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救出! 鎖に繋がれた少女

 俺は手助けしてくれないヴィクターたちに不信感を持ちながらも、盗賊の元へと走る。

 国の人間は冷たいのだろうか。どうして一緒に助けに行かないんだろう。

 ……いや、今はそんなことを考えている暇はない。俺一人の力でもあの子を助け出さないと。

 俺の足音に気がついた盗賊団は一斉に俺の方を振り向いた。

 どいつもこいつも、醜悪な表情をしている。何の理由もなく人を殺すことをためらわない人間ばかりだ。


「ん? 何だぁお前は」


「お前たち……その子を開放してやるんだ」


「その子? ああ、コイツのことか!」


 さっきは遠目だったから分からなかったけど、鎖に繋がれている少女は全身に傷を負っていた。

 どんな酷いことを今までにされてきたのだろう。……俺は許せない。

 盗賊は少女の栗色の髪の毛を強引に掴んで、彼女を嘲笑った。


「ハハハッ! コイツは俺たちの世話係ってやつだ! それに、正当な報酬で手に入れたモノだぜ? どーして開放する必要があるんだよ」


「彼女はモノじゃない。人間だろうが!」


「うるせぇよ。単なる正義感で俺たちに挑んできたわけじゃねえだろうなあ?」


「……戦うってことか?」


「そうともよ! 俺たちに勝てたらコイツを開放してやってもいいぜ! ま、この数に勝てるかどうか……だがな!」


「二十人……か」


「兄ちゃんも運が悪かったなあ! 俺たちはそこそこ人数の多い盗賊団なのさ!」


「……いや、楽勝だと思っただけだ」


「何?」


「……こいよ! 一人残らず蹴散らしてやる」


 一斉に俺に向かってくる盗賊団たち。しかし、俺には余裕だ。

 こんなの、かつてゴブリンが百体で襲い掛かってきた時に比べてみれば……!

 あの時は本当に死ぬかと思った。数の暴力というのは恐ろしいことを、初めて知った日でもある。


「おらあああ!!」


 数人の盗賊が勢い良くナイフを振り回す。

 でも、俺はすぐに回避してその盗賊たちを剣で切り刻んだ。

 その後は反射的に盗賊の攻撃に反応し、剣を振るっただけだった。


「……く、くそが!」


「どうだ? 残るはお前一人だぞ?」


「ア、アンタ一体何者だよ……!」


「俺はただの村人だ」


「村人!? そ、そうか! 通りで戦い慣れしてるはずだ……!」


「……今ならお前だけでも助けてやる。彼女を開放しろ」


「へっ。こんなやつ――」


 盗賊の動きが早くなる。あいつ、何かを思いついたのか?

 最後の盗賊が取った作戦とは、鎖に繋がれたあの少女を人質に取るものだった。

 少女の後ろに盗賊が隠れ、簡単に攻撃できないようにさせている。それに、少女の首筋には盗賊のナイフが……。


「どうだ!! これでも攻撃できるか!?」


「汚い手を使いやがって……!」


「コイツにも飽きてきたんだ。死んだって構わねぇ! でもな、お前だけは許さねぇぜ」


「……いや、手はあるか」


「さあ! 早く剣を捨てろ! さもなければコイツは死ぬぜ!」


「――そこっ!」


「なっ――!!」


 俺は剣を捨てるフリをして、即座に剣を盗賊に投げつけた。

 だが、ただ投げつけるだけだと少女を盾にするかもしれない。だから、俺はそこに工夫をこらした。

 俺が投げた先は大木だった。俺の計算では、特定の角度で反射させれば、盗賊の脳天に切っ先が突き刺さるはずだ。

 空中で回転していく剣。

 盗賊は、俺が明後日の方向に投げつけたことで口元を歪ませた。きっと、俺の武器が無くなったから勝利に持ち込める。そういう浅はかな考えなのだろう。

 しかし、盗賊の思惑は外れるのだ。

 

 「ははは……! 驚かせやがって……! 死ね――!?」

 

 大木の幹に当たる剣の柄。俺の推測通り、柄に当たったことで剣は大木に刺さらずに弾き返された。

 その先はもちろん、盗賊の脳天だ。俺に注意が向いている盗賊は後ろに迫ってくる危機など知る由もない。

 きっと彼の最後に感じた五感は、後ろで風を斬る音を聞いた聴覚だ。

 剣の切っ先は盗賊の後頭部に簡単に突き刺さり、直撃し、彼は一瞬のうちに意識を手放さざるを得なかった。

 その剣先が頭蓋骨を突き破り脳にまで到達したのだろう。意識なき盗賊は脳を弄られた影響なのか眼球が反応を始め、右目と左目の規則性のない動きをする。常人では決して不可能だろう。右と左の向き先が違うのは。

 死後硬直を防ぐため、俺はすぐに剣を引き抜くと、少女を抱えていた腕を切断し、彼女を解放した。

 突っ立てても邪魔なだけなので、俺は顎を突き出して舌を出している盗賊を蹴飛ばした。もうこいつのことはどうでもいいんだ。


「……大丈夫か?」


 俺は彼女の鎖を外して抱き起こす。

 少女はまだ怯えているようで、俺に視線を向けずにただうつむき、小さく頷いた。


「怖かったんだな……かわいそうに……。でも大丈夫だ。安心してくれ」


 俺は彼女を馬車まで連れて行くことにした。

 このまま放置しても、あの様子じゃ一人で生きていけないだろう。だったら、俺がある程度の責任を持たなければならない。

 彼女の心が回復するまで、世話をしなきゃな。

 少女を連れて来た時の、ヴィクターの目は驚きに満ちていた。


「本当に救ってきたのかよ……!」


「死ぬと思ってたか?」


「助けられずに帰ってくると思ってた。重症で」


「残念だったな。予想が外れて。……もしかして賭けてた?」


「……いや、満場一致だったから賭けようがない。ところでその女の子。もしかして……」


「どうした? 知り合いか?」


「……ケイ。そいつは奴隷だ。盗賊は奴隷を買っていたらしい」


「奴隷……なるほど、ね」


 こんな少女が奴隷になっている世界もあるのか……。

 彼女が生き残るための唯一の手段だったかもしれないが、飼い主が悪かったな。

 奴隷という職業に頼らなくても働けるように、俺が一肌脱くか。


「なあ、この子、一緒に連れて行くことはできないか?」


「え? ただの奴隷だぞ、そいつは」


「でも、このまま置いていけないだろ」


「まったく……。そっちから質問しておいて連れて行く気満々か。まあ、お前用の部屋は用意している。そこに居候させるなら問題はないだろう」


「そっか。ありがとう」


 居候か。今までは俺が先輩の家に居候してたけど、今度は目の前の彼女が俺の家に居候することになるのか。

 何とも因果な運命だ。

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