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入学希望

 魔法での治癒によって、俺の怪我はすぐに治った。

 ベッドで寝る生活も悪くないと思ったけど、それは数日で終わりを告げてしまったようだ。まあ、元々サマリが寝ていた場所に俺が寝ていたことから大きな怪我も魔法で簡単に治るんだろうとは思ってたけどここまで早いとは……。

 ユニコーンの角で貫かれたはずの手を眺めてみるが、傷跡一つ見つからない。魔法の治癒は完璧なんだろう。

 俺もいつかは魔法を使えるようになりたいものだ。いっその事、アリーと一緒に入学しようか? なーんてな。

 俺には俺にしかできない、強力なモンスターの退治が残っている。国の現状を垣間見て、学校に入って学んでいくなんてゆっくり、してられない。ここは村の人間が頑張ってモンスターを倒していかないと。

 それに、国は村との協力関係を築いていく計画を進めていくと言ってくれた。それなら俺も頑張るさ。


 これは余談だが、ユリナ隊長が使役していたユニコーンの死体は見つかっていないそうだ。俺もユニコーンの角を折ることで精一杯で、後はユリナ隊長と向かっていたからな。確か、ユニコーンが倒れたところまでは見ていたんだが、その後のことは俺も分からない。

 だけど、ユリナ隊長がいなくなったんだ。使役していた主が消失して、どこかに逃げ出したのだろう。

 ……恐らくだが、ユニコーンの武器はあの角なのだろう。主武装がなくなったら、あのモンスターが生きていく場所はないに等しい。あの場から逃げ出せたとしても、いずれは野垂れ死ぬだろう。


 それより、今日はアリーを連れて学校へと向かっている。彼女を学校に入れないとならないからな。

 本当はサマリも誘いたかったんだが、見つからなかったんだよなあ。一体、どこで何をしているのやら。


 本当に嬉しそうに、アリーの軽快なステップが目に映る。最初に俺と出会った頃には考えられない様子だ。

 無口で無愛想だった彼女が心を開いてくれて、更に俺に対してお願いも言ってくれる。ここまでの信頼関係を築けたのは俺のプレゼントもあるけど、やっぱり側にサマリがいたからってのもあるだろう。


「けーくん! 大っきい学校だね!」


「ああ。そうだな」


「私、絶対に頑張るからねっ! いっぱい勉強して、けーくんとサマリお姉ちゃんの力になるから!」


「ははっ。頑張ってくれよ」


 やる気満々のアリーと共に学校へと到着した俺。

 校門を越えて、俺たちは学校の中へと入っていく。外観もそうだが、中もレンガという壁がびっしりと敷き詰められている。これならすきま風も吹きこぼれないだろう。

 足を進める度に鳴るレンガの独特のコツコツとした音を聞きながら、俺は受付のような場所を探した。

 まずは入学を認めてもらわなければならない。そのために受付があると思っていたんだけど……。正直、学校に行ったことがないのでどうすればいいか分からないというのが本音だ。

 だからギルドと同じような感覚で部屋を探しているのだが……。


「ねえねえ、けーくん。どこにいくの?」


「え? 受付を探しててな……」


「けーくん! ここが職員室だよ! ここで受付できるよっ!」


「何で知ってるんだ?」


「けーくんにお願いした日から、情報収集してたから! エライでしょ!」


 えっへんと胸を張っているアリー。

 ほう、彼女が本気だということが十分に伝わってくる。これだけ真剣なら大丈夫そうだな。一時的な憧れかもしれないと心配してた面もあったけど、俺の思いすごしか。

 アリーに教えてもらった部屋のドアを開け、俺はお辞儀をしながら中へと入る。


「あのーすいませーん……」


「はい? どなたですか? 見慣れない顔ですね」


「実は入学を希望してましてね」


「なるほど、入学するのはあなたですか?」


「あ、私です!」


 背の小ささをカバーするかのように、アリーがジャンプしながら手を振る。先生と思われる人は元気そうなアリーの仕草に微笑みながら、再び俺に視線を戻した。


「俺はこの娘の保護者……みたいなものです」


「みたいなもの?」


「実は、最近まで事情がありまして……」


「深くは聞きませんよ。ちなみに、あなたはギルドに所属しているのですか?」


「まあ、一応。ギルドカード、提示した方がいいですか?」


「もちろん。あなたの成績によっては割引させていただきますから」


 わ、割引……。確か、俺ってこの国にとっては高難度の任務を達成したはずだ。それでヴィクターに殺されかかったんだからな。

 ということは、相当割引されるのだろうか。いやあ、お金が余っているから全額払ってもいいんだけど、余るならしょうがないなあ。残ったお金で住居を移すか。


 俺はさり気なくギルドカードを先生に手渡す。どんな表情をするのか、興味深いところではある。

 先生はギルドカードを手にとって、受付嬢がいつもしている呪文を目を閉じながら唱えていく。唱え終わり、目を見開いた先生の顔つきには困惑が見受けられた。


「……あなた、このギルドカード、偽装しては?」


「してません。本物です。なんなら確認して下さい」


「え、ええ……。一応確認しますよ」


 完全に疑っている時の目つきだよ先生。

 先生はそそくさと奥の方へと行って何かをブツブツと唱えている。さっきから唱えてばかりだなこの先生。呪文が得意なのだろうか。


「……ええ……はい……えぇ!? ……分かり……」


 奥にいるから、先生の話し声もよく聞こえない。しかし、一度だけ驚きの声を上げていたのは分かる。

 話が終わったのか、先生は先ほどとはうってかわって恐縮した様子で俺に話しかけてくる。


「……大変失礼しました。このギルドカードは本物だったのですね」


「まあ、誰でもびっくりしますよねそれ……。そんなに少ないんですか? あの任務に成功した人は」


「まあ、そんなところです。それに、何故かすぐに死んでしまっていましたから。きっと高難度の任務の影響だと思っていたのですが……」


「それは……そうですね」


「とにかく、これだけの成果を上げられている保護者様ならかなりの額を割り引かせていただきます」


「ありがとうございます」


「いえ、これもギルドで貢献していただいている方へのほんのお礼ですから。それで、彼女……えーっと……」


「私、アリーっていいます!」


「なるほど。アリーちゃんはどのランクを受けたいのかな?」


「らんくー?」


 先生はアリーの目線に立つためにしゃがみ込み、手のひらに紙を広げてみせた。紙に書かれている内容はこの学校で受けられる授業の内容のようだ。

 お手軽なものもあれば、難しそうなものまである。なるほど、これがランクってことか。よく見ると、ランクによって支払う金額も違うらしい。

 アリーは少しだけ迷いながらも、ある箇所を指差した。


「私、これにする」


「これ……一番難しいランクだけど、頑張れる?」


「うん!」


「いい返事だね。それでは……この金額から割引して……」


「どのくらいになります?」


「……あなたの頑張りのおかげです。この程度で問題ないですよ」


 そう言って、立ち上がった先生は俺に明細を手渡した。……なるほど。確かにかなり割引されている。

 簡単に言えば、金貨十枚必要のところが金貨二枚で済ませられる。そのくらい安くなっている。


「分かりました。すぐに払いますよ」


「ありがとうございます。良かったねアリーちゃん。希望したランクに入学できるよ」


「本当!? けーくんありがとう!!」


「これもけーくんさんが凄く頑張ってくれたおかげだからね。ちゃんと感謝するんだよ」


「うん! 頑張って勉強するね!」


「出世払いってやつか。それは期待させてもらうよ、アリー」


「ねえアリーちゃん。今日はまだ時間あるかな?」


「んーと、大丈夫だよ」


「それなら、先生と一緒に学校を見て回ろうか?」


「いいの!?」


「アリーちゃんも、これから学ぶところにどんなものがあるか知りたいでしょう?」


 アリーは目を輝かせて先生に対して頷いている。

 彼女はいいとして、俺は何をして暇を潰していようか。そんなことを思った時、先生が俺に話しかけてきた。


「アリーちゃんは私が責任を持って預かりますので、帰っていただいても構いませんよ」


「そうですか……。アリー、一人で家に帰れるか?」


「うん! 地図描いたから大丈夫! 学校に行ったら絶対にけーくんの家に帰らないといけないから!」


「そっか。じゃ、よろしくお願いします、先生」


「はい」


「じゃあなアリー。俺はサマリを探しに行ってくる」


「うん! サマリお姉ちゃんにも、私が学校に入ったこと伝えてね!」


 そう言うと、アリーは先生と一緒に学校の探索を始めていった。

 ……さてと。俺はサマリを探すことにするか。あいつ……本当にどこに行ったんだか。

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