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怪しげな雰囲気

 サマリにアリーを任せて、俺は一人コボルトの討伐を始める。

 光が差さない森の中で、コボルトの足音を探りながら茂みを探していく。

 サマリが一緒に来なくて良かったかもしれないと、今更ながら思う。彼女は強いのかもしれないが、魔法の扱いにまだ慣れていないように見える。

 三年もギルドに所属してて、何故魔法が上達しないのだろうかとも思ったが、ギルド自体が魔法はおろか戦いの技術においてそれほど素晴らしいものを持ち合わせていない。

 国を守るために必要な技術、それも最低限のものしかギルドでは教わらないのだろうか。

 だとしたら、村で戦闘している人々の方がよっぽど凄いということなのか。

 俺はギルドでモンスターと戦うための技術を更に学べるものだと思っていたけど、それは幻想だったのだろうか。

 答えが出ないまま毎日を繰り返しているが、俺がやることは一つ。モンスターを倒し、世界に平和を取り戻すんだ。


「まあ、ユリナ隊長に腐敗の件は報告したし、後は彼女が何とかしてくれるよな」


 腐敗は俺も何とかしたいと思っているが、さすがに一兵士が動いて状況が変わるわけがない。

 ここは権力のある隊長に任せて、俺は平和への道のりを少しでも進めていこう。


「……ギルドの技術が低いことも報告した方が良かったかな」


 それよりも、目の前のモンスターだ。気を抜いている暇ではない。

 俺は木漏れ日に潜んでいたコボルトを発見し、駆け出していく。

 コボルトの対処はゴブリンとほぼ似ている、というか同じでも大丈夫だ。

 こいつらは徒党を組むと厄介になるが単体では大したことがないモンスターだ。だから、集まる前にケリをつける。


「――おらよ!」


 俺はそこにコボルトがいることを確信して剣を振う。

 茂みごと切り刻まれたコボルトは血を吹き出しながら地面に倒れ込んだ。


「後は何体だ?」


 目を光らせて、俺はコボルトの存在を知覚。

 すぐさま剣をその方向へと薙ぎ払っていく。

 ものの数秒でギルドカードより音が鳴り響いたのだった。

 それはコボルトが全滅した証拠だ。つまり、任務達成ということだ。


「ま、楽勝だったな」


 もしここにサマリがいたらどんなことになっていただろうか。

 彼女の暴走で魔法があちこちで使用され、もしかしたらこの森は焼け野原になっていたかもしれない。

 それを考えると、やはりついてこなくて良かったかなと思ってしまう。


「さてと。後はアリーと一緒に素材を探すだけか」


 今日のメインイベント。アリーと素材探しが始まる。

 そのためにここに来たのだから。素材が全て集まった時のアリーの顔を今から想像し、俺は思わずクスリと笑ってしまう。

 彼女の存在がすでに生活の一部になってしまっている自分がいる。彼女のいない生活が考えられるだろうか。

 ……い、いかんいかん。何も俺は彼女を縛り付けるために助けたんじゃない。彼女が自由に生活できるようにって助けたんだ。

 これが彼女の自立の大事な一歩目になってくれればいいんだけど。


「よし。アリーとサマリのところに行くか」


「ケイ! また会ったな」


「……アレグ、か」


 剣を鞘に収めて、草むらを踏み出そうとした瞬間にアレグに遭遇してしまった。

 彼は先ほどまでいた取り巻きとは別行動をとっているようだ。今はアレグ一人しかいない。

 サマリが言うには、コイツは村出身でギルドに所属している者にとっては死神らしい。彼の風貌、様子からは全然考えられないんだが、サマリの噂が本当ならコイツは幾つもの命を間接的に奪ってきたのだろう。

 だけど、彼を恨むのは筋違いというものか。彼が直接手を下していないのなら、だが。


「すまないが、少し手を貸してはもらえないか?」


「手を? 何でだよ。お前一人で何とかなるだろ」


「それが何ともならない相手がいてなあ! ギルドで一番強いお前に頼みたいんだよ」


「……断るって言ったら?」


「断るわけがないよなあ? モンスターを倒す。それが世界平和に繋がっていると信じているお前が」


 アレグは俺を試すように口元を歪ませた笑みを浮かべている。

 コイツ、もしかして俺を挑発している……。ここで俺が断れば、コイツは俺の信念をバカにする口実が出来上がる。

 それはアレグにアドバンテージを与えることを同じだろう。

 だったら、俺の答えは一つだけだ。不本意だが、しょうがない。


「……ったく。分かったよ」


「おお! 助かるよケイ! さすがは世界の平和を守る戦士だ!」


 わざとらしく驚いてみせているアレグ。仕草も相まって怒りを覚える。

 だが、ここで彼に怒っても意味がない。俺は渋々アレグについていく。

 彼が足を止めた場所は森の深部だった。


「ここでモンスターを発見したんだ」


「ちなみに聞いておくが、どんなモンスターだよ」


「あ? ああ……。トロールだ。しかも百体もいる」


「百体か……」


「どうした? さすがのお前も百体は無理なのか?」


「いや……少し疲れるなと思って」


 アレグの言うことが本当だとしたら、どこに隠れているのだろう。

 百体という数字は大きいが、トロールならそれほど驚異的でもない。奴らは図体が大きいので取り囲まれても精々六体程度にしかならないのだ。

 数の暴力はゴブリンやコボルトの方が大きい。こいつらは人と同じ大きさなので取り囲まれたら一気に数十体を相手にしなければならないからな。しかも、多少の犠牲は無視するのが奴らだ。一斉に攻撃して仲間に危害が加わってしまうのではないかという不安が、こいつらにはない。

 玉砕覚悟の攻撃が、ゴブリンやコボルトの短所でもあり長所でもあるのだ。


「そこの奥を見てくれ。トロールが作戦会議をしているはずだ」


「何?」


 アレグが指差す先。そこは茂みでよく見えない。

 仮にトロールが会議しているなら耳に入ってくるはずだが、俺には聞こえない。

 地面に文字でも書いて会議しているのだろうか。それなら周囲に聞かれないで済むが……トロールにそんな知能があるとは思えない。

 もしかして新種か? アレグの言葉を一応信用して俺は茂みの奥へと歩み出す。

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