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素材集め開始……の前に邪魔者登場!

 俺たちがわざわざギルドの依頼を受注した理由。それは通行にあった。

 ギルド商会ではギルドの依頼を受注し、現場へと向かう時に馬車という『足』を用意してくれる。

 これは商会側が手当としているものであり、俺たちギルド兵士が支払うものは何もない。つまり、そこまで移動する費用を節約したということだ。

 逆に自分たちで移動するとなると費用がかかってしまう。まずは馬車という『足』を購入しなければならない。それには莫大なお金が必要になるだろう。しかも、馬車を操作できる人も雇わなければならない。

 馬車がなくても歩いていけばいいと思う人もいるかもしれない。だけど、この世界で歩いて移動するということは自殺行為に等しい。旅団や盗賊団という例外もあるが、旅団だって巨大な馬車を使って移動しているし、盗賊団はそもそもそのようなリスクを考えないならず者たちだ。

 だから、この世界では戦えるものと同じように馬車を使いこなせる人物も重宝されている。

 まあ、狡い感じもするけど、同時にモンスターを退治してみんなの役に立てるなら良いかなと思う。


 そういうわけで、俺たちは無事にランヴァへと到着することが出来たのだった。

 ランヴァは村のように人が住んでいる所ではない。ただの広い土地だ。

 だけど、ここは一種の観光名所になるほど有名なところ……らしい。移動中暇だった俺が読んでいた観光ガイドにそう書いてあった。

 ここはヴィクターが言ったとおり、モンスターが少なく国にいる人たちが自然を堪能できる場所なのだ。

 ただ、安全というわけではない。一歩踏み間違えてしまえば真っ逆さまの断崖絶壁、そして弱いながらも存在しているモンスター。

 国の人たちがここに来る時はギルドの人間を雇って用心棒とするらしい。でなければ生きるか死ぬかのスリルを味わえるということだが……。


「どうだアリー。結構凄い場所だろう?」


「……うーん。旅団にいた時に色々と景色を見てきたからあまり感動はしないかなー」


「そっか。そう言えばアリーは大勢で旅をしてたんだもんな」


「うん。でもね、けーくんと一緒にこういう場所に行けるのはとっても嬉しい!」


「さて後輩くん。さっさとコボルトを狩ろうじゃないの!」


「それもそうだな。任務を早めに終わらせてアリーと素材を集めるか」


「ほら、この前みたいにコボルトがどこにいるか教えてよ!」


「え?」


「出来ないの? だってゴブリンの足音に気づいてたじゃん」


「あのな、俺はそんなに万能な能力を持ってないんだから……」


「なーんだ。千里眼じゃないのかー。がっかり」


「まったく……。とりあえず歩くか。アリー、絶対に俺たちから離れるなよ」


「うん! 絶対にけーくんから離れない!」


 アリーは俺の服を掴んで離さない。うん、確かにこれなら離れられないね。でも、戦えないぞこれじゃ。

 それはモンスターが来てから言えばいいか。


 俺たちは今回の標的であるコボルトの捜索を始める。依頼によると最近出没してきて観光に支障をきたすため退治してほしいという旨だ。

 なら、すぐに見つかりそうなものだけど……。

 俺は自分を含めた三人の足音を除外して耳を澄まし、コボルトの気配を探る。

 俺の表情が珍しいのか、アリーは尊敬の眼差しで俺を見上げている。


「凄く真剣だね、けーくん」


「まあな。コボルトを探さなくちゃいけないから」


「分かるの?」


「足音で何となくね」


「へー! 凄いねけーくん!」


「……耳が良いはずの奴が一人ここにいるはずなんだけどなあ」


「それって私のことを言ってるのかな後輩くん」


「お前以外に誰がいるんだよ」


「何でそう思うのかな?」


「狼の獣人族だろうがお前は。どうして俺より耳が悪いんだよ」


「ふふーん。その理由はただ一つ! 獣人族であり、獣じゃないからよ!」


「つまり……退化してんのか」


「退化じゃない! これは進化よ! より強いものに適合するために人と化した私たち! それが獣人族なんだから!」


「ああ。そう……」


 何とももったいない進化だろう。

 でも、サマリの一族は人間が一番強いものだと判断して進化したようだ。人間はそこまで強い種族なのだろうか。

 俺としては、ユニコーンや精霊とかの方が強そうに思えるのだが。まあ、どちらも見たことのない種族だし本当に人間が一番強いのかもしれない。

 そんなことを考えあぐねていると、俺たちはある集団と出会った。

 それは同じギルドの兵士のようだ。ただ、人相は悪いが。

 その集団の中で一番俺たちを見下している人物が声を出した。


「久しぶりだな。田舎者どもよ」


「……え?」


「とぼけても無駄だ」


 俺より高い身長を誇るその人物。いくつもの戦いを繰り広げてきたと推測できる鎧の汚れ具合。

 そして、血に彩られた双剣。

 ……あ。そういえばそんなやつがいたなあ。確か、アリーに始めてパンを買いに行った時に会った人物だったか。

 あの時、アリーのパンを取り上げようとした時の彼女の物欲しそうにしてた顔はちょっと可愛いと思った。

 あれで俺は彼女がパン好きだという事実に気づくことができたんだったな。でも、もうアリーとは言葉を交わすことができる。これから彼女の口から好みや嫌いなものを聞けるんだなあ。

 俺はここでようやく思い出すことができた。つい数日前なのに、もはや数週間前の記憶のような感じだな。しばらく会ってなかったらこうなるのか? それとも俺の記憶力が低下してしまった?

 それにしても嫌なヤツに出会ってしまった。せっかくアリーと一緒に素材集めに没頭できるなと思っていたところにコイツか。

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