※逆転の突撃
その時、サマリお姉ちゃんの顔がニヤッと笑った。何かを企んで、それが成功したような顔。
え……も、もしかして……。
「クックックッ! だぁーれが一人で来たって言ったのよ!」
「サマリお姉ちゃんがさっき言ってたような気が……」
「え? そうだっけ? ま、まあ気にしない! それも作戦の内だからねっ!! こちとらアリーちゃんを救い出せたらもうこっちのもんなのよ!」
「グダグダと会話をしている暇は俺にはないんだ! お前の他にいるのなら姿を現しやがれ!!」
「――ガァ!!」
突然、剣が振ってきた。その剣は取り巻きの一人の額に突き刺さり、そいつは絶命した。
あのくすんだ剣って……やっぱり……けーくん……なんだよね!?
取り巻き全員が、いきなり死亡した兵士へと注目する。
何も分からず死んだ兵士は、その場に倒れ込んで大量の血を流していく。
「……な、何だこれは!」
「誰が! 誰がこんなことを!!」
「……アレグ、俺の死亡を確認しなかったのがお前の敗因だ」
「なっ!? ケ、ケイだと!? バカな! あの崖から落ちたんだぞ! 生きているわけがない!!」
「アレグ。俺はちゃんと二本足で立ってるんだ。ちゃんと生きてるんだよ」
「けーくんだ! やっぱりけーくんは生きてた!!」
サマリお姉ちゃんに抱きかかえられながら、私は必死に手を振る。
それに気づいてくれたけーくんは私に微笑んでくれた。良かった。けーくんが生きててくれて。
「さてと。俺たち三人にやったことの仕返しをさせてもらう。覚悟はいいな? 取り巻き共!」
「……くっ! 所詮ヤツはモンスター退治専門! これだけの数がいるんだ! 人間相手なら弱ぇはずだ!」
……バカね。アレグたちは。
誰が私を助けたと思ってるの?
他でもないけーくんなんだよ?
けーくんはキッと目つきを強張らせて、すぐに額に刺さった剣を引き抜く。
それからは兵士たちを相手に、踊るかの如く華麗な剣さばきで斬っていく。
十五人もいたアレグの私兵とでも言うべき取り巻き共はみるみるうちに数を減らしていき、すでに五人ほどしかいない状況になっていた。
「何だコイツ!? 本当に人間かよ!」
「俺は人間相手でも引けを取らないんだよ。さあ、さっさと終いにするぜ」
「ちくしょうー!!」
また一人、けーくんの剣の餌食になった。
この調子なら、けーくんがすぐに敵を退治してくれるはず。
そう思って少し油断してたのがいけなかったのかもしれない。
私とサマリお姉ちゃんの背後に、兵士が来ていたのだ。
「――死ねっ!!」
「――クッ!?」
サマリお姉ちゃんは首を動かして兵士の姿を捉えた。けど、体を捻らせて兵士の方を向くことはしない。
もしかして、サマリお姉ちゃんが私を抱きかかえているから? 前を向いたら私を盾にしてしまうから?
私からは見えないけど、きっとお姉ちゃんの背中にはざっくりと切り傷がついてしまっているに違いない。
お姉ちゃん……私のせいで……また……。
「グゥ!!」
「ハッハッハ! 抵抗せずにむざむざと斬られたいのかよ!! じゃあ、お望み通りにしてやるぜ!!」
「……ふざけないで。誰がそんなことされたいなんて言ったのよ」
「死ねぇクソがあ!」
「ガッ!!」
「お姉ちゃん! 私のことはいいから構わず――」
「――ごめんね。あの時見捨てて……」
「え? わ、私! 見捨てたなんて思ってないよ! だから――」
「――でも……もう……見捨てたりしないから……! 今度こそ、私が絶対に守ってみせるから……!!」
「お姉ちゃん……」
お姉ちゃんは両腕で抱きしめてた私を片腕で抱きしめるように体勢を整えて、それから腕をゆっくりと兵士の方へ向けた。
その時のお姉ちゃんの目は、まるで獣に戻ったかのように獲物を視線で射っていた。
「いい加減にしなさいよ……! この……ゲス!!」
「なっ――」
まさか反撃されると思っていなかったのか。兵士はサマリお姉ちゃんの指から発射された炎の魔法に対応できずに火だるまになってしまった。
全身が燃えてパニックになっているのかもしれない。そのまま私たちに突撃すれば相打ちに持ち込めるだろうに、兵士は後ろに下がって必死に自分の体をまさぐって火を消そうとしていた。
「ハァ……ハァ……。そんなんで、私の魔法が消せると思ったら……大間違いよ……いっぱい特訓したんだから……」
サマリお姉ちゃんはいつ特訓なんてしたんだろう。ううん、違うよね。きっと、前にたくさん努力したんだ。
お姉ちゃんが本気になれば、弱い兵士なんてすぐに倒せるんだってこと、今日知った。
兵士はもう地面に倒れて、ぴくりとも動かない火の燃料と化していた。
「大丈夫? どこも怪我してないよね……?」
「……うん。サマリお姉ちゃんのおかげで無傷だよ! ありがとう、お姉ちゃん!」
「そっか……良かった……」
そう言うと、サマリお姉ちゃんは私を手放して地面に倒れ込んでしまった。
私はすぐにしゃがみこんでお姉ちゃんに触れる。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんこそ大丈夫!?」
「私が死んでも……後輩くんがいるからね……。後は後輩くんに任せるよ……私はもう限界……やっぱり無理してたのが祟ったのかなあ。アハハ……」
そうだ。けーくんは今誰と戦っているの?
私はサマリお姉ちゃんの容態を心配しつつ、けーくんの方を見た。




