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旅立ち、新たな出会い

 何故村の人たちはパーティをしたがるのか。

 村長と先輩だけじゃなく、他の人からもパーティしないのかと話しかけられた。

 どうしても俺を送り出しを大げさにしたいらしい。でも、そんな大げさにしてもらなくてもいいと思うのは俺だけだろうか。

 結局、パーティの主人公である俺がやる気なしということで、パーティが開かれることはなかった。

 俺は先輩の家に着くと、すぐにベッドへと入り込んだ。朝も早いんだろうし、今のうちに睡眠時間を確保しておかないとな。

 特にイベントもなく朝が明け、俺は朝日と共にベッドより起き上がって支度を済ませていた。

 剣と盾は問題ない。鎧もちゃんと装備されてる。


「……よし」


 まだ寝ている先輩を起こさないよう忍び足で玄関へと向かう。

 だが、その音で彼女の目が覚めてしまったのだろうか。先輩はむくりとベッドから起き上がったのだった。


「あ、起きちゃいましたか先輩」


「……ケイ。旅立つのに挨拶もなしか? 寂しい居候だなあ」


「すいません。それだけのために起こすのも何か悪いかなと思いまして」


「それだけのため、じゃない。それはとっても大事なことだ」


「……はい」


「絶対に戻ってこい。村は君を必要としている」


「……分かってます。これは別れじゃない。ちょっといなくなるだけ……ですよね」


 先輩は無言で頷いた。


「また……居候しに戻ってきます。それじゃ、また」


「ああ。行って来いケイ!」


 先輩に向かって頭を下げ、ドアを開け放つ。

 村の出口には、村長が大人の人と一緒に立っていた。

 村長が小さな女の子で背が小さいのもあるかもしれない。でも、隣になっている大人はそれを差し引いても背が高いように思えた。

 村長は複雑そうな表情で大人と話している。しかし、俺の姿を見ると、ホッとしたような安心したような表情に変わった。


「ケイくん……」


「どうしたんだ村長? そんな顔して」


「いや、何でもないんだ。あ、こちらは今日ケイくんを国まで送ってくれる人だよ」


「ヴィクターだ」


 渋い顔には渋い声が似合う。

 かなり年をとってそうな渋い男性は、村長の紹介された後に深々とお辞儀をした。


「どうもよろしく」


「あ、知ってるかもしれませんが、俺はケイと言います。こちらこそよろしくお願いします」


「ハハハッ、硬くなるな。いつも通りのタメ口で構わん」


「……じゃあ、そうさせてもらう」


「早速で悪いが、モンスターが起きると厄介だ。ケイ、さっさと村を出るぞ」


「ああ。行こう」


 男性が前に出て進んでいく。

 俺もそれについていこうとするが、俺の服を引っ張る小さな手があった。……村長だった。


「村長……」


「ケイくん。あ、あたし……」


「安心してくれ。俺は絶対に帰ってくる」


「あ……」


 村長が涙目になる。違う、そうじゃないって言ってるように。

 ……そっか。この子、俺に気が……。


「……想いは、その時に……きくよ」


「……ホントだよ?」


「ああ。ホントだ」


「……うん!」


 村長は涙を拭いて、笑顔で手を振る。

 いつか、彼女の気持ちには答えなきゃいけないと思う。でも、今はその時じゃない。

 どんな結末になろうとも、俺は答えをだす……。出さなきゃならないんだ。


「おいケイ。どうした」


「あ、待ってくれ。今行く」


 村長に別れを告げ、俺はヴィクターと共に歩く。

 その先には馬車があった。馬が何頭いるんだ? 一つ二つ……四頭?


「フフフッ、さっさとモンスターがうろついていない場所まで行かなきゃならないからな。馬力が必要ということだ」


「なるほど……」


「さ、乗ってくれ。後は馬が国まで運んでくれる」


 馬車にヴィクターと共に乗る。

 馬の手綱を締めるのは別の人がやってくれるみたいだ。

 俺と彼は向かい合って座ることになった。

 ……これ、もしかして俺を監視してるのか? いや、考え過ぎか。

 馬車の中は快適だ。四頭の馬が走ることで気持ちのいい風が窓から吹き込んでくる。

 風まで俺の旅を祝福してくれているような気がしてくる。

 俺は蹄の音を聞きながら村の外の光景を眺め続けていた。

 村の外に出ることはあまりない。食料や装備品の買い込みくらいで最小限に抑えている。

 その理由はもちろんモンスターがはびこっているからだ。

 無駄が犠牲は出さないようにしないと。そんな理由で買い込み回数が限られているためか、どうも村の人々は良いものを選別する能力も高いように思える。

 現に俺も大体の感覚で良い物と悪い物の区別がつくようになってしまった。


「……さっきの村長。何であんなに幼いんだ?」


「え? あ、ああ。昔はあの子の父親が村長だったんだよ。でもモンスターに殺されてしまってな。それで村で決めてあの子を次の村長にしたんだ」


「大丈夫なのか? あんな小さな女の子で……」


「まあ、村だから。足りない部分は他の人で補えば問題ない」


「……難しいことに縛られないということか」


「どう? 気に入った? モンスター退治できる人間なら大歓迎だぞ」


「ハハハッ、俺は国の中でのんびり過ごさせてもらうよ。村なんて命がいくらあっても足りないからな」


「そうか。残念だ」


「すまないなケイよ。……ん?」


「どうした?」


 談笑しているヴィクターは、突然表情を強張らせて窓の向こうを見つめた。

 俺もそれに倣って同じところを見つめる。

 俺の瞳に見えたのは盗賊の一団だった。短剣に肉を刺して食べている者や、金貨をうっとりとして眺めている者など様々だ。

 村の外で暮らしているものはモンスターだけではない。こういった盗賊の一味も暮らしている。

 奴らは村を直接的に襲うことは少ない。逆に、村から多少離れた場所に生息していることが多い。

 村から離れれば、モンスターが出る頻度は下がる。それで安心と思ってても、次は盗賊が襲ってくるのだ。


「盗賊か。こっちを襲ってくる気配は?」


「いや、肉を食べ金貨に夢中であるから今日は見逃してもらえるだろう。ケイ、もし戦いになっても大丈夫か?」


「もちろん。問題ない」


「そうか。それを聞いて安心した」


「でも、今日はその実力を見せることはない……って何だ、あれ?」


「どうした?」


「人が……女の子が鎖に繋がれてる」


「ああ。残念にな。あれはきっとどこかの旅団が襲われたんだろう。その生贄にあの子が人質になった。まあ、そんなところだろう」


「あ、殴られた……。あの子の安全は大丈夫なのか?」


「それは大丈夫だろう。殺したら血の匂いをモンスターが嗅ぎ回ってくるからな。最低限の生活は保証されるはずだ」


「でも……何も食べさせてもらってないように見える」


「先に食べたんだろう」


「そんなことない。見ろよ。必死にお腹を抑えてるじゃないか。空腹なんだよ」


「……ケイ。そんなにあの子を気にかけてどうするつもりだ?」


「助けるに決まってるじゃないか!」


「余計な事には関わらない方がいいぞ。見捨てるんだ」


「そんな! 目の前で苦しんでる人がいるのに!」


「ああいった子はこの世界に大勢いる。あの子一人救えたところで世界は変わらんよ」


「世界を変える変えないの問題じゃない! ヴィクター! アンタは目の前で苦しんでいる人がいたら何もせず無視するのかよ?」


「……それは」


「俺は行く。馬車を止めてくれ」


「やれやれ。……おい、止めてやれ」


 馬を操っている人にヴィクターは命令する。

 すると、馬はすぐに足を止めてくれた。


「ありがとう。行ってくる」


「ケイ……。その甘さが命取りにならなきゃいいな」


「ならないさ。自分自身の甘さにつまづいて転ぶってんなら、そのまま一回転してまた立ってやる」


「面白いことを言う奴だな。この件に関して俺たちは干渉しない。好きにやってこい」


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