素敵な報酬
その後、モンスターの増援が来ることはなかった。眠気もピークになっていて焦燥しきった表情の俺と一人のギルド兵。
だが、なぜだか晴れやかな気持ちには違いなかった。
それは疲れた表情のギルド兵にも言えることで、無意識に顔が合うと俺たちはフッと笑ってしまった。
「どうだ? こういうのも悪くないだろ?」
「……そうかもな。もっとお前のような人間に早く会いたかったよ」
「今からでも遅くないさ。俺たちで世界の平和を守ろうぜ」
「世界の平和か……。大きく出たなお前」
「いや、大きくないって。世界の人々が同じことを願えばそれは小さなことに変わる。実現できるんだよ」
「……お前、そう言えば名前を聞いてなかったな」
「ケイ。俺の名前はケイって言うんだ」
「そうか。覚えておく。俺の名前はイリヤだ。助けが欲しかったらいつでも言ってくれ。近くだったら駆けつける」
「ああ!!」
イリヤと名乗ったギルドの兵士と友情が生まれ、俺のこの村での任務は終了を告げた。
村を出ていく時、村長含め、村人全員が俺に感謝をしてくれた。少し気恥ずかしさがあったけど嬉しかった。
あの一緒にお花摘みにいった女の子に泣きつかれたことは少し心を痛めたが、この村の平和だけを守るのが俺の仕事じゃない。他にもモンスターの存在に怯えている人々を救うのがギルドの使命なのだから。
これからもたくさんの人を俺がいた村のような笑顔にしていきたい。最初は村の資金を増やすために国へとやって来た俺だけど、何となくこれからの道が出来上がってきているような気がしていた。
イリヤ以外のギルド兵は俺にさりげない悪態をつきながら、さっさと撤退をしていく。腐敗しているギルドの兵士。この事をどうするか……。
……そうだ。ユリナ隊長に報告書を提出するんだった。これに今の現状を書き記しておこう。
隊長は国にいるだけだから外の現状が分かっていないんだ。彼女も全てを千里眼で見ているわけじゃない。把握できないことだってあるはずだ。
「……そうか。だから俺たちのような村人を選抜しているのかもしれない」
それなら隊長の配慮は素晴らしいと思う。隊長が選抜……正確にはヴィクターが選抜しているんだが、この選抜の意味はこれだったんだ。
さすが隊長だ。自らで把握できない状況を外の人間に報告させる。そういうことでより客観的な意見を聞くことができる。
「よし。とにかく報告書だ。早く帰ってユリナ隊長に見せないと」
そうとなれば早い。俺はすぐに国に戻ってギルド商会へと向かった。
この前のサマリがやっていた通りに、俺はギルドカードを受付に渡す。受付は俺の任務を受注してくれた人と同じだ。
少し冷や汗を垂らしている彼女は俺からギルドカードを手渡されて魔法を唱えていく。
「……え? あ、あの……!!」
ギルドカードの情報を読み取ったであろう彼女はとっても困惑している。
それから、先輩と思わしき人物の方へと走り、ギルドカードを見せていた。
「あの! これ、間違いないんですよね!?」
「えー? ギルドカードの故障? んなわけないと思うけど……」
他の仕事もあるのに……。そんな表情で面倒くさそうに俺のギルドカードを手に取った先輩の受付も、先と同じ呪文を唱えていく。そして、先と同じ驚きに満ちた表情をした。
「……は?」
「ねっ? ねっ?」
「……分かったわ。とりあえず……」
先輩も態度を変えて、俺に近寄ってくる。そして、営業スマイルをしながら質問をしてきたのだ。
「申し訳ございません。少しギルドカードの調子が悪いようでして……」
「え? そうなんですか?」
「はい。あのう……恐縮ですが、倒したモンスターはトロール八体ではないですよね?」
「八体ですよ? しかもトロールを。それが何か?」
「あのー……本当に?」
「ええ。本当に」
「嘘を仰っておりませんか?」
「そいつは嘘を言ってないぜ」
「あ。イリヤさん……」
「俺はこの目で見た。こいつは本物だ」
困惑しているギルドの受付。そして、疑われている俺を救うイリヤの姿がそこにあった。
ギルドの受付はイリヤに対して親近感を持っているようだ。『さん』付けで彼を呼んだ受付は彼の言葉に驚きを表現している。
俺より遅れて帰還してきたイリヤは俺がちゃんとトロールを倒したことを証言してくれたのだ。
イリヤはずっとトロール退治をするために村に滞在していた。その彼が言うのだから間違いないはずだ。
そう判断しただろう受付たちは、ギルドカードの故障を否定した。
「大変申し訳ございません。こちらが報酬金となっております」
「あ、ああ。どうも……」
受付の女性は報酬金として布袋を手渡してくれた。ジャリジャリと金のなる音がしながら、袋の中はうごめいている。
袋の膨らみ具合から、大量のお金が入っていることだろう。
俺は若干引き気味になりながらも報酬金を頂いた。まさか、トロールを退治するだけでこんなにもらえるなんて……。
卑しいと思いながら、俺は袋の中身を確認する。するとどうだ。金貨と銀貨がザックザクじゃないか。
「え? こんなにもらえんの……」
受付の前でタメ口になってしまうほど、今の俺は動揺している。
どの動揺を抑えてくれるように、イリヤが茶化し始めた。
「そりゃそうだろ。ケイ。お前はこの国の最難関の任務をこなしたんだからな」
「最難関……か」
村では日常茶飯事だったモンスター退治。
けど、国のギルドではそれすらも死線になるのかもしれない。
もしかすると、ギルドの戦闘技術は遅れているのだろうか。
「どうした? 何かあったかケイ?」
「いや、なんでもない。ありがとなイリヤ」
「気にするなよこの程度」
俺はイリヤに礼を言って、近くにある机と椅子に座り込む。




