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※起床からの絶望

 目を覚ましたのは、耳元で騒ぎ立てるうるさい声があったからだった。

 ゆっくりとまぶたを開けた私に映った景色は、地獄そのものだった。

 サマリお姉ちゃんを殺した奴らが嬉しそうに、私という戦利品を祝って酒を飲んでいたのだ。

 中央に立っている人物はリーダーだろうか。その人物を中心に集まっているクズどもはどれも二流三流の集まりのように思える。

 奴らはもう勝ったと思い込んでいるんだろうけど、けーくんがまだいる。絶対にアンタたちなんか殺されるんだから。

 でも、私だって何もしないわけにはいかない。少しはこの状況を打破しなきゃ。

 しかし、逃げようと体を動かしても、やっぱり縄で縛られていた。……鎖じゃないだけまだマシかもしれない。

 あれは嫌な記憶を思い出してしまうから。


「お! お目覚めのようだぜ!」


 私の目覚めに気がついた一人が私に向かってニタニタと笑いかける。

 サマリお姉ちゃんにも言われたのに、まだ気味悪く笑いかけるというの?

 一発殴りたい気持ちが抑えられず、身動きできないのに体だけ動いてしまう。


「無駄に決まってんだろ!? ガキの力で縄が引きちぎれるかってんだよ!」


「おーおー怖いねえ。俺らを睨みつけてやがる」


「まあまあいいじゃねえの。どうせコイツ、あのこと知らないんだからなあ!」


 群衆の声に耳を貸す暇はない。私はそいつらの戯言を無視して、必死に抜け出そうと動く。

 それが気に障ったのか、一人が私につばを吐きかけてきた。私に対しての戒めなのかもしれないけど、それは大きな間違い。こんなの、戒めのうちに入らない。

 私が受けてきた戒めも知らないのに、こいつらはこんな下らないことで優越感に浸ってる。


「随分と反抗的な目だなあ。いじめたくなっちまうぜ」


「じゃあ、俺が痛めつけてやるか! 精神的にな!」


「お! やったれアレグ!!」


 群衆のうちの一人が立ち上がり、私に近づいてくる。あれはけーくんの夢を笑ったやつだ。私が蹴って退散させたやつ。

 きっとあれがこの集まりのリーダーに違いない。でも、中心にいないのはどういうこと? 中心にはまた別のリーダーがいるけど……。

 と思ったけど、さっきまで中央にいた人物の姿がぱったりと消えてしまっていた。あれは私の見間違い……? ううん。そんなはずがない。

 色々と思うところがあるけど、推理する暇を与えてはくれないみたい。仲間内に仰々しく囃し立てたアレグは目の前に来て私の髪を思いっきり引っ張り、持ち上げた。


「さてと。お前は俺の足を蹴ったガキだな。本来なら殺してやりたいんだが利用価値があるからな。勝ち気なお前の絶望する顔が見てみたいぜ」


「……死ね」


「それはお前の大好きな人間に向かって言ってるのかなあ?」


「…………」


「俺様の質問には答えた方がいいぞ?」


 それでも私は無視する。私が言いたいことはもう全部先ほどの一言に詰め込んだのだ。

 無用な言葉はただ疲れるだけ。でも、そんな私に衝撃が走ったのは、アレグの次の言葉だった。


「……聞いて驚け。ケイはな、俺が殺した」


「――!?」


「顔つきが変わったな。ヤツの最後は愚かだったぜえ! 助けてって泣き叫んでたんだからな!! 俺に向かって!!」


「……ウ……ウソよ……」


「ウソじゃねえよ。崖に突き落としたんだ。必死の形相でしがみついててなあ。結構面白かったぜお前のお兄ちゃんはな!」


「……あ……あ……」


「ショックで言葉も出ないってか。つまんねえなあ。もっと声を出せよ。腹からよぉ!」


 私の腹部に向かって、アレグの膝蹴りが迫る。

 もう、私に抵抗する力は残されていない。けーくんが殺された……? コイツに……。

 確かめる術はない。だけど、アレグがウソを言っているようには見えない。

 ……信じたい。信じたいよ。だけど、私はその心さえも飲み込んでしまうほどの絶望を今までに味わってきた。

 だから……信じられない。けーくんが生きてるってこと。そんなご都合主義、信じられるはずがない。

 私は目を閉じて、自分の心が砕けていく音を聞きながら闇に落ちていこうと思った。


「――っ!!」


「何だお前は!!」


「アリーちゃんを離して……!」


「おい! アイツは俺たちが殺したはずじゃ――」


「何!?」


「――今だ!」


 その瞬間、私はふわりと宙に舞ったような気がした。

 ……ううん。誰かが私を大切そうに抱きしめてくれたんだ。酒を飲んでいたやつらにそんな慈悲があると思えない。だったら誰が……。目を開けた時、私はそれが信じられなかった。

 死んだはずのサマリお姉ちゃんが、目の前で笑ってたのだから。


「……助けに来たよ。アリーちゃん。私一人で、ね」


「お……お姉ちゃん。ど、どーして……」


「その反応はちょっと寂しいなー。死の淵で神様に会って、一日だけ生き返らせてもらえるって条件でせっかくここまで来たってのにさ」


「サマリお姉ちゃん……嘘。なんだよね?」


「当たり前よ。私がアリーちゃんを……大事な妹を残して死ぬはずがないもの」


「うん……!!」


「さてと……。アンタたち、よくもアリーちゃんをさらったわね。それに、私を殺そうとまでして……」


「当然だ! 貴様は村からやって来た奴! 三年間はしぶとく生き残っていたようだが、いずれ死ぬ運命だったんだよ!!」


「村から来た人たちがそんなに憎いっての? だったら、どうして私たちをこの国に呼んでるのよ! 見当違いもいい加減にしてほしいわ! 隊長も黙ってないわよ!!」


「隊長? それは誰のことを言ってるんだ?」


「隊長ったら、ユリナ隊長のことしかないじゃない! あ、もしかしてお酒の飲み過ぎで頭おかしくなっちゃったのかな? あー残念だなー。私が倒すまでもないじゃん。そんな頭の使い方しかできないんじゃあさ!」


「クックックッ……。お前。この人数を一人で戦えると思ってるのか?」


 今のお姉ちゃんはなんかたくましい。まるで心まで生き返ったみたい。今までの頼りないお姉ちゃんとは違う雰囲気が、今のサマリお姉ちゃんにはあった。

 アレグの言う通りだ。いくらお姉ちゃんの魔法が凄くても、今の周りには敵がアレグ含めて十人はいる。なんと、私がさらわれた時の倍の数だ。

 五人でも苦戦してたお姉ちゃんが、この数を相手に戦えるとは思えないよ。どうするの? お姉ちゃん!

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