ユリナ隊長への面会
ヒーラーから聞いたユリナ隊長の過去。だが、俺はそれに囚われることはない。彼女の事情がどうあれ、幾つもの村が消滅しているんだ。
ユリナ隊長が悲惨な出来事に遭遇していたからといって許したら、護衛隊に入れると騙されて死んでいった村人たちはどうなる? ユリナ隊長によって動かされていたギルドの兵士たちはどうなる? そして、ユリナ隊長を信頼していたヴィクターも……。
やはり、本人の口から真相を聞かなければならない。ヒーラーが言ったことが本当とも嘘とも、俺には分からないからだ。
城の目の前に着いた俺に向かって、入り口を守る兵士が三度槍を向ける。兵士はまるで機械のごとく同じような台詞を口にした。
「要件は何だ」
「……ユリナ隊長を殺すためにここにきた」
「何だと? 貴様、頭は大丈夫か? モンスターの狩りすぎで変になったのか? それよりもギルドカードを提示しろ。身分の証明だ」
「……こんなもの!」
自身の証明となっていたギルドカード。これは単なる危険度を図るためのものだった。
もう、俺に身分は必要ない。こんなカード、いらない。
俺は怒りに任せてギルドカードを地面に叩きつけた。
「……何の真似だ?」
「ユリナ隊長が、実は村を滅ぼす計画を立てていたことが疑惑として出てきた。俺はその真意を決するためにここに来たんだ」
「証拠はあるのか?」
「高ランクの任務を受けていた人間が数日後に死んでいるはずだ。例外なく、な」
「それはモンスターが強力すぎたという解釈にはならないか? 所詮村の人間。国が受注しているモンスターなぞ、敵わないということだ」
「……村はモンスターと毎日戦ってんだ。大人はもちろん、子どもだってな……。傷だらけになりながらモンスターに恐怖し、それでも明日を掴んでいる。そんな村人が、国が受注しているモンスターに負けるかよ」
「お前の言いたいことも分からんでもないが、ユリナ隊長に会わせるわけにはいかんな。隊長は今、面会拒絶だからな」
「どけ。俺はどんな手を使ってでもユリナ隊長に会う」
その瞬間、兵士が槍を俺に向かって突き刺そうと動いた。
しかし、俺の反応の方が早い。兵士の槍を難なく回避して首筋に手刀を入れる。
「ガッ……!!」
兵士は息が詰まるような叫びを発した後、槍を落として地面に倒れ込んでしまった。
兵士やここを通る人々に刺さらないように、俺は槍を遠くの大木へと突き刺す。
これで、俺を邪魔するものはいなくなったということだ。
「……待ってろユリナ隊長」
城の内部を進んでいく。人手不足なのか、城の内部は相変わらず人通りが少ない。いや、いるのかどうかすら分からない。
警備も今考えるとおかしい。ギルドの本拠地と言っても過言じゃないこの場所で、警備があの兵士一人だけだ。
様々な疑問が頭に浮かびながらも、俺はユリナ隊長がいるはずの部屋の前に立つ。そして、勢い良く扉を開けたのだった。
「――ユリナ隊長!」
「ケイか。どうした?」
ユリナ隊長はいつものように机で作業をしていた。机には書類が山積みになっており、それに自分の名前を書いているのだ。
しかし、俺の声に反応して目の前の俺を一瞥する。その顔は妙に怪しく、覚悟を決めている瞳だった。
「ヴィクターとギルドにいたヒーラーから話は聞きました。あなたは本当に……村から土地を奪おうとしていたのですか?」
「……? 何のことだ? 私は何も関与していないが」
「……信じたい、と思います。けど、今の俺にはあなたが真実を言っているとは思えない」
「ほう。ならば、真実を明らかにしようか」
そう言って、ユリナ隊長は重い腰を上げてくれた。席から立ち上がった彼女は俺に近づき、そして、耳元まで近づいてきた。
彼女の香水の匂いが鼻をくすぐる。柑橘系の爽やかな香りで、印象を少しだけ柔らかくする働きがある。彼女の身だしなみもあって、真面目な性格の雰囲気が醸し出される。
「実は私もヴィクターに脅されていてな……」
「何ですって?」
「……ここでは話がしづらい。場所を変えたいのだがいいか?」
「……分かりました」
「ありがとう。ケイ」
まだ彼女の疑いが晴れたわけじゃない。俺は彼女の動きに細心の注意を払いながら彼女が歩む場所へと一緒に赴いた。
そこは城から少し離れた小屋の前だった。この時間帯では、誰もここに来ることがないのだろうか。人通りが少なく、ある程度の時間で人が来るのであれば、それを把握することで秘密の会合をすることも可能だ。
更に、ユリナ隊長は小屋に付けられていた鍵を開けて中へと入っていった。
「こっちに来てくれ。中で話せば人に見つかることもない」
確かにそれは正しい。だが、ユリナ隊長が敵だった場合、誰にも見つかることなく俺を抹殺することが可能だ。
それだけのリスクが伴う決断。俺はどうするべきか……。
ここで俺が立ち止まれば、ユリナ隊長は疑問に思うだろう。真実を知りたいのに、何故入ってこないのか。下手したら、彼女と話す機会がなくなるかもしれない。
ここは彼女の要求を呑むしかないのか。
意を決し、俺は小屋の中へと入った。
小屋の中は埃っぽく、長い間使われていないように見える。また、差し込んでくる光も窓の汚れで少なく、小屋の扉を閉めさえすれば薄暗くなってしまうだろう。




