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彼女の真実を

 ユリナ隊長の死をもって、全てが終わった。

 俺は彼女の死を見届けて、すぐに小屋を出て近くの人間に声をかけた。

 恥ずかしいことだけど、その後のことはよく覚えていない。俺自身も出血多量によって意識が朦朧としていたのだ。

 気がついた時にはサマリが寝ていたベッドで寝込んでいたのだ。


「……ん。うぅ?」


 目を覚ました俺が最初に見た光景は、俺の顔をジーッと見つめているアリーの顔だった。

 彼女の表情は不安とも後悔とも取れる表情をしていたが、すぐにぱぁーっと明るい顔つきを見せてくれる。


「けーくんが目覚めた!」


「やあアリー……おはよう」


「うん! おはよっ!」


 アリーが俺に抱きついてくる。温もりを確かめるように、彼女は俺に頬ずりをした。

 良かった。アリーにまた会えて。この娘にもう、悲しい思いはさせたくないからな。


「ねえ、傷はもう大丈夫なの!?」


「え? ……お」


 頬ずりを止めたアリーが思い出したように俺に言う。

 その言葉がスイッチだったのかどうか分からないが、俺の右手に突然の激痛が走り出した。

 痛みで思わず指先が仰け反って痙攣を起こしてしまう。


「ぎ……グググッ……!!」


「大丈夫けーくん!?」


「あ……ああ……大丈夫だ……!」


 ユニコーンと戦った時はまったく痛みを感じさせなかった俺の右手。麻痺していたからというのが理由だが、それにしても痛すぎる。

 痛みに耐えようと何とかするが、右手の指たちは自由に規則性のない動きして各々で暴走している。


 せめてアリーには心配させまいと笑顔を創り上げるが、彼女はすでにジト目をしていた。ああ、これはバレている……。


「けーくん……」


「な、何だ?」


「……私との約束、破ったの?」


「約束? ってああ……。傷だらけにならないってやつか」


「けーくんなら無傷で帰ってくると思ってたのに! けーくんの嘘つき!!」


 次にポカポカと俺を叩き始めるアリー。なんだろう。アリーにしては珍しく怒っているな。まるで、怒る理由を無理やり作っているみたいだ。

 俺を責めて、何かをしたいのかもしれない。

 その答えが分かるのは、次の彼女の行動だった。

 アリーは俺を叩くのを止めて、俺の胸の上に頬を寄せた。


「……私だって、けーくんやサマリお姉ちゃんを守りたい」


「アリー……」


「けーくんに言うのもどーかなって思った。だけど、お願いできるのはけーくんしかいないし……」


「どうした? 言ってみなよ」


「……学校、行きたい。そこで色々勉強してけーくんとサマリお姉ちゃんを守れるように強くなりたいの」


「分かった」


「……いいの?」


「アリーが決めたことだ。俺は止めないよ」


「でも……お金……」


「トロールを八体倒したらいっぱい手に入ったんだ。だから大丈夫だよ」


「……ありがとうけーくん!」


 俺の言葉が本当に嬉しかったようだ。アリーは嬉しさが溢れ出すように全身で喜びを表現している。

 そうか。彼女の道が決まったか。これで学校に行って、何かが出来るようになれば、俺とはお別れになるだろう。

 でも、まだ始まったばかりだ。アリーはまだ俺の元でいつものように甘えられるだろう。

 寂しくならないように、ずっと彼女といられるわけじゃないと頭の中で考えておかないとな。別れが辛くなる。


 アリーとの話も終わりかけてきた時、部屋に入ってくる人間がいた。

 格式高い黒色の衣服に身を包んだ、例えなくても位の高い人間だろうと思われるその人は俺に対して深々とお辞儀した。

 それから、自身の証明となるカードを一枚提示したのだった。


「失礼します。ケイさんですね?」


「え? ええ……そうですが」


「私は国王の使いの者です。直接の謁見が出来ればよろしかったのですが、残念ながら国王は多忙を極めており、私が事情を聞くことになりました」


 カードを見ると、確かにこの国の使いだという証明をしている。

 直筆で書かれている名前は国王の物によるのだろうか。俺はまだこの国の王についてよく知らないから分からないが……。


「そうなんですか……」


「聞かせて下さい。ユリナ隊長が何をしようとしていたのか。何故ユリナ隊長が死んだのかを……」


 一瞬だけ迷った。ユリナ隊長の遺言通りに、全てを彼女に押し付けるか。真実を話すか。

 だが……このまま一部の村が国を憎んでいるという事実を隠すわけにもいかない。ユリナ隊長の受けてきた悲しみを、俺は無視できなかった。

 だから、俺は真実を話すことにした。

 ユリナ隊長が計画を歪めた原因。そして、最後に残した彼女の遺言……。


「……これが、ユリナ隊長の真相です」


「なんと……先に仕掛けてきたのは村の方だったのですか」


「村出身の俺が言うのもなんですが……全ての村がそうじゃないと思います」


「ええ。それは分かっています。きっと、ユリナ隊長は不運だったのでしょう。一生に一度の不運が、そこだったのでしょう……」


「全てを国王に話して下さい。そして、計画を白紙に戻すことは……」


「いえ、計画は進んでいきます。正直に言いますが、国だけでモンスターを対処するのは難しくなってきています。モンスターは徒党を組んでいるのに、人間側はバラバラで戦っている。それではいずれモンスターに全てを奪われてしまいます」


「そうですよね。今こそ、みんなで力を合わせないと」


「とにかく、ユリナ隊長を不幸にした村を探し出します。その村は脅威となる可能性がありますからね。何らかの処置は必要でしょう」


「……すいません。ありがとうございます」


 ユリナ隊長に代わって、俺は目の前の使いの者に礼を言った。


「いえ、あなたがいたからこそ、ユリナ隊長が救われたのです。彼女自身は死という残念な結果に終わってしまいましたが……」

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