※お姉ちゃんの足りない記憶?
けーくんが私とサマリお姉ちゃんから離れていく。
目的はコボルトの退治だ。けーくんも真面目なんだから。依頼を果たせなかったってことにしちゃいけないのかな?
「さてと。後輩くんが戻ってくるまで木陰で休んでよっか?」
「こかげ?」
「うーんと……あ、あそこがいいな」
サマリお姉ちゃんが指差した場所。そこはここからそう遠くない場所だ。
けーくんにここにいるようにって言われてるんだけど、それはいいのかな?
「ねえ、サマリお姉ちゃん」
「何かな?」
「ここにいなくても大丈夫なの?」
「ちょっとくらい離れても後輩くんなら文句は言わないって。ここにずっと立ってるのも疲れるでしょう? それに、そんなに離れてないし、後輩くんが見えたら私たちの方から駆けつければ問題なしよ!」
「……うーん。そーかなー?」
「ま、ここはサマリお姉ちゃんに任せておきなさいって!」
お姉ちゃんがそう言うならいいかな。サマリお姉ちゃんが言ってることも一理あるし。
だから、私は彼女と手を繋いで近くの木陰へと移動した。
木陰に着いて早速地面に座り込んだお姉ちゃんは、私にも同じく座るよう言ってきた。別に断る理由もないし、私はそれに従う。
爽やかな風が私の髪を撫でてくれる。そして、木々のざわめきは私の心を安心で満たしてくれる。
とっても平和な感じで、うとうとしてしまいそう。きっと朝早く起きたからだねー。まぶたが重くなってきたよ……。
「ふふっ。ほら、気持ちが良いでしょ? 木陰ってのも」
「……ん。そーだね」
「……アリーちゃんが喋ってくれて本当に良かった」
「ごめんなさいサマリお姉ちゃん。本当は最初から――」
「分かってたわよそのくらい。なんたってお姉さんだからね」
「えへへ、バレちゃってたんだね」
「カッコ良かったんだ? 後輩くん」
「うん! だから、喋る時はけーくんが最初にって思って!」
「ま……確かにあんなに簡単にバッタバッタとモンスターを倒せる人はいないからね」
「ねえ、サマリお姉ちゃんはけーくんのことどう思ってるの?」
「……好き。ってわけじゃないと思う。だけどなんだろうね、複雑な感じ。好きなのかなあ……むう……」
サマリお姉ちゃんは考え込んでしまった。
好き? なら私のライバルってことになるの?
うーん……もしそうならどうしよう。サマリお姉ちゃんも大切だし、けーくんも大事な人。どっちか私に選べるのかな。
「ま、今は単なる後輩くんってところかな私は。アリーちゃんは好きなの?」
「大好きっ!! だって、私を助けてくれたから!」
「……いいなあアリーちゃんは。私もアリーちゃんの頃に戻りたいよ」
「ねえ、サマリお姉ちゃんが私の頃はどんな感じだったの?」
「ん? 私はね……」
そこまで言って、お姉ちゃんは口をつぐんでしまった。それはお姉ちゃん自身もわけが分からないと言ったような感じで困惑している。
それから、お姉ちゃんは人差し指を額に当ててうんうんとうなり始めた。
「ちょ、ちょっと待ってねアリーちゃん。今思い出してるから……」
「うん!」
「えーっと、私がアリーちゃんくらいの頃はっと……」
でも、お姉ちゃんがいくら考えても思い出せないようで、苦笑いをしてごまかし始めた。
「ア、アハハ。ごめんアリーちゃん! ど忘れしちゃった!」
「もー、サマリお姉ちゃん! ちゃんと覚えててよね!」
「いやー私も年だからねー! 数年前の記憶はもう天国へ出荷されちゃったのかなー? 困ったなー」
年って、見た感じお姉ちゃんはまだ若いよ!
いつも通りのいい加減なお姉ちゃんで別にいいけど、子どもの時の記憶くらい覚えててほしいよね。
「じゃあさ。アリーちゃんが旅団にいた時の話、お姉ちゃん聞きたいなー」
「むー、私ばっかり話すことになるー」
「ほら、今まで話せてなかった借金をここで返済するって感じでさ!」
「……分かったよ。けーくんに話す前にお姉ちゃんに話して自分の記憶をまとめる」
「そうそう! 私を練習台と思って!」
「じゃあ、何から話そうかなー」
「その話、俺たちも混ぜてくれよ」
「はっ?」
私とサマリお姉ちゃんしか聞こえないはずの声。だけど、異物が紛れ込んできた。
サマリお姉ちゃんは声のする方向に顔を向けて、表情を強張らせた。
それはさっき出会ったアレグの取り巻きだった。ただし、アレグはいない。その取り巻きの数人が私たちに近づいてきていたのだ。




