫌な顔をするんだけど、何でだろ?

 とにかく、この真っ黒のやつは一番ランクが低いとのこと。黒、白、黄、赤、青、紫って順番があるらしい。

 まあ、入学したてだからしょうがないよね。これからいっぱい勉強してランクを上げなきゃ。


 ずっとけーくんが持っているのも悪いから、私はパンを急いで口の中に含んだ後に彼から黒の布を受け取る。

 さて、これをリボンにするんだけど……問題はその方法だ。今までそんなおしゃれをしなかった私に、リボンを結ぶことはできない。

 けーくんを頼ろうかなと思った私は彼を見上げたけど、彼の表情は特に変わってはいないようだ。


「どうしたアリー? それを使うんだろ?」


「うん……でも、ね。結び方、分かんないの」


「……マジか? 参ったなー、俺も結び方知らないぞ」


「えーっと……確かね、ここをこーして……」


 先生と学校を回った時に見かけた学生さんたちの姿を思い起こして、再現をしてみる。

 確か、この布を首筋に回してたはず。ブラウスの襟の中に入れてたのかな?


「おお。何か見たことある姿になってきた」


「本当? じゃ、後少しかな?」


 自分の胸元を見ながら、リボンの形にしようと頑張る。

 だけど、中々形になれない。出来たとしても、曲がっていたり変な形になってたりと色々と残念な出来だ。


「けーくん……むずべない……」


「リボン……か……。うーむ……こういう時、サマリが入ればなあ」


「そうだね……」


「…………」


「ねえ、けーくん」


「何だ?」


「何で今、黙ってたの?」


「いや、そういうことを言ったら『話は聞かせて貰った! 私が手伝おう!』とか言ってそこの入り口を開けて出てくるかなーと……」


「そっかー……」


 あの事件以来、サマリお姉ちゃんに会う機会が減ったような気がする。

 サマリお姉ちゃんは、自分のせいで私を巻き込んでしまったと思っているのかもしれない。あの時だって、お姉ちゃんは全然悪くないのに私に謝ってた。

 サマリお姉ちゃんに会いづらい意識があるのかなーと思い、私は寂しくなる。私はけーくんと一緒にいたいけど、サマリお姉ちゃんとも一緒にいたいのに。

 そんな私の心境を汲み取ってくれたのか、けーくんはバツが悪そうに謝った。


「ごめんなアリー。ちょっと寂しい思いさせちゃったか?」


「ううん。けーくんは悪くないよ。もちろん、お姉ちゃんも」


「……いい子だな、アリーは」


「けーくんに助けてもらったからかな?」


「ありがとうな、アリー。さてと、そろそろ出発した方がいいと思うんだが……」


 そう言って、けーくんは私の胸元を見た。まだリボンが出来ていないことを気にかけてくれてるみたい。

 うーん、しょうがないからこのままの格好で学校に行こうかな。学校に着いたら先生に結び方を教えてもらわなくっちゃ。


「分かった! 行ってくるねけーくん!! リボンは先生に教えてもらうことにする!」


「おう、いってらっしゃい!」


 カバンを手に取り、私はドアを開け放つ。

 そして、けーくんに見送られながら学校へと向かったのだった。

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