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彼女の闇

「……よし。では、扉を閉めるぞ」


 ユリナ隊長は俺が中に入ったことを確認してそそくさと扉を閉めた。予想通り、小屋は一気に光が少なくなってしまった。


「……こんな埃の多いところですまないな、ケイ」


「いえ、隊長の判断は正しいと思います」


「そうか。そう言ってくれるだけでも救われる」


「……隊長。一体、何が真実なんですか?」


「……ケイ。私は、村の人間が憎い」


「ヒーラーから話は聞きました。ユリナ隊長の想い人が関係していると……」


「そうか。あいつ、余計な話を吹き込んで……。いや、今はいい。ケイ、そのヒーラーの言う通りだ。愛していた人は……村の人間によって殺されてしまった」


「その話は本当だったんですね」


「……ケイ。君が聞いた話は全て正しい情報だ。私は愛していた人を殺した村の人間に復讐するため、あの人と考えた計画を捻じ曲げた」


「そう……ですか」


「村の人間は信頼できない。こちらから差し伸べた手を、奴らは容赦なく切り倒すんだ。私はあの時に理解した。協力関係を結ぶのではなく、我々が管理しなければならないと」


「全ての村の人間がそうじゃない。俺はそう思っています」


「彼を殺した村人も最初は優しかった。私と彼は、この計画でモンスターの退治と村との友好関係が結ばれると確信していたんだ。だが……村人の優しさは偽りでしかなかった! 村に入ってくるモンスターと戦っていた彼を……満身創痍の彼の隙を狙って……殺したんだ! 結局、私たちは邪魔者でしかない! 村の人間にとってはな!」


「……酷い村、だったんですね。でも、だからと言って、村を滅ぼそうとするのは間違っています」


「村の人間は何を考えているか分からない。表では微笑んでいても、裏では怒りに拳を震わせている。そんな人種をどうやって信用すればいい」


「俺がいた村はそんな人はいない。この間トロールを倒したところだってそうだ! ユリナ隊長……考え直して下さい」


「無理だよケイ……。もう、心はすでに汚れきっている。だが……」


 そう言って、ユリナ隊長は俺にもたれかかった。背はユリナ隊長の方が高く、傍から見たら、逆に俺が抱きしめられているように見えるだろう。


「私は……ケイだけは信じられると思っているんだ。頼むケイ……私の新しいパートナーになってはくれないか?」


「何で……何で村人の俺を信じてくれるんですか?」


「可愛い物が似合うって言ってくれたから。君はあの人と同じことを言ってくれた……だから……」


「……俺を信じてくれるなら、俺の望みは一つだけです。今まで犠牲になった人たちに対して贖罪して下さい」


「……何故だ?」


「確かに、隊長は愛する人を奪われてしまった。けど、それは関係ない村を滅ぼすことと関係ありません。それに、隊長に利用されたヴィクターを始めとしたギルドの人々だっています」


「それはできないと言ったら?」


「俺が隊長を殺します」


「……やはり、ケイは『違う』んだな……あの人とは」


 その瞬間、俺は彼女の殺意に気がついた。即座に後ろに飛んでユリナ隊長から距離を取る。

 彼女の冷たい眼差し。全てに絶望し、どす黒い感情に沈んでしまって抜け出せずにいる彼女。

 もう隊長の時の雰囲気はなく、一人の復讐者になってしまっていた。


「……ハハハッ。村の奴に期待しても無駄だったか」


「ユリナ隊長。あなたは間違っている。関係ない人々を、自分の復讐のために巻き込むな!」


「うるさい! 貴様に私の気持ちが分かってたまるか!」


「隊長……!」


「……ここに貴様を呼んだ意味、分かるか?」


「俺を始末するため……だろう?」


「そうだ! ここで貴様は死ぬ!! いでよ! ユニコーン!!」


「ユニコーンだと?」


 ユリナ隊長が指をパチンと弾く。薄暗い空間に響き渡る大きな音。それは反響して何重にも聞こえてきた。

 反響が鳴り終わった頃と同時に、ユリナ隊長が立っている奥から何やら木がへし折られるような音が俺の耳に入る。

 まさか、奥にいるのがユニコーンなのか?

 地面を駆けるヒヅメの音。それが近づくにつれて、真っ白な馬が視界に映った。他の馬と違うのは、馬の頭上に角が生えていることだ。どんなに頑丈な盾をもってしても貫かれそうな鋭い角。

 角は白い体型とは裏腹に黄色く輝いていた。


「どうだケイ!! 貴様もユニコーンと戦ったことはないはずだ! これは私が命を掛けて捕らえたモンスターなのだからな!!」


「……確かに戦うのは始めてだ。でもな、そんな馬ごときで俺を殺せると思わないことだ!」


 剣を引き抜き、戦闘態勢を整える。ユニコーンとやらの力がどの程度のものか、気をつけて戦わないと。


「やれユニコーン! そこの男を殺せ!」


 ユリナ隊長の命令と共に、ユニコーンは美しき雄叫びを上げて俺に突進してきた。

 ただの突進ではない。数秒で俺の眼前に接近するほど早いのだ。


「くっ――!」


 俺は即座に横に避けてユニコーンの角を回避する。しかし、ユニコーンは柔軟に首を動かし、俺の回避した方へ方向転換してきたのだ。

 迫るユニコーンの角。剣で防御するしかない。俺は剣の腹で薙ぎ払われた角を受け止めた。


「ほう……しぶといな。ユニコーンの動きに対応できるとは、流石歴戦の勇士だ」


「角で突いてくるだけか……なら、余裕だな……!」


「私には焦っているように見えるが?」


「これはユリナ隊長を油断させるための罠だよ……!」


 ユリナ隊長は見下した笑みを絶やさない。俺が負けることを確信しているんだ。

 だけど、俺は負けられない。ここで負けたら……ユリナ隊長を止められる人間はいなくなっちまう!


 ユリナ隊長に少しでも集中してしまったのがいけなかった。

 ユニコーンは角から電撃を発射してきたのだ。反応が間に合わない。電撃は剣を伝って俺の腕に絡みついた。


「グッ!」


 剣を持っていた方の手が麻痺し、思わず剣を落としてしまう。

 感覚のなくなった手。回復するには時間が必要だろう。言うことを聞かせようと手を叩いてみせるが、『痛い』という感情すら失ったようだ。


「ハハハッ!! これでケイも終わりだな!!」


「ユニコーンか。意外とやるモンスターだな……!」


 電撃を放出した後、ユニコーンは小休止を挟むようだ。

 俺が後ろに下がっても、追撃せずにその場で立ち止まっていたからな。


「どうだ? 命乞いをすれば、今なら助けてやろう。ただし、一生私の奴隷として生きることになるがな!」


「そんな条件、誰が呑むかよ。ちなみに、死ぬって選択肢もないぜ」


「やはりそう言うと思っていたよ。だが貴様の負けは確定しているんだよ。可哀想になあ。私と一緒に来てくれれば生き延びられたものを……。まあ、安心してくれ。あの栗毛の女とサマリも一緒にあの世に送ってやるさ」


「……それが俺の死ねない理由なんだよ!」


「ふざけるな! いつまで強情を張っているつもりだ! この状況下でどうやって勝つ気でいる!」


「諦めなきゃ勝てる……! 俺は数多くのモンスターと戦ってそれを学んでるんだ」


「口数の多い奴め……! ユニコーン! 奴にトドメを刺せ!! 角で一突きしろ!」

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