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ランクアップ!

 とりあえず、彼女の家に行くことにしよう。学校へ向かう時に寄ったけどいなかったのは、ちょうどよく彼女が用事で家にいなかったからかもしれないしな。

 そう思って、俺は学校から彼女の家への道のりを歩いていく。だが、彼女の家にたどり着く必要はないようだ。


「サマリ……」


「ハハ……や、やあ後輩くん」


 数分歩いたところで、俺はサマリに会うことができたのだから。

 彼女はやや固めな笑顔を携えて、俺へ手を振っていた。あっちは、数年ぶりに出会った友だちのような雰囲気だ。と言っても、たった数日なんだけどな。

 彼女が身にまとっているローブはどうやら新品のものらしい。まあ、今まで着てたやつは血だらけになっているだろうし、ギルドから支給されたのだろう。


「探したんだぞ。今までどこに行ってたんだよ」


「ちょっと自分を探しに――なんちゃって! 実は野暮用があって中々後輩くんに会えなかったんだよ!」


「ったく……心配させるなよな」


「寂しかった? やっと、お姉さんの魅力に気がついたのかなあ?」


 彼女のいつも通りの冗談に顔をほころばせつつ、俺はアリーのことを話すことにした。


「少しは……な」


「え? え!?」


「……会えなくて、沈んでた。やっぱり必要なんだと思う。サマリは」


「ほ……本当? や、やだー後輩くんったら大胆かつ繊細なところを狙ってきちゃってー! いいよ、今日だけは、後輩くんだけのサマリになってあげるから――」


「何言ってんだお前。アリーが寂しがってたって話だぞ」


「何!?」


「……勘違いか。ま、まあ安心しろ。サマリにだっていいお婿さんは必ずやって来るさ」


「……乙女の純情を返せぇー!!」


 恥ずかしい台詞を言ったのが効いたのか、彼女は顔を真っ赤にして俺に怒る。いつも変なことを喋ってるのに、恥を持ってたんだなこの子。

 ってこんなことをしてる暇はない。サマリに会ったのなら、アリーのことについて話しておかなければ!


「それより聞いて驚け。アリーが自分の意思で学校に行くことになった」


「後輩くんの女たらし――って、そう……なの?」


「本当はお前も連れてって嬉しさを分かち合いたかったんだがなあー。お前にも見せたかったぞ。学校に入れたアリー、本当に嬉しそうだったからな」


「そっか……良かった」


「あいつの笑顔に出来たのは、サマリのおかげでもあるんだ。ありがとうな」


「そんな。私なんてただあの子の傷を治しただけだよ。後輩くんのプレゼントが一番だよ」


「そっか? やっぱあのプレゼントが良かったか?」


 プレゼントを発見出来たのはユリナ隊長が店を教えてくれたからだ。

 あの時に俺がユリナ隊長に対して可愛いと言ったから、彼女は最後に救われたんだ。


「それにしても……さすがは私の妹だね……」


「え?」


「良かった……本当に……」


「おい、サマリ。言っとくがな、お前の妹じゃないんだぞ!」


「え……あ、わ、分かってるって! ちょっとしたジョークだよーだ!! アリーちゃんは私の妹になるために生まれたんだからね!」


「ったく……」


 気を許すとすぐこれだ。サマリは頬を膨らませながら俺を見つめている。

 しかし、すぐにハッとしてローブの中を漁り始めた。


「どうした?」


「後輩くんに渡して欲しいって頼まれたものがあったんだ。ちょっと待ってて……えーっと確かここに……あった!」


「これは……」


「護衛隊の就任、おめでと。これ、専用のカードだから」


「あ、ああ……」


 サマリは俺の手のひらに新たなカードを置く。キラキラと光っている新品そのもののカード。これで、俺は本当に国の護衛隊に選抜されたってことなのか。


「どした? 後輩くんにしては珍しく呆けて」


「いや……このカード。色んな人たちの命を背負ってると思ってな」


「……でも、後輩くんなら大丈夫だよ」


「ユリナ隊長を否定したからな。しっかりと働かないと、いけないよな」


「そういうこと。私の分まで頑張って」


「サマリは貰ってないのか?」


「私? 私は……貰ってないよ!! 失礼だな後輩くんは! 早速護衛隊の風格を出してるのかなっ!?」


「そういう意味で言ったんじゃない! そうか……サマリはないのか」


「別に後輩くんが残念がる必要はないよ。私は私だから」


「サマリ……」


「それと、後輩くんがトロールを退治したおかげで目が覚めたイリヤって人から伝言。お前の村は任せておけ。だってさ」


 ああ。あいつ、ちゃんと心を入れ替えて戦うようになったのか。それに、俺の村を守ってくれるなんてな。

 今度あいつに会ったらちゃんとお礼を言っておかないと。


「じゃ、私はこれからギルドのお仕事があるから! また会おうね!」


「アリーのこともある。だから、絶対に会おうぜ」


「うん!」


 サマリは俺に手を振りながら駆け出していく。あいつの元気さと能天気さがあったからアリーだって自分を出せるようになったんだ。

 最初はちょっとうるさいやつだと思ってたけど、あいつがいなかったらもしかしたらアリーは殺されていたかもしれない。いくらヴィクターが守ろうとしても、きっとあいつらはお構いなしだったと思うから。


「やっぱり魔法……使えるようになりたいなあ」


 サマリの捨て身の戦法には恐れ入った。わざと仮死状態になった瞬間、魔法を使って生き返るなんて……なんと魔法は凄いのだろう。

 よし、これからは仕事の合間を縫って魔法の練習に励もう。なに、コツを掴めばすぐにでもできるようになるさ。

 お金はいっぱい余ってるんだ。まずは魔法を勉強するための本を買おう。それから、もう少し大きい家にも住む。出来れば学校に近いところがいいだろう。アリーだって喜ぶ。

 考えれば考えるほど、お金が必要になってきているような気がする。

 それなら早速ギルドに行ってモンスターを狩るぞ。

 村の人たちには悪いけど、俺はまだそっちに戻れそうにない。アリーの世話がある。

 そして、ユリナ隊長を否定したということは……俺が彼女の本当に計画していた国と村の協力を実現させなきゃならないから。


 そんなことを思いながら、俺は新品のカードを眺める。

 ……ん? さっき、ギルドカードを見せて割引してもらったなら、これを見せたら無料にならないか?


「……損……したのか?」


 手渡しした張本人のサマリの高笑いが聞こえてくるようだ。

 たった少しの違い、お金にも困っていないにも関わらず、俺の胸中は何だかモヤモヤとしてしまったのだった。

一章終了です。

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