裏切りの真実
サマリがアリーを守っている間、それまで勝負だ。
俺は何も考えず、ただ目の前の敵を切り刻むことに集中する。アリーはサマリに全て任せる。
そうすることで、俺はアリーを心配することなく戦うことができる。サマリに任せるのはいささか不安だったが、今の彼女の目を見たらそんな危惧も吹き飛ばされてしまう。
死地から蘇った影響なのか、サマリの雰囲気が変わったように見える。まるで、過去に心を砕かれた出来事があったかのように彼女から甘えが消え去っていた。
それは帰ってから彼女に聞けばいいか。今は俺たちを殺そうとしている敵を排除する。
「残り三人だな……!」
「ば、化物かお前は!!」
「化物じゃない……ただの村人だよ」
「ち……ちくしょう!!」
一人が逃げ去り、アレグを含めた残り二人が覚悟を決めてこちらに向かってきた。アレグにはもう余裕はない。泣きべそをかいて俺に立ち向かうくらいしかできない。
まあ、勝ち目のない戦いに挑む勇気は讃えよう。だが……勝ちを譲るきはない。
俺は兵士が振るった剣を避け、瞬間的に剣で兵士の首を切り飛ばす。
これで残っているのはアレグただ一人。こいつだけは絶対に許さない。
「お前の村人殲滅作戦もこれまでだな、アレグ」
「へ……へへっ……俺はただの駒さ」
「駒? どういうことだ」
「知りたきゃ教えてやる……。だから俺だけは命を助けてくれよ」
「……まずは情報からだ。お前の生死はその後で決める」
アレグは……お前はお前のために戦って死んだ今の兵士に対して申し訳ないと思わないのか。
自分だけ生き長らえる? ふざけるなと言いたい。情報を吐けるだけ吐かせて、後はユリナ隊長に突きつけてやる。隊長も俺と同じ判断を下すだろうが、俺が許せるのはここまでだ。
「は……ははっ。きっとお前が驚く素晴らしい情報だ」
「早く言え。死にたいのか?」
「わ、悪かった! あのな……お前たち村人を殺す作戦を考えたのは……上の連中なんだよ」
「何?」
「俺はその上の連中に雇われただけなんだ! 給料もいいし、何よりムカつくやつを殺せるメリットもあったから受けていたというのもあるが……」
「その上の連中の名前……お前には分からないのか?」
「一人だけ知っている。その名は――」
「ヴィクター」
「え――」
その瞬間にアレグの四肢は切断された。答えを先に言われ、呆然とした表情のまま絶命しているアレグの情けない顔。
こいつの最後には相応しいかもしれないが、こいつを殺した人間は一体……。
アレグの胴体が地面に落ちると同時に、アレグの背後にいた人物の姿が露わになる。それは、俺がよく知っている人物であり、答えそのものだった。
「ヴィ……ヴィクター。どうしてここに」
「いやあ悪かったケイ。奴隷ちゃんには手を出すなとこいつらには再三忠告してたんだが、結局こうなっちまった」
「俺の質問には答えろよ。お前はなんで……」
「答えは分かってるだろ? それを事実と受け入れたくないだけで」
「……俺の敵、なのか」
「まあ、この状況はそうなる」
「戦うのか……俺と」
「お前に武器を向けているということは、そういうことだ」
「戦わずに済む方法はないのか?」
「……悪いが、俺は本気だ。ま、お前の慈悲を受けるわけにはいかないんでね」
「ふざけるなよ……お前は……!」
「ふざけてないさ。今日は真面目なつもりだ。ほら、ちゃんとした鎧を装備してるだろ?」
「お前は……!! お前は最初から俺を殺すつもりで……!!」
「ケイ。お前が弱ければ生き延びることが出来たんだけどな。お前はちょっとやり過ぎた。いきなりトロール八体は危険すぎる」
「ギルドのランク……それが理由か!」
「ああ。弱いやつは使い倒し、高ランクを受注するようになったら危険人物としてギルドが葬る。それがこの国のやり方なんだよ」
「国は……村と協力し合ってモンスターと戦うんじゃないのかよ!!」
「甘ちゃんの考えだな。国が村なんてちっぽけな集合体を気にするのかよ? 村の利用価値はただ一つ。領土を持っているだけだ」
「領土……だと!?」
「ああ。村という枠組みは邪魔だが領土というゼロから作り出せないものを持っている。それを的確に、そして鮮やかに奪うにはどうしたらいいか? そりゃ協力関係を表面上結ぶしかないよな? そんで村の生え抜き共をこっちで始末して、村の戦力を衰退させる……。村には国が戦っているモンスターは必要以上に手強い存在だって教え込んでおけば納得するんだよ」
「納得するわけない! そんなの……そんなことを!!」
「悲しいかな、事実として納得しているんだ。結構いいもんだぜ? 領土が広く、でっかい建物が立ってる『国』って存在は。何を言っても信用してくれる」
ヴィクターの言葉一つ一つが俺の心を切り裂いていく。確かに彼の言う通りだったかもしれない。俺は国という存在を大きく見て、国育ちのヴィクターの言葉を半ば信頼しきっていた節があった。
全てはヴィクターの手のひらで踊らされていたに過ぎないのに……。
……けど、そんな言葉で俺の心が折れると思ったら大間違いだ。俺には守らなきゃならない人がいる。自分の村の人々、そして、アリーがいる。
その人たちのためにも、俺がここで立ち止まっているわけにはいかないんだよ。
「……やっぱ、死線を越えているだけあって簡単には殺されてくれないか」
「当たり前だろ? ヴィクター。お前とは上手くやっていけそうだったんだがな。残念だよ」
「そりゃこっちもだよ。こうしてお前と戦うことになるなんて、出来れば避けたかった。奴隷を助けるような心を持ったお前とはな……」
「おいおいヴィクター。まるで勝ったような台詞だな。俺はまだ生きているんだぞ」
「……いや、悪かった。そんなナメた感情じゃお前に敵わないくらい、俺だって知ってたはずなのにな」
俺とヴィクターは、お互い不敵な笑みを交えながら剣を構える。
俺の剣は長剣で両手持ちのものだが、ヴィクターの方は短剣で同じものを片手ずつ持っている。
身軽さではヴィクターの方が優勢だが、俺の長年の経験だって負けちゃいない。どんなモンスターだって、この剣で殺してきたんだ。




