パトロール再開!
一歩でも村の外に出ると、モンスターが餌を求めてうろついている姿が確認できる。
それはコボルトのような弱いモンスターだったり、ドラゴンのような強いモンスターもいて多種多様だ。
まあ、気候等の条件によって生息しているモンスターも若干は変化しているようだけど、モンスターの大半は餌が多く集まる場所を好む。そう、餌は人間だ。
いくら俺たちが抵抗しているからといって犠牲は0じゃない。度々犠牲者がでてしまうことがある。
その犠牲者を求めるため、モンスターは村の周辺をうろついているということだ。
逆に、村から離れれば、ある一点を除けば意外と旅は快適に進むのだという。モンスターも世界中を歩き回って餌を探すのは嫌らしい。
だが、何故モンスターは一気に村を襲わないのだろうか。
そんなことを考えていた俺はある日一つの仮説を立てた。
もしかして、ここはモンスターにとっての養殖場なのではないか。養殖場だとすれば、乱獲してしまえばそのうち餌に困ってしまうのは自分たちだ。
なら、適度にいじめて出てきた人間を食べる。そうすることが人間という餌が最低限生きていられる環境を作り出している。
たまに村を襲ってくるモンスターは、いわば空腹に耐えられないモンスターで盗み食いをするってところか。
……だとしたら、俺たちは全てモンスターの手のひらの中にあるということか。
面白い……。だったらそれを壊してやる。
単なる食料じゃないってこと、証明してみせる。
「さて……村に近づくモンスターはいないかな……と」
新たな決意を固めた俺は、村の平和を守るためモンスターの捜索を続ける。
と言っても、さっき俺がモンスターを退治してたから早々いるとは思えないが……。
「くっ! コイツ……!!」
その時、森の奥から苦戦している声色が鳴り響いた。
あの声は先輩……!
俺は一目散にそこへと駆けつける。
先輩はウェーブがかった髪の毛をなびかせつつ、弓を構えて、矢を上空へと放っていた。
先輩は俺にとって大切な人だ。親をモンスターに殺された俺は、彼女の家に居候している。
そんな俺に戦い方を教えてくれたのも先輩だ。
こういう言い方は失礼かもしれないけど、女の子の中でもかなりの強さを誇っている。
華奢な体を生かした機敏な動きと弓矢のコンボ。あまりに大きすぎる敵には通用しないこともあるけど、大抵の小さなモンスターは先輩に任せておけば安心だ。
俺は空を見上げて悔しそうな顔を見せている先輩に話しかけた。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「ケイか! 助かる……! 五体のドラゴンが襲ってきてるんだ!」
「五体……ですか」
「……やれるか? ケイ」
「仕方ないですね、三体だけですよ。二体はちゃんと仕留めて下さいよ、先輩!」
「……ああ!」
俺が来たことで勝利を確信したのだろう先輩は、ニコッと笑うと再び上空に向かって弓矢を放った。
同時に俺は剣を引き抜き、臨戦態勢に入る。まずはドラゴンと同じ目線に立つため、近くの大木へと跳躍しててっぺんまで登る。
「来いよドラゴン……! 面倒だからまとめてかかってこい」
俺の挑発に乗ったのか、ドラゴンは編隊をなして同時に襲い掛かってくる。
森がざわめき、弱い木々はへし折れていく。
俺はそんな強風に負けず、向かってきたドラゴンの頭部へと飛び乗った。
「っと! 乗ったらもうこっちのもんだ!」
今まで見上げることでしか見れなかった景色が見える。
でも、俺はそんな美しい景色に目もくれずにドラゴンの首を剣で真っ二つにしたのだった。
「まずは一体!」
一年目は乗るだけで精一杯だったのが、十年も経てばこうしてルーチンワークのように簡単に作業をこなすことができる。
ドラゴンの首を掻っ切るのだって、三年目でやっと習得した技だ。
意識を失った一体のドラゴンは意思を失って地面へと落ちていく。だが、俺はそれまでに二体目へと飛び乗る。
いきなり仲間の首が小人に切断されたら、たまらないだろう。
ドラゴンは俺を仇討ちするために接近してくるのだ。その瞬間を、逃さない。
「――二体目!」
すでに首筋に剣を当てて、俺は三体目のドラゴンを目に焼き付ける。
よし、あそこだな。すぐさま首を切断して、三体目に飛び乗る。
少し遠い距離だけど、造作もない。
こんなのが日常茶飯事だと、慣れてしまうというものだ。
「三体目! これで、俺の分は終わり!」
三体目のドラゴンの首を撥ねて、俺の戦いは終わる。
脳を失ったドラゴンの胴体は力なく地面へと落下していった。
砂埃が舞う中、俺はジャンプして地面に着地する。
とりあえず、これで三日分の食料には困らないだろう……。
討伐したモンスターは村の食料になる。
けど、正直に言ってあまりおいしくない。ただ両面を焼いて塩をかけただけじゃ三日で嫌になるだろう。
だから本当はモンスターの肉なんか食べたくないけど、そんな贅沢を言っているほど村は裕福じゃない。
逆に、村はこうしたモンスターを食べることから様々な工夫を凝らした料理が生まれてくることが多いという。
そして、それは村の名物として定着し、評判が広がれば遠方からわざわざ危険を冒して食べにくる人も来るらしい。
とにかく、他のモンスターに取られない内に食べられる部分だけを剥ぎ取っておかなければ。
「先輩、剥ぎ取りしましょう。ドラゴンの肉はまだ食べれますから」
「ああ。そうだな。でも、今日は多く仕留めたし、細かく剥ぎ取る必要はないだろう」
「まあそうですね。美味しい部分だけを剥ぎ取りますか」
俺は再び剣を抜いて、死亡したドラゴンに近づいて肉を剥ぎ取るのだった。
村の危機を救い、食料を手に入れたのならもう森に用事はない。
ただでさえモンスターがはびこっていて、気の休まるところがない空間にさすがの俺も何時間もいられない。
今は森を抜けて村に着き、先輩と剥ぎ取った肉を折半して持ち運んでいる。
特に会話はいらないと思っていたけど、先輩は俺に話しかけてくれた。
「ところでケイ。村長から話は聞いたのか?」
「国の護衛隊に選抜されたって話ですか? 聞きましたけど」
「やはり、行くのか?」
「ええ。村に資金を提供してくれるって村長は言ってましたし、国に選ばれたってのは嬉しいですから……」
「……そうか」
「どうしたんですか? 歯切れが悪いですよ、先輩」
「いや……ケイが選抜されたのは私も嬉しい。だが、今まで自国の警備だけで他に無関心だった国が村を援助するとは……少しきな臭いものを感じてな」
「先輩の考え過ぎですよ。国の考え方が変わったんです。これからは村と国が助け合い。そういう時代になったんですよ」
「なら……良いんだけどな」
「暗い話は止めにして、何か楽しい話でもしましょうよ。明日には俺、居なくなるんですから」
「ふむ……それもそうだな」
そう言うと、先輩は唐突にニヤニヤと笑い始めたのだった。
彼女は何か良からぬことを考えてそうだけど……。
「時にケイ。彼女は出来たのかな?」
「え!? か、彼女ですか?」
「んー? その年なら、彼女の一人や二人出来ててもおかしくないだろう?」
「か、彼女は一人だけですって! 二股はマズいですって」
先輩は俺の真面目な性格をいつもからかっている。
居候してから、これが毎日続いているからもう慣れたけど、時々あたふたしてしまうこともある。
でも、それもしばらくは会えなくなるんだなあ。先輩とも……。
先輩は俺に近づいて、肩を寄せ合う。
そのせいで、彼女の豊満な胸が俺の腕にあたってしまう。
ちょっと恥ずかしいけど、こういうことを何度もやられたら人間は慣れるというもの。
俺はいつも通りのからかいだと思って呆れた顔をしていた。
「で、どうなんだケイ? 好きな人はいるのか?」
「そんなに気になるんですか?」
「ああ。気になる」
「今はいませんよ。彼女……」
「ほう」
「そんな彼女にかまけてる暇があるなら、モンスターの五十体くらいは倒しますよ」
「……なんだ、つまらない男だな君は」
「俺が動けば動くほど、村は平和に近づくんです。体力が持てば、一日中モンスターを狩りたいところですよ」
「そんなんだと、一生彼女出来ないぞケイ……」
すっかり先輩に呆れられている俺。
でも事実だ。村を守っているのは俺一人じゃないけど、サボってたら被害が増えるだけ。
なら、戦いに行かないといけないじゃないか。
そりゃ、男の子だから女の子に興味はあるけどさ……。
「……まあいい。明日の朝は早いんだろう?」
「どうなんでしょう? 国と村との距離がどれくらいか分かりませんからね……」
「旅は夜明けの方がいい。朝が完全に明けるとモンスターが起き出し、夜中だと逆に活発化するモンスターだっている。なら、村を出る時間は自ずと決まってくる」
「そうですか。なら、今日は早く眠った方がいいですね。ありがとうございます先輩」
「なあケイ。パーティしないのか?」
「しないですけど……それが?」
「いや、つまらないと思わないのか?」
「それ、先輩が何かにかこつけてただお酒飲みたいだけじゃないですか」
「……うむぅ。バレてしまったか」
「何十年先輩の家に俺が居候させてもらってると思ってるんですか。バレバレですよ」
「それも、今日で一応の終わりか」
「そうなりますね」
「……あの時はすまなかった。君の両親を守れなかったのは……」
「先輩が謝る必要はないです。悪いのはこの村周辺のモンスターなんですから。だから、俺は先輩を恨んだりしてません」
「そう言ってもらえると、少し心が軽くなるよ。ありがとう」
その時に微笑んだ先輩の表情は、今まで見た中で一番内面を映し出していた表情だと思った。