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落下からの生還

 だが、それは俺の油断としか言えなかった。

 気づいた時にはもう遅い。俺は後ろから背中を押されていたのだ。


「死ねっ!」


「――なっ!?」


 ふわっと宙に浮く感覚。眼下に広がる広大な土地。

 俺は崖から身を投げ出していた。


「ハッハッハ! これでお前も終わりだな!」


「くっ――!」


 即座に体を捻らせて、崖へと手を伸ばす。

 ぎりぎりで間に合ったようで、俺の片手は崖に掴まることができた。


「ほう。運はいいようだな。さすが村から選抜されただけはある」


「何の真似だ……! アレグ……!」


「ある人物から頼まれたんだよ。お前の殺害をな!」


「殺害……!? 誰が! 何のために!」


「それを言う義務が俺にあるかよ。てかさっさと落ちろや」


「ぐっ!」


 アレグは崖に掴まっている俺の手を足で踏みつける。

 次第に地面からずれていく俺の手。

 俺が完全に為す術がないと思っているらしく、アレグの表情は完璧に勝ち誇っていた。

 だが、それも事実と言える。現に俺の手はもう指でしか自分の体を支えていない。


「強いモンスターを倒すだの、世界平和を目指すだの、カッコイイことを言ってる割には弱かったなケイ!」


「……ふざけるな……! 俺は……絶対に……!」


「――じゃあな。天国で永遠にモンスターでも狩ってるんだな」


「くそっ――」


 俺の手が地面から滑り落ち、崖から真っ逆さまに転落していく。

 その様子を一瞬だけ見て、アレグは俺から目を離した。もう死亡の確認をする必要もないってことか。だけどな、それがお前の小物っぽさなんだよ!

 アレグが俺の視界から消えた瞬間、俺は剣を引き抜く。

 それからすぐに剣を崖の壁へと突き刺した。


「くっ……! 止まれぇ!」


 突き刺した剣がザザザっと壁を切り下げていく。同時に俺は足に力を入れて絶壁を引きずる。

 摩擦熱で足元が熱くなってくるが、ちょうどいい塩梅というものだ。足が寒くなってきたところだったんだ。ありがたい。

 そんな気休めの強気で耐えていた俺。数メートル落下してしまったが、俺の剣は何とか岩壁に留まってくれたようだった。


「……何とか、止まったか」


 とりあえず、死ななかったことを確認して、俺は大きく安堵する。

 だが、それも束の間だけだ。すぐに体勢を立て直して壁を登らなければ。

 俺は剣を軸にして鉄棒のように逆上がりする。体が登りきり、眼下に広大な土地が見える時に俺は剣を引き抜くのだ。

 当然、体は重力で下がってしまう。だが、頭より上に向かって剣を差し込む。


「よし、これを繰り返して!」


 サマリとアリーのことが気になるが、今は自分の生存を第一に考えないと。

 この動作を何十回か繰り返し、俺はようやく突き落とされた崖を登ることが出来たのだった。


「……ハァ……ハァ……! アレグ……!」


 俺を殺そうとした奴の名前を口ずさむ。

 俺を殺す命令をした奴……一体誰なんだ。


「……サマリとアリーは大丈夫なのか……!?」


 俺を殺す。つまり、サマリとアリーの命も危険にさらされているということだ。

 アレグが俺だけを殺して満足するとは思えない。サマリは怯えていたが、アリーはアレグに対して悪口を言っていたのだ。

 俺が諌めたと言っても、アイツがアリーを許したとは思えない。


「アリーが危ない……!」


 俺はすぐに森を駆け抜けて来た道を戻る。

 もしかしたら、サマリがアリーを守ってくれているかもしれない。魔法を使いこなせてない彼女だけど、アリーを守ろうとする気持ちにウソはない。

 草原に出た俺はサマリとアリーを探す。いつものようにサマリが冗談を言いながらアリーと戯れている姿を想像しながら必死に探していたが、その幻想は無残に崩れ去った。

 俺の目に映った光景は、血を出したサマリが地面に倒れている光景だったのだ。


「サ……サマリ!?」


 俺はすぐに大木の側へと走る。

 そして、力尽きた彼女の体をゆっくりと抱き起こしたのだ。


「そんな……サマリ……!」


「……ぐっ! ガハッ!!」


「……え?」


「……あ。後輩くん……帰ってきたんだ……ね」


 喉奥に溜まっていた血を吐き出しながら、サマリは意識を取り戻した。

 俺はすぐに彼女の傷を探し始める。手当てをしなければ。

 だが、彼女の体には血が出て来るような傷は存在しなかった。

 必死に彼女の体をまさぐっている俺に対して、彼女はいつも通りの笑顔で語りかけてくれた。


「ア……ハハ。後輩くんったら大胆なんだから……」


「バカ言ってるなよ! お前の傷を探してんだろうが!」


「安心して……。魔法で……治せたから」


「魔法だって?」


「死ぬ直前にね……魔法を使ったのよ。……剣で貫かれた直前に」


「剣で貫かれて!? 一体何があったんだよ!」


「……アリーちゃんがさらわれた。場所は『エタシェ』」


「何だと!?」


「ねえ後輩くん……。国はやっぱり村のこと……何とも思ってなかったみたい。村から選抜されてきた人たちは全員殺される運命にあるのかも……」


「……その処刑人がアレグだった。そういうことか」


 俺はサマリを地面に寝かせて、ゆらりと立ち上がる。

 サマリをこんなにし、アリーを誘拐しやがって……! 許せない!

 俺が『エタシェ』に向けて足を運ぼうとしたその時、サマリも起き上がった。

 彼女は俺から見ても無理をしているのが分かる。

 汗を垂らしながらも、彼女は俺の肩を借りてようやく立ち上がることができた。


「後輩くん……私も行くよ」


「サマリ。でも、お前……」


「無理してるって? アハハ、アリーちゃんを助けなきゃダメだもん。それに、少し魔法を使った程度だからすぐに調子も戻るよ」


「……だが、サマリの魔法くらいだと」


「足手まといって言うんでしょう? 実際その通りかもしれない。けど、ここで黙っているより、体を動かしたいの。もし、足手まといだと判断したらすぐに見捨てていいよ。私はいない物。アリーちゃんを助け出すための道具としか思わなくていい」


「サマリ……俺は何もそこまで……」


「そのくらいの覚悟がないと、私は後輩くんと一緒に行けないもの。大事な妹を助け出すための……その覚悟が私にはある」


「……いいんだな? サマリ」


「うん。一緒に行こう。後輩くん」


 彼女の目つきは真剣だ。どう説得しても彼女は付いてくるだろう。

 だったら、一緒にアリーを救いに行くしかない。

 彼女の意思を尊重し、俺は黙って頷いた。

 アレグ……! お前は絶対に俺が倒す……!

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